337:ポーションの話になる

(シロ、フロアはとりあえず、前のオークのままでいいから、ハイオークを配置できる?)


(ハイオークになりますと、戦力的に以前よりもアップ致します……距離感なども少々難しい様な)


 新規に……となると過去のコピー、流用では難しいか……。


 うーん。とりあえず、会食後のお茶の時間、所謂ティータイムなんだけどね。正直、あまりに手持ち無沙汰で、シロに訓練用の新しい迷宮を準備出来ないか、確認してしまうくらい、この間が……怖い。


「……」


 姫様……がなんていうか、非常に手探り状態なのだ。一番偉い人なのだから、ある程度話を進めてくれないと困る。のに。


「……」


 俺の方をチラチラと見たりするのだけれど。それ以降は俯いたりする。その間、口を噤んだままだ。


 あ。ダメだ。耐えられん……。


「マシェリエル様……無礼とは思うのですが……その、正直な所を申してよろしいでしょうか?」


「あ、ああ。うん、この場には、身内しか居らぬ。マナーがどうのと固いことを言うやツはいないからな」


「ありがとうございます……その……会食のお誘いは光栄に思います。ですが……それ以上、何がされたいのでしょうか? 親交を深めるということでしょうか?」


「う、うむ……。あの……その。それは当然ある。それ以上に、あのな。私はノラム殿に失礼をしたことを謝りたく……てな。なので、来てもらったのもある」


「それはもう、一切気にしておりませんよ? この国の騎士達の間では、良くある事なのでしょう? お互いに剣を交わし厳しい訓練を経て、結束を固めていくという」


 主に、姫様がよくやる強引なコミュニケーション方法みたいだけど。飲みニケーションならぬ、剣戟ケーション。超絶パワハラだけど、働き方改革なんてないからな。こっちは。


 現状、騎士団中枢に彼女よりも強い騎士はいない。遠慮して実力を隠しているわけではなく、純粋に、姫様が天才なのだという。唯一互角に戦えるのが副団長らしい。


 まあ……そうか。実際に剣を交えた俺にしてみれば、実力で言えば確実にアーリィが強い。百戦して百勝するレベルで強い。レベル、階位も違うからね。吟遊詩人なのに。

 アーリィは姫様を立てて、絶対に勝ちに行かないのだな。彼女にとって、姫様を守れればいいのであって、騎士団最強の座など、どうでもいいのだろう。


「気にされていないのなら……よいのだ。良かった……」


 ああもう、この人も不器用なのだな……。姫様、多分、王族として幼い頃から厳しく育てられ、さらに真面目な性格なのでそれを実行した。王族たる者、最も自分に厳しくあらねば……と。

 

 そのせいで、女心の決着の付け方や、心の定め方……が判らなくなっている気がする。まあ、俺も女性の気持ちなんて良く判らないけどな。そもそも俺自身の気持ちも良く判らないのに。


「姫様、私は……その、エルフということもあり、人間社会の……特に、貴族や王族の方と平民の関係、さらに異種族との距離感等が全く掴めておりません。なので、こうして認識阻害を常に発動し、何方とも触れあわないという方向で問題が起こらない様に致しております。さらに特製ポーションの秘密を守る……という意味もあるかと思います」


「あ、ああ。そうだな……」


 多分、リドリス家の人達からすれば、厳守せねば為らないのは俺が「どれだけできるか」だからなぁ。


「判った。私は……私ができる事を為そう。ああ、そういえば……私の側近……いや、騎士団副団長が先日、迷宮で奇跡に遭遇したようだ。癒やしということでは、特製ポーションで癒やしに詳しいそなたなら何か判るのでは無いか?」


「ああ、噂では聞いております。なんでも酷い傷痕が綺麗に治療された……とか。申し訳ありません、我々が用意するポーションでは……そのような効果は期待出来ないでしょう」


「ああ、ああ。違うのだ、ノラム。君らのポーションに文句を付けるつもりは一切無いのだ。これまでの……私達の知るポーションとはあまりに違い過ぎて、混乱が起きているというくらい、効果、変化が著しい。そんな高性能のポーションを提供してもらっているだけでもありがたいのだからな。すまん」


 姫様は頭を下げた。王族の謝罪はとんでもなく重い。


「謝罪をお受け致します。いえ。我々もそのような効果を発揮できるポーションを用意出来ればよろしいのですが。実は、これまで特製ポーションを作っていた者が何名か老衰で亡くなりました。事前に数は用意していたので、しばらくは大丈夫なのですが、今後数が出回るのは、少々クオリティの落ちるポーションになるやもしれません」


「それでも、これまで……市井で売られていたポーションよりは高性能なのだろう?」


「はい。正直、これまでの特製ポーションとそれほど効果は変わりません。飲み比べれば……そうですね。傷の治りの差で判るくらいでしょうか?」


 ディーベルス様に答えてもらう。


「ああ、あと……酷い外傷の治癒能力は、これまでの……旧特製ポーションの方が効果があります。傷痕を埋める速さが大きく違うというか。戦場などで戦闘中、即効性が求められる現場では旧特製ポーションの方が有効でしょう。それ以外……であれば……味もそう変わりませんし、効果も劣化していると判るほどではありません。その辺の詳細は今後、リスト化してお渡しします」


 この辺の詳細はディーベルス様と既に打ち合わせ済みだ。純粋に……俺が作らないと、現在の特製ポーションの性能にならない。何度試行してもダメだった。


 旧特製ポーションと呼ばれたのが、現在納品している俺製の初級、中級回復薬だ。

 で、今後は新特製ポーションとして、エルフ村産の初級、中級回復薬が加わる。これは共に、俺が作る物よりも性能が落ちる。

 どうにもなぁ……魔術を使っての錬金術、それでポーションの制作というのがしっくりこないらしいのだ。


 ちゃんと教えてはいるんだけれどなぁ。


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