082:三沢談
次の日も。普通に会社に向かった。何一つ変わらない、いつもの朝だ。
ちなみに朝のTVニュースで牧野興産についての情報は何一つ報道されなかった。どこかで規制されているんだろうけど……うん、まあ、捜査現場の気持ちは判る。
無いカラね。イロイロと。根本的に。証拠とか全部消失しているし。心配だったのは足跡くらいか。
って、ね、昨日は履いてた「疾走の靴」。あれは足跡を残さない。理屈は良く判らないけど、魔力で微妙に浮いてる様だ。
完璧だ。
とはいえ。うん、まあ、何もなかった事にはできないよね。特に三沢さんには。
会社帰りに伺うと、メッセアプリで連絡をいれる。
普通に、電車で向かった。
おう。
コイツは中々……だなぁ。外見はこないだ森下社長と訪れた、町工場のままだ。
が。
先日訪れた時とは警戒レベルが違うとでもいうのか。そもそも、隠れて見張っている人数が違う。
「お疲れ様ですーお邪魔します〜」
いつもの営業スマイルを浮かべながら、ドアを開ける。
「お疲れ様です。村野さ……ん」
ん? なんだ? 今の間は。
「お疲れ様です〜どうですか?」
「え、ええ、いや。取りあえずは、現時点でイロイロともめている様です。そりゃまあ、そうかなと。その……ええ。我々も……どう対処すればいいか、理解出来ていない部分が多々ありまして……」
ですよね……。でもなぁ。説明は出来ないよなぁ。どう考えても……大事になるもんな。
「まあ、とりあえず、こちらへ……」
前回と同じ応接セットに座る。っていうか、全体的に緊張感が凄いな。……そりゃそうか。この会社の人たちは、確実に俺がアレをやったという事を知っている。
さらに、どうすればあんな風になるのかは理解出来ていないのだろう。さすがにね。無茶だよね。あの結果は。
「本来ならば……その……イロイロとお聞きしたいのですが……」
三沢さんの顔色も悪い。さらにもの凄く緊張しているのか表情も硬い。
「正直、話を聞いてしまえば、それは我々にとってマイナスになることが多い事案なのでは無いかと思うのですが……どうでしょうか?」
お。すげー。この人……知りたいという知的欲求を無視するつもりなんだ。
「さすがですね……三沢さん……理解していただけると嬉しいです。私が昨日のことをお教えした場合、多分、そちらに大きな災厄が降り懸かることになるかと」
「でしょう……ね」
おお。曲解して、勘違いしてくれそうだ。というか、まあでも、そこまでの力だったのは確かだろうしな。あんな力、普通、あり得ないし。
「了解しました。ですが、我々は出来れば今後も、村野さんとは上手くやっていきたいと思っています。なので、何かお知りになりたいことはありますか?」
「それは非常にありがたいです。私も恩人である森下社長、そしてその社員の方々を守っていただいた御社と敵対するのは避けたいですしね。今後共よろしくお願いします」
安堵した様だ。判りやすく顔色が変わる。
「ではお言葉に甘えてイロイロと教えていただけませんんか? まず。そもそも、牧野興産、牧野文雄という男は何者ですか? 地位とか影響力とかその辺を知りたいですね」
「牧野興産、いえ、牧野組は元々東日本大手広域暴力団の白鳳組の下部組織でした。先代の頃……大戦後のドサクサで勢力を伸ばしたよくあるタイプです」
「ご存じの通り、日本の暴力団は、暴対法によってかなり弱体化しました。が。そんな中、より一層勢力を増したのが牧野興産です。特に、組長である牧野文雄は「自らの力」でのし上がったと言われています」
「組長が……自身の力で?」
「ええ。軍隊等なら長である者が最前線に立つ等あり得ない行為ですが、ヤツは対抗組織などへの単独で殴り込みなど、あり得ないやり方で勢力拡大していったと言われています牧野文雄は幼少時から古武道の無刀術を極めており、その強さはこちらの業界でも話題になるほどでしたから」
まあ、そりゃそうだよな。ワンマンアーミーだよな。
「さて。日本……という国に諸外国の暴力組織が深入りしてこない理由を知っていますか?」
首を横に振る。
そんなのに理由が? というか、深入りしてきていないの? 結構いそうだけど……と考えてみると、確かに見かけないし聞かない気がする。
「それこそ……判りやすい組織で言えば、イタリアのマフィア。まあ、当然、彼らの組織も複数在りまして、有名所ではコーサ・ノストラ、カモッラでしょうか。両組織共に、第二次大戦終結後、ドサクサに紛れて、日本の利権を確保しようと下部組織を進出させようとしていたそうです」
まあ、そうなんだね?
「さらに香港の三合会、上海の青幇、台湾、韓国なんていうアジア系の組織はことある毎に干渉してきています。今、現在も」
近いしね。
「ですが。大規模に根付くことは未だに出来ていないようです。資金や資本での干渉はあるんでしょうが」
「それは何故? 海外の組織の方が暴力的なイメージがあるのに」
「それが、牧野文雄の様な……超能力者の存在です」
「超能力者」
「日本では……かのもの、化の者、化者……と呼ばれていた者達の存在です」
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