第4話:ポーションの調合

 お昼ご飯を食べ終わった俺は、洗い物を手伝ってからお婆ちゃんと一緒に移動する。

 向かう先は別宅に併設されているお婆ちゃんの道具屋だ。

 ここでは様々な道具を売っているだけではなく、お婆ちゃんが調合しているポーションなども売られている。

 ポーションなどの調合が必要な道具の販売には、調合スキル持ちが調合したものしか許可されていない。

 俺が調合するのは自分で使うから――ではなく、お婆ちゃんが調合したものと同様に店頭に並べても問題がないからだ。


「それじゃあ、今日もお願いね」

「分かった」


 俺はお婆ちゃんの隣で作業に入る。

 まずはすり鉢にアクラ草を入れてすり潰す。

 次にヒワリマの実を袋に入れて固い棒で叩き、殻を割って実を取り出すと、その実をすり鉢に入れてアクラ草と混ぜ合わせる。

 緑色のアクラ草と黄色のヒワリマの実が合わさっていくと、粘り気のある緑色の初級ポーションの元が出来上がった。


「本当に手際がいいわね」

「お婆ちゃんのおかげだよ」

「うふふ。そう言ってもらえると、教えたかいがあるわ」


 そう口にしてはいるが、手際で言えばお婆ちゃんの方が格段に早い。すでに次の段階に入っており、あとは効能が抽出されるのを煮込みながら待つだけだ。

 俺は軽く笑みを返し、急ぎつつも正確に作業を進めていく。

 初級ポーションの元を鍋に移して飲み水を注ぐ。

 この時に使用する水は飲むのに適した質のものでなければならない。そうでなければ上手く効能を抽出できないだけでなく、雑菌が残ってしまい傷を悪化させてしまうかもしれないのだ。

 水の質はお婆ちゃんが確認済みなので、俺は鍋を火に掛けると初級ポーションの元と水が一つになるよう専用の杓で混ぜていく。


「それじゃあ、魔力を注入っと……」


 専用の杓は魔力を通わせやすい素材で作られている。

 お婆ちゃんの杓はその中でも特に魔力を通す素材、確かミスリルが混ぜられたものだったはずだ。

 ミスリルの杓のおかげで魔力の少ない俺でも存分に調合を行うことができている。

 必要以上に魔力を込めるのは無駄なので、必要な分だけ注ぎ終わると、あとは煮詰めるだけだ。

 ただし、煮詰める作業も火力や時間をしっかりと管理しなければならない。

 強い火力で煮詰めると元の素材が水の中で焦げてしまい、苦味が増すだけでなく効能も低くなる。

 時間を掛けすぎても似たようなもので、効能が蒸気と共に失われてしまい、さらに元の素材から苦味が染み出てきてしまう。

 適度な火力で、適度な時間煮詰めるのがポイントなのだ。


「こっちはできたわよ」


 さすがはお婆ちゃんだ。

 手際だけではなく、調合スキルのレベルも高いからな。

 しばらく鍋を見つめながら、抽出が十分にできたタイミングで火を消す。あとは冷めてから別の容器に移し替えて完成だ。


「できた~」

「うふふ。お疲れ様ね」

「まだまだお婆ちゃんみたいに上手くはいかないなぁ」

「レベルが上がればすぐに追いつくわよ」


 出来上がった初級ポーションが冷めるまではやることがないので、俺は先に作業を終えていたお婆ちゃんが入れてくれたお茶を受け取って口に含む。

 ……うん、本宅で飲むお茶よりも美味しいや。


「それじゃあ、これは初級ポーションのお代ね」


 お茶と合わせて持ってきてくれたのは、俺が調合した初級ポーションへの代金だ。

 これが俺の小銭稼ぎになっており、調合を覚えてから今日までに結構な金額を稼ぐことができた。

 いつかは家を追い出されるだろうと予想していたので、そのお金は全て貯め込んでいる。


「今日の晩ご飯の時に、預かっていたお金も渡すわね」

「ありがとう、お婆ちゃん。本宅に持っていったら、取り上げられるかもしれなかったからさ」

「全く、あの子ったら。子供からお金を取り上げるなんて、どれだけ領地経営が苦手なのかしらね」


 俺が最初に手伝いのお金を持って本宅に戻ると、無駄金を持たせるわけにはいかないとか言って奪い取られたんだよな。

 あの時はさすがに殴り掛かろうかと思ったけど、すでにモノマネ士と定着を組み合わせて色々と試している時期だったので、諦めたんだ。

 あのまま殴り掛かっていたら、きっと怪我をさせていただろうから。

 それからお金に対して敏感になった俺は、手にしたお金を全てお婆ちゃんに預けていたのだ。


「そういえば、荷物は大丈夫なの? 野営の知識とかはあるのかしら?」

「大丈夫だよ。お爺ちゃんに教えてもらっているし、火も水も問題はないから」


 俺がそう口にすると、お婆ちゃんはホッと息をつく。

 十五歳と言えばもう成人なのに、ものすごく心配されているんだよな。でも、本宅では心配なんてほとんどされてこなかったから、とても心地よく思えてしまう。


「時間は少ないけれど、聞きたいことがあればなんでも聞いてね。あと、欲しいものがあれば言ってちょうだい。可能な限り準備してあげるからね?」

「大丈夫だよ。この日のためにずっと前から準備をして、お爺ちゃんから貰った魔法鞄に入れてあるからさ」


 タンスの奥から取り出したこの魔法鞄、実はお爺ちゃんから貰ったものだ。

 お古ではあるが、それでも容量を考えればそれなりに高価なものなので、貯めたお金でし払うと言ったのだが、頑として受け入れてくれなかった。

 孫から金を巻き上げる祖父にするつもりか、と怒鳴られてからは何も言わなくなったけど。

 でも、何もお返しをしないのはやはり間違っていると思ったからこそ、できるだけ足を運んで一緒に体を動かしていた。

 結局は俺のためになっているんだけど、お婆ちゃんからはお爺ちゃんが喜んでいると聞いたので、少しは恩返しができているはずだ。


「それならいいのだけど……そうそう、だったら今日の晩ご飯の時に、改めてアリウスの?」

「もちろんだよ。お爺ちゃんにも努力の成果を見てもらいたいからね」


 教会で授かった俺のスキルは定着だ。それ以上でも以下でもない。

 ただし、それは俺がモノマネ士と定着という組み合わせの可能性に気づかなかった頃の話だ。

 柔剣スキル、剛剣スキル、調合スキル、鑑定スキルと、本来であれば俺が授かっているはずがないスキルを、今の俺は持っている。

 実を言えばこれら以外にもスキルを持っているのだが、それは晩ご飯の時にお爺ちゃんとお婆ちゃんと確認をしようかな。

 ……今日の晩ご飯、楽しみだなぁ。

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