リーの過去 中編

「また違うケルニア人」


 リーの箱部屋にはまた別のケルニア人が入っていた。


 しかも二人になっている。


 何かの試練なんだとリーは思った。今度はうまくやらなと。両親をまた困らせる。



 それからのリーの非道は酷かった。


 一人は男、一人は女。 年齢も自分より大分上。


 最初は男からする。 何故なら、女より頑丈だからだ。 基から男女に差があるわけではないと教わった。 それは先祖代々がやってきた結果なだけで、もし彼らの祖先が、女性が狩猟をしていたのならば、未来は逆転の結果であると。 だから、どっちがどうとかは世迷言なのだと。



 頑丈な方を痛めつけると、見ている人間の恐怖心はやられてるものよりも倍増する。 だから見せつけるのに丁度良い。


 彼女は泣きながら懇願していた。 もうやめてほしいと。 どうしてこんな事をするのか、私が何でもするからと、男を守る行動に出た。


 リーは声が出ない状態にまで男がなると、吊るすのをやめ、今度は女と交換した。 


 悲鳴は、低音から高音に変わった。 


 すると今度は虫の息だった男が、必死になって、彼女と変われと言ってきた。 自分たちは何も悪いことはしていないし、何も知らないと。こんなことをしても何も出ないと。


 リーも特に尋問するためにしている訳ではないので、利害の不一致だ。


 だけどそんな彼らの姿勢を目の当たりにしていて、いつしか自身の両親が重なってしまう。


 人とは、二人になると、互いを思いやろうとするのだろうか? 


 いや、そんなことはない。 同じ訓練生と同じサバイバルや、チームを組んでのコロシアム等を行ってきたが、そんな気はおこらなかった。自分が見てきたのは、弱肉強食だけ。他者は裏切り、蹴落とす者だけ。 そんなものしか見てこなかった。 


 だから彼らを見ていると不思議が沢山わくのだった。


 だからなのか、両親を重ねてしまうのは。



 やがて、非道が和らいでいく。 


 それにおかしさを感じてた、彼らはリーと話し合った。 


 なんて優しい人たちのか。 話してみるとその人柄がすぐに分かった。 また、初対面のリーを優しく包み込むように話してくれ、こんなことをしたリーに対し、敵意が全くないのだ。


 この人たちは何なのか? 何故こんなことをされても恨まないの?


 気づけばシールと同じように対話をするようになっていた。



 彼らはラジェルとミシェー。


「ねぇー? あなたお名前は?」


「リー。 リー・スカーレット」


「そぅ、 ……、 素敵な名前ね」


 とても素敵な笑顔が向けられた時、彼女の心の中で何かが反応しだしていた。

 彼らは、そこから自分たちの事を話すことはせず、聞き手に回った。

 ただ、黙って、真剣にリーの話を聞いて答えてくれるのだった。



「そう、あなたはこんなところで育てられてしまっていたのね」

「酷すぎる」


 やがて、リーの事を心配するように、表情が曇る。 



「お願い。 ここから逃げてほしいの」



 それは自分たちを逃がせ、ではなく、リーの心配だった。



「ここの教えは間違っている。 リーはそんな風にはなってはいけない! 

 どうか、目を覚ましてくれ」



 どういう事? リーには理解できなかった。 


「作戦なら一緒ん考える。 何かあったなら、俺たちが脱走しそうになったところを捕らえたんだとすればいい。

 そしてここを出たら、一緒に暮らそう」


 彼らはそう言って、優しい手を差し伸べてきた。 二人は抱きしめてもくれた。 決して手で包むことはできなくても、体を寄り添わせてくれたのだ。



 そんな時間はずっと欲しかった、だけど両親の事が頭に浮かぶ。 ずっと自分を育ててくれた両親。


 だから、その提案を受け入れることはできなかった。 



 リーはその話になる度に頑なに断り続けた。



 そんなある日、リーは両親と喧嘩をした。 リーも流石に我慢の限界だったのだ。 

 だけどそれは、この施設では誰でもある。 親子なら誰でもあることだ。  リーにとってはこれが2度目だ。


 リーは彼らのところに行っていた。 また暖かく迎えてくれて、大切に接してくれているのが嬉しくって寄り添っていた。

 流石に今日の誘いは心が揺らいだ。



 この人たちとなら……。


 だけど夜になると、ずっと箱部屋にいる訳にはいかない。 帰らなけらばいけない。



 その夜。


 どうも作戦通りにいくにしては遅すぎると、彼らの部屋を長官が見に来た。


 リーが痛めつけているにしては、あまりにもきれいすぎる。


 その時ラジェルが目を覚ます。 



「お前がこの現況か! よくもこんな酷い事を!!」



「虫が! 騒ぐと殺すぞ」


「あの子をどうするつもりだ! ほかにもあぁやって、沢山盗んでいるんだろ!」



「どうであろうと貴様らには関係がない! それより、リーはお前たちでちゃんと授業をしているのか?

 まるで、毎日おままごとでもしていたかのように見えるのだが」



「……、 何を言っている! この傷を見ろ!! いつもいつもあいつが押しかけてきて、こんなに傷だらけなんだ。

 其れよりもいい加減にあの子を返せ!!」


 長官は連れの護衛に彼を殴らせる。


 その音にミシェーが起きた。


「何をしているの!? やめて! 夫に酷い事をしないで」


 彼女は護衛の手を止めようとした。


「汚い手で触るな」


 そういわれ、同じように暴行された。 



「まぁ、いいさ。 本来やるっちゅうと、これぐらいまでやるのが当たり前なんだがな、嘘をつくとあの子の為にもならんぞ」



 そこには血まみれで、顔をぱんぱんに張らせた二人の姿。 息もし辛く、立つ事すらできない姿だった。



 丁度、彼らが捕まった時、長官と話していた。 

「奪った娘の命を救いたければ、身分を明かすな。余計なことを話たりしたら、娘を殺すと。 ただ黙ってそこにいればいいのだ。人形のようにな」


 そう言われて、ここに入ったのだった。 自分の大切な娘を守るために。




「あ、あの子を、返して」


「あの子を、変な面合わせるな。 俺たちの子を、絶対に許さない」


「あぁ、シールとかいう害虫の事か? なら、もういないぞ。駆除済みだ」



 二人は、その言葉が信じられなかった。



「お前、シールを……」


「殺したってどういう事!? あの子は、あの子は無事じゃないの!?」


「お前たちが誘拐して、 俺の大事な娘を……」


「あぁー、ビービーうるさかったからな。

 そうか、知らないなら、情けで教えてやろう。 駆除したのはリーだ。 それはとても素晴らしい駆除の仕方だったぞ」



 耳を疑った。 リーがそんな事をするような子じゃないと。 


「貴様らがリーの何を知って語る。あの子を語るな。 我々の大切な子だ。 あぁ、それと、貴様らのような者が来たのも、リーの両親の計らいだ。 まあ、これを見るに、もう君らは用無しみたいだがね」


 そういうと長官は去っていった。 


「話が違うぞ。 娘の無事は約束したじゃないか」


「待って。 ……まって、 あの子を、シールを、返してぇ」


 ミシェーは叫んだ。  ラジェルは泣き叫んだ。 


 だがもう彼らの立てた作戦は止まることは無い。





 次の日、リーが彼らのところへ行くことを止められた。 

 リーの両親はたびたび、家を出ることが多くなっていった。


 リーが自分の箱部屋へ行けるようになったのは、しばらくしてからだ。 



「どうしたの?その傷? いっぱい殴られたの?」


 リーは心配そうに聞いた。


 彼らはまるで精神を病んだかのように、無気力でそこにつながれていた。



 だけど、リーを見た彼らは、優しい笑顔をして迎え入れてくれた。だけど、その日、リーは彼らを抱きしめ返すことはできなかった。 


 彼らは言う。 "最後のお願いだ。 今すぐここから逃げてくれ"


 二人はリーの耳元で呟いた。


"リーは僕たち私たちの、最愛の娘だから"


 リーは言葉にしてそう言ってもらえた事が途轍もなく嬉しかった。 押し出すような涙を堪えて、ただそこに無反応で立つ。


「さて、リーよ。お別れだ。 それももう処分しないさ」


 長官が言う。 


 リーの両親も今日は一緒だった。 だからいつものように彼らに接することができなかった。 


 そしてリーは、彼らを、


 うなずいて、言う通りしなさいと、優しく訴える彼らを、



 リーは本当はそうしたくないのに、我慢して、そう見えないように、彼らを葬った。 




 それから、リーは彼らとの幸せの日々を思い出しては愛情に慕った。 彼らが両親だったらどんな生活になっていたんだろう。 きっと優しさに包まれていたんだろうな。


 そんなことを思っていると、自分の両親のことを想う。 小さい頃はよく、遊びに連れて行ってくれていた。 みんな笑い合っていて、海や、高原や、山登り。色んな所に連れて行ってくれて、両親も私も、みんな幸せそうに楽しく笑っていた。 


 そんなことを思い出すと、他の人が両親だったらなんて思うと、悪い気がして自分を正した。 今は私のことを想って厳しくしてくれているのだと。 小さい頃から我が子の事を一番に思ってくれている両親であることはリーが一番知っていたから。 




 だけど、そんな事を繰り返していると不思議なことに頭を悩ませた。 おかしい、この記憶の中にはもう一人誰か一緒に笑っていた気がする。


 それが誰なのか、リーにはわからないでいた。 でも、どうもあと一人自分の隣で一緒に笑っていたような気が強くなっていく。



 これは誰なのだろうか?

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