ZO-R1の過去 前編

ZO-R1の過去


昔、ある村に平和に暮らしていた部族がいた。 彼らは決して裕福ではない。 ある王族に認められて、守ってもらっていた。 


ある日、一人の貴婦人が連れのモノと一緒に穀物や肉をもらいにやって来た。 

男は、それをさばいて、おつきのモノに背負わせた。

女が着ている服は彼らのそれよりも立派なものだった。その女は横に子供を連れていた。 

どちらの子も母親から離れず、珍しそうに黒い衣装に身を包む彼を見ている。


貴婦人はお金を渡そうとして、さばいた男は手を差し出したが、その手が触れそうになってか、慌てて手を引き上げると、硬貨を地面へと投げ捨てた。



「ふん。汚らわしい。 私に触ろうとしたの? 」


女が使いのモノに目をやると、食材を背負ったまま男の膝下をけり崩した。


さらに顔面に蹴りを入れる。



「まったく。 良い? あなたたち。 こんな薄汚い連中にかかわってはダメよ。 これこそ人間の成底ないなんだから。 本当に醜い」


 

 そう、子供たちに伝えると女たちは去っていった。 


 子供の一人は心配そうに地面に倒れる男を見て去った。




「父さん!」



 一人の子供が倒れる男にかけよる



「リビア。 えらいな。 大丈夫だったか?」



 彼もまた黒い衣装に身を包む。 


「うん。 父さんが何があっても出てくるなって言ってたから」


「ほらほら。 お父さんは何ともないから、もう泣くな。 さぁ、母さんとリナの元へ戻ろう」



 ここは黒の民。 決して裕福ではなかった、移動部族が住む小さな村だった。



 彼らの住む少し先に境界線があり、また他の部族が縄張りを引いている。


 彼らとは決して好意的に交わることはなかった。彼らは彼らで弱肉強食の世界を少数で生き抜いてきた部族だからだ。 


 ジャニワ族。 黒の民より800程数が多く、その戦闘力はすさまじかった。他の国が攻撃しないのも、それは彼らのその攻撃性にあった。 


 彼らは決して他のモノを受け入れたりはしない。 利害関係だけしかなく、仲間に何かあれば必ず報復しに来る。 そんな部族でもあった。


 黒の民とは全くの真逆である。 


 しかしそんなジャニワ族とも貿易をする中であった。 それは、彼らをまとめた国があったからだ。



「家でおとなしくしてなさい。 父さんはこれから、大臣様にあってくる」



 そうしてリビアの父は出て行った。 



 突いた先は、小城。 王国のモノがここ一帯を監視するために建ててある一つである。 


 それにしたってこの中には軍隊が何百程暮らしてる。もちろん民もいる。



「奉行様。 今度もまた。ジャニワ族との交渉を取り付けてまいりました。

 今まで通りに従い、異国の侵入には手を貸すと。 これまでの友好関係を望んでおりました。

 しかし、徴収の割り増しに関しまして不満が出ており、そこはいささか問題になるやもしれません」



「そうか、構わん。 よくやってくれた。 ジュビドー。

 彼らにはこう話せ。 その代わりに、絹や布の上等なものを進呈するとな」



「かしこまりました」


 ジュビドーは深々と頭を下げた。 



 奉行は長い髭をなでおろす。 


「して、ジュビドーよ。 お主ここ最近で何かいざこぞを聞いたことはないか?」 



ジュビドーは頭をかしげた。


「そのような事は一度も。 皆は平和に暮らしております」


 そうかと奉行は言う。


「ところで奉行様。 あの約束いつはたしていただけるのでしょうか? もう何年も言う通りに交渉してまいりましたが、今だ我が村へ豊富になるよう苗や食料など、蓄えになるものをお送りいただける約束がいただけていません。


 また私をこちらの国の役職に就かせていただけると」



「まぁ、まて。 そう急ぐな。 大きな国ともなると、そう簡単にわしだけで事を動かせる話ではない。 その手はずは取っている。 しばらく待て 」



 ジュビドーは納得がいかなかった。 


「それにな、気の待てないやつが役職など勤まると思うな。 お前はわしの見込み違いか?」



 その言葉には猛反対した。 



「なら、わしを信じて待て。 いいな」


 返ってくる言葉には、はい。としか返す事はできない。


 反抗するものなら、この話は簡単に消されるだろう。もう何年と、命がけでジャニワ族と無茶な交渉をしてきたというのに。


 これも家族や、村の為とジュビドーは歯を食いしばった。



「して、ジュビドーよ、また交渉を頼みたい」


 またですか!? と言いたかった。 交渉など4、5か月に一度ぐらいなものだった。 


それ以外は様子見程度の立ち寄り。


「奉行様! それはいささか危険かと。 先ほど交渉してきたばかりでございまして、 また何かつけようものなら」



「まだ話は終わっておらん。 近々の事だ。 近くの道でジャニワ族の死体が見つかってな。 どこの輩が殺したのかわからんが、何者かに切られていた。 残りの仲間であろうもの達は、近くの森に倒れていた」



 ジュビドーは目を丸くする。


「奉行様、 それは……」


「わかっておる。我々の敷地内で見つかったんだ。 こんな事が先に彼らに知れたら、奴らに国が攻められかねない。 そんなことは何としても阻止せねばならない。 なんせ奴らは武術の達人。大惨事だ」



 ジュビドーは息をのむ。あらかたそれを告げに行けとでもいうのだろう。 

 そんなことを下手に口走ればその場で殺されかねない。黒の民たちも


「そこでだ、此度のことを彼らに告げてきてほしい」



 やはり来た。



「何、心配するな。内容はこちらで考えてある。 お前は、ケルトレイスの兵が殺すのを見たと言えばいい」



「しかし、もし彼らの怒りを買えば」


「案ずるな! 現にケルトレイスの兵が、この辺り近辺で戦をしているのだ。

 ばれる訳があるまい。 我々はその間に犯人を捜すゆえ」


 ジュビドーは心配で仕方がなかったが、やるほかなかった。 



 次の日、ジュビドーは仕事に向かうと言って言いつけを守った。


 ジャニワ族の村は、それは威圧してくるよな態度の輩が多い。かと言うとそうでもない。 人々はジュビドーが来るとまるで、嬉しそうに集まってきては円を作った。 


 ジュビドーは語りが上手かった。 人々は笑いにあふれ、冗談が彼らとコミュニケーションを図った。 


 だが、その延長で死体のことを口にすると、辺りの空気は一瞬で変わる。


 冷たく、今にも彼らに殺されそうな空気に飲まれまいと、笑顔を絶やさない。


「それは本当か? 冗談だよな」


 村の一人のモノが、威圧した態度で聞く


「いや、見たんだ。 この目で、ケントレイスの兵がその場から去っていくところを」


 村は沈黙に包まれた。

 ジュビドーは思った。 殺される。


「嘘だったらただじゃおかねぇ。俺たちのことはお前たちお国さんが一番よく知っているだろ。 俺たちは仲間ではない。 嘘は我々の報復が降り注ぐと思え」




 奉行が言った、絹などの調達の条件が気に召していたから殺されずにすんだのか。胸をなでおろりしてジュビドーは村に帰った。 





 ある日のことだった。山菜を取りに行っていたリビアは、ジャニワ族が走っていくのを見た。

 それからリビアが光を目にして村に帰ると、村は燃えて、民は皆殺にされてた。


 見せしめのように、串刺しにされ、口から杭が飛び出す死体が、いくつも立てられていた。 



 リビアは必死で家族を探した。 


 母さん。父さん! リナ!


 家族もまた串刺しにされていた。 


 母さん、リナ。 

 彼らは何もしていない。 どこかの国を責めたことも、また、誰かを殺したことも。 黒の民は温厚で、また守ってもらう存在であった。


 それゆえに、責められればそれほどの力を持たない。 


 いったい誰が、どうしてこんな酷い事を。

 リビアは泣き崩れた。 


 そこにはジャニワ族の着る布が落ちていた。




 リビアはただ一人の黒の民となった。



 この事はさっそく奉行へと報告に行った。

 


「どうにかして、お力添えをください。 我々は戦いは好みません。しかしわれらの民を殺されては話は別です。 あなた方の国の民が根絶やしにされたんですよ」


 少年は今にも攻め滅ぼしてほしいといった顔をしている。



「気持ちは痛いほどわかる。 私も同じ思いよ。 私の大切な村を焼き討ちにされたのだからな」


「では……」


「しかしなリビアよ。 悲しいかな、世界は自分の私情だけで動くことを良しとはしない。


 気持ちは痛いほどわかっている。 私もお前と同じ思いだ。今すぐにでも事を起こせるなら天誅をくだしたい。 

 しかしすぐには無理なのだ。 わかってくれ。リビア。 こらえるのだ。

 大人になるときよ」


 リビアは黙った。 これ以上言っても事は起きないだろう。


 だが、煮え切った腹の虫は収まらない

 

「今すぐでなくても、約束してください。 必ず、敵を討つと」


「あぁ、約束しよう」


 話は終わった。だがリビアは出ていこうとはしなかった。


「どうした? 

 あぁ、そうか、お前には住むところがないのだな」


 奉行は側近の兵を呼ぶと、リビアをここに住まわせるので、住居を与えろと言い、案内させた。 



 行きついた先は家畜小屋だった。 

 そこで寝ろと言う。 リビアはただ従うしかなかった。 


 においの酷さ。 隙間だらけで風は入る。 藁だけが救いだった。

 そうして彼は野心だけに、弓の稽古を一人隠れて行った。



 戦えないことはこの世界で生きてはいけないから。


 そんなある日、奉行の言付けに失敗してしまったリビアは、ごく一部の兵士に目を付けられ、虐待されるようになった。 


 それはこっそりと行われたが、ほとんどのモノが知っているのだろう。顔や手足があざだらけだったから。 


 だがそれを聞くものなどいない。 そうして日常を過ごす。 こっそりと虐待する兵士を殺そうと思えば殺せた。 だが、殺せなかった。


 ここで兵を殺せば、この国中を一人で相手にすることになるからだ。 


 自分の言葉など信じてはもらえないだろう。 黒の民である自分は。


 そんな生活を9年と続けたある日、彼は奉行たちの会話をこっそりと聞く機会に出くわした。 



「また、ジャニワ族か! 困ったものだ、 あの小汚い黒の民のジュビドー。 あいつがいなくなってからと言うもの交渉、交渉でややこしい」



「いっそ潰してしまってはいかがなのです」



「ならん。奴らは武力の達人ぞ。 それに潰せば潰すで、盾がなくなってしまう。

 わしだって潰したいのは山々だ。あんな野蛮な下種どもなど」


「やはり、ジャニワ族の殺害の罪を黒の民に着せない方がよかったのでは……」


「あぁでもせねば、奴らの怒りは収まらんわ。  あいつらめ、しっかりと仲間の死体を探し調査しておった。


 黒の民がやったように隠蔽しなければ、我が国が襲われておったわ。


 それに奴らも、我が国の為に死ねて本望だろう。 あんな者たち、生きていることほど見苦しい。 弱い寄生虫共目が」



 リビアは持っていたものを落とした。


「誰じゃ!!!」


 奉行たちは不味い話を聞かれたと、部屋中を探し回った。


 リビアは鍛えていた身体能力を使いうまく身を隠すと、奉行の部屋へと忍び込んだ。

 城中は奉行が声を荒げたことで混乱している為、誰もいない。


 そこで一つの書記ならぬ奉行の記録を見つけた。




 そこにはこう書かれていた。


 王はジャニワ族と別で何らかの交渉をしていた。 しかし、言い争いの末、怒った王は彼らを逆上して皆殺しにしてしまったらしい。

 逃げた者達もだ。 その後の始末を我に頼まれた。 しかし、ジャニワ族は侮れるものではなかく、嘘を装ってはみたものの、彼らはすぐに違和感からケルトレイスである証拠を提示してきた。 そうでなければ、子手始めに、黒の民を根絶やしにすると。


 我々は、ばれるのは時間の問題と判断し、王たちと相談。黒の民がやったと証拠を突き出し、村は滅ぶ事となった。

 書物にはこうも書かれていた。 何かあった時には黒の民を差し出す為囲っているに過ぎない村。 それが今となっただけの事と。



 リビアはこの時から、復讐元がジャニワ族だけではないことを知った。

 裏でもっとたくさんのモノが動いていたことを知るのである。


 選択しは2つ。

 復讐をあきらめるか、ジャニワ族だけでも自らの手で滅ぼすか。 

 国など一人で相手にできるわけではないからだ。



 そして彼は決める。


 しばらく彼は寝ずに準備をしていた。


 いつもなら家畜小屋にいるはずなのに、虐待する輩はリビアが恐れをなして逃げたのだと、空想を巡らせ楽しんでいた。


 リビアは絶対に許すつもりはなかった。



 そして一週間後、彼が奉行のいる城へ手伝いに呼ばれれた時の事だった。 城が燃える事を奉行はまだ知らない。


 奉行の部屋から出ようとした時、突然大声が上がり、奉行が呼ばれた。 


 その声はまるで、何かに怯えるような声を上げて助けを求めるようであった。


 リビアを置いて先に部屋から出た奉行を他所眼に、何食わぬ顔で部屋から出たリビアは見張りにいる兵を殺すと、城内上から出会う兵を一人ずつ切って降りた。

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