ニナの誕生日 1

 静かだった部屋にノックの音が響き、私は本に並ぶ文字を追っていた視線を上げて返事をした。


「ミセス・アルエ、フレイヴァ様がお見えです」

「えっ、あ、はい。……どちらにご案内を?」

「本館の玄関ホールでお待ちいただいております」

「分かりました。身支度を整えたらすぐに向かいますので」

「かしこまりました」


 読みかけのページを開いたままの状態で裏返した本をサイドテーブルに置く。ドアの向こう側に意識を集中させ、人の気配がなくなったのを感じたところで私はソファから立ち上がった。身支度ならそもそも整っているし、すぐに部屋を出ても良かった。そうしなかったのは、私を呼びに来たおそらく同僚であろうメイドに、こんな着飾った自分を見られるのがなんだか気恥ずかしかったからだ。


「誰もいない……よね?」


 そっとドアを開けてそこから顔だけを覗かせ、あたりを見回す。夕食時の忙しい時間帯ということもあってか、上級使用人の部屋しかないこの階は不気味なくらい静まり返っていた。

 人目につかずに玄関ホールに向かうなら、今がチャンスだ。

そろりと足を踏み出して部屋の外に出る。足音は立てないように、それでもできるだけ早く玄関ホールにたどり着くように。ルートを頭の中で書き出して、かかとが余計な音を鳴らさない歩き方……なんてよく分からないから、とりあえずそれっぽい動きをシミュレートしつつ、呼吸を整えて。きれいなビーズがあしらわれたハンドバッグを空き巣よろしく胸元に抱え込むと、


「よし」


 気合を乗せた掛け声を小さく口から吐き出し、夕日の名残がわずかに影を落とす廊下を忍び足で歩き始めた。

 時折、お皿がぶつかる高い音や誰かの咳払いなんかが壁を挟んだ遠くから聞こえてきて、その度に肩をビクつかせて辺りを警戒したけれど、けっきょく玄関ホールでキアンとこうして相対するまで誰ともすれ違うことはなかった。


「ごめんなさい、お待たせしてしまって」

「大丈夫、それほど待っていないから」


 一人掛けソファから立ち上がりながら答えるキアン。その姿を見た瞬間、私は思わず感慨深いため息をつきそうになった。

 古めかしい金のような光沢を放つ、深いブラウンのサテンシャツの首元には、総レースの黒いクラヴァットが巻かれていて、キアンの瞳と同じ色の石を施した金のクラヴァットピンが結び目のすぐ下辺りで煌めいている。ウエストの絞りが強めのジレ、裾へ向かって広がっていくフレアパンツは黒いマットな布が使われていることもあって、サテンシャツ特有のぎらついた印象をちょうどいい具合に抑えていた。

 前にマノンが言っていたように、本当にこの国ではあまり見かけないファッションだ。本来私は、こういう洗練されまくってむしろ型破りの域まで達してしまっているものが苦手なはずなのだけれど、着こなしが完璧なこともあってか、すんなり受け入れられるどころか感動すら覚えてしまった。


「どうしたんだ?」

「あー……」


 素敵な装いを素直に褒めてもいいはずなのに、なぜか言葉が出ない。結局私は、開きかけた唇をぎゅっと結んで首を横に振ることしかできなかった。

 キアンは小さく首を傾げ、黒い中折れ帽のつばに手をやりながら、私をまじまじと見つめた。

頭の上からつま先まで視線を送られ、つい身構える。その表情の動きから、私の装いに多少なりの変化があることには気づいたようだけれど、その変化について掘り下げるまでにはキアンの心は動かなかったらしい。


「それじゃ、行こうか」


 ドレスアップした私の姿について特に言及することなく、私の方へ左ひじを差し出した。


「え……」


 その動作が何を意味しているのか一瞬理解できず、小さく一歩後ろに下がってキアンの顔を見上げる。


「あの、これは一体……」

「貴族制の国では、夜に女性と一緒に出掛ける時は腕を組むのがマナーだと聞いたんだが」


 私が思ったような反応を見せなかったことに困惑したのか、キアンは眉根を寄せてこちらを見下ろした。

 マルシェに行った時、私との歩幅の差なんて気にせずさっさとマイペースに歩いていたキアンが、突然こんな紳士的な態度をするなんておかしい。きっと誰かが助言をしたに違いないと思いついた時、ある人物の顔がふと頭に浮かんだ。


「それ、アレックスから聞いたんでしょ」

「えっ、ああ、まあ……」

「やっぱり!」


 アレックスの故郷であるエジンファレス王国の女性は、イブニングドレスを着る時には細くて高いヒールの靴を履く。晩餐会や舞踏会なんかで無理な体勢のまま長時間立っていたり、ダンスをしたりするから足がすごく疲れるのだそうで、よろけて転んでしまうことがよくあるらしい。女性にみっともない姿を晒させないためにと、あちらの社交界では男性が女性を支えるような形でエスコートするのだそうだ。

 ただ、ここはあくまでもフランメル王国。同じ貴族社会だとしても文化や流儀は全く違っていて、ここでは結婚もしくは婚約していない男女が必要以上に密着することは禁忌とされている。

まあ、タブー視されているのは上流階級の間での話であって、一般人にはほとんど縁のないマナーだし、キアンの気遣いを無下にしないためにも黙ってそのエスコートに従うという選択をしても良かった。だけど、そういう文化が浸透したこの国で生まれ育った私からすれば、特別な関係ではない異性とむやみに触れ合うのは、なんだか気が引けてしまって。


「いつも通りでいいよ。別に私は貴族じゃないし、急にそんな気を遣われたら調子狂っちゃう」


 苦笑いしながらそう答える。キアンは複雑な表情を浮かべて何度か瞬きをした後に、それまでやや硬くなっていた頬を緩めて、小さくうなずいた。


「とりあえず、出よう。今夜はアヤ・クルトが大道芸の演目を無料で披露するらしくて、ルータム通りはけっこう混んでいるそうだから」

「……そう、なんだ。じゃあちょっと急いだほうがいいね」


 そういう催しがあれば、あの辺りの飲食店は必然的に混むだろう。店に予約を入れているとは言え、時間に遅れてしまったら別の客に席を回されてしまう可能性だってあり得る。アヤ・クルト、その名前に反応した心を瞬時に押さえつけて当たり障りのない答えを返すと、私はホールの重厚なドアを押し開けた。







 キアンの言っていた通り、ルータム通りは普段よりも混雑していた。いつもとは違う服装のせいで体は動かしづらく、若干とは言えヒールに高さのあるブーツを履いていることもあって、思ったように前に進むことができない。

 先を行くキアンの背中が一瞬だけ人ごみに掻き消え、慌てて追いかけようとした、その時だった。


「おっ……とぉ」


 石畳のわずかな段差に躓いてよろめいた拍子に、隣を歩いていた集団の一人にぶつかってしまった。漂ってきたお酒の香りからして、その男性は少しばかり出来上がっているようだった。


「やあ、これは失礼をしました。レディ、お怪我はありませんか?」

「え……ええ、大丈夫です。こちらこそ申し訳ありません」

「なんのこれくらい。ご所望とあらば、いつでもお貸ししますよ」


 男性はそう言ってポンと肩を叩くと、取り上げた帽子を胸に当てて軽くお辞儀をしてみせた。少しばかり動揺しつつ、私もスカートを片手でつまんで片方のつま先を小さく斜め後ろへ引き、会釈を返す。

 見ず知らずの男性からこんな風に丁重に扱われたことなんて、これまでほとんどなかった。人ごみの中でぶつかると、大体は迷惑そうに眉を顰めるし、お酒が入っていればさらに感じの悪い舌打ちが追加されることだってあったというのに。


「見た目って、大事なんだな……」


 男性の背中を見送り、エレーヌ様から頂いたウールモスリンのスカートに目を落としてから、私は小さくつぶやいた。


「良かった、見つけた」


 キアンの声がして、顔を上げる。


「急にいなくなったから焦ったよ。俺はまた何か気分を害することでもしたかと」

「……どういうこと?」


 気分を害する、と、いなくなる、がイコールで繋がることに違和感を覚えて首を傾げると、キアンは少し気まずそうにしながら語尾を濁らせつつ辺りを見回した。


「俺は店の詳しい位置までは把握できていないから、君とはぐれたくないと思っている。だから、その……いつも通りじゃないのは嫌かもしれないが」


 この人ごみの中を離れて歩けば、確実にまたさっきと同じような状況になるだろう。いちいちお互いを探しあうのは手間だし、その分店に到着するのが遅れるのも頂けない。異性とむやみに触れ合わない主義を押し通すことの方がデメリットが大きいと判断した私は、キアンの右腕にすっと手を通し、人波の隙間から見えたひときわ大きなガス灯の方を指さした。


「とりあえず、あそこまでまっすぐ向かって。その後はちょっとややこしいから、私が先導するよ」

「……分かった」

「あ、できれば少しゆっくり目に歩いてね。私、このブーツに履きなれてなくて」


 再び同じ言葉で答えてから足を踏み出したキアンの動きに合わせて、私も歩みを進める。今度は誰かにぶつかったりしないように、すれ違う人の動きに注意を払いながらガス灯の方へ向かった。


「一緒に出掛けた相手に、撒かれた経験でもあるの?」


 さっき覚えた違和感を解消すべく、何気なくそう尋ねると、キアンはびっくりするくらいの勢いで私の方を見下ろした。


「な……なんで」

「私とはぐれたのは、私が気分を害してどこかに行ったからって思ったんでしょ。だから、もしかしたらそうなんじゃないかなあって」


 キアンは答えない。答えないというその行為自体が答えだと判断した私は、キアンの方は見ないまま、大丈夫、と言った。


「黙っていなくなったりしないから。何か腹が立つことがあったら、ちゃんと言ってから消えるようにするよ」

「ああ……うん、まあ……それは助かる……けれど」


 何となく歯切れの悪い返答に、いっしゅん思考を巡らせてから、自分がずいぶんひどい物言いをしていることに気づいた私は、慌ててキアンの方を見上げた。


「ごっ、ごめん。そうだよね、消えるのはナシだよね」

「いや、それはいいんだ。むしろ何か言い残してくれるだけで有難いくらいだし」

「良くないよ! そもそも何も言わずにこっそりいなくなるなんて、いくら何でもひどすぎる」

「いいんだよ。俺の行動や言動が原因で一緒にいたくないと思われるのは、仕方ないことだから」


 そう言ったキアンの表情には、特に悲壮感は見えない。でもそれが却って切ないというか、こんな風に思うのは上から目線な感じかもしれないけれど、なんだか余計に不憫に思えてしまった。


「難しいよね、人づきあいって」


 ぽつりと零した言葉に、キアンは一呼吸おいてから小さく笑い声を漏らした。


「驚いたな。基本的に理解されない俺のことをちゃんと理解できる君でも、そんな風に感じるなんて」

「理解できるからこそ、っていう苦悩かな。きっと気付かれたくないんだろうなってところまで気付いちゃうから」


 わずかな仕草、ちょっとした言動。それだけで、相手が何を思っているか手に取るように分かってしまう。それは、誰かと良好な関係を築くにはひたすら邪魔な能力でしかなかった。

 もっと、鈍感で良かった。たとえば相手が私を傷つけないよう隠している思い、それを正しく読み取って自ら傷つきにいくなんて非建設的すぎるし、だいたい、あまり良くない感情を向けられていると気付いた上で、何も知らないフリを続けられるほど、私は大きな器を持ち合わせた人間ではない。もっと私が賢くて、なおかつ強靭な精神を持ち合わせていたら、有効にこの能力を使うことができたんだろうけれど……。


「誰かに、そんな悩みがあると打ち明けたことはないのか?」

「ないない。うっかり馬鹿正直に話したら、きっと気味悪がられたり嫌われたりするだろうなってずっと思ってたから」

「嫌われる? なぜ?」

「だってほら……」


 なぜ、そう問いかけたキアンには、特に二心はなかったと思う。疑問に思ったから聞いた、ただそれだけ。話の流れを鑑みてもおかしくはないし、だからこそ口を開きかけた私の方も、その理由を無垢に答えようとした。

 だけど、私は今、とんでもない暴露をしたことに気づいてしまったのだ。


「あっ、あのっ、別にキアンのことを全部見透かしてる、って言ってるわけじゃないからね?」

「ああ」

「私の前で隠し事は通用しないとか、脅したりしてるわけでもないから! ホント、キアンについては知らないことの方が断然多いと思ってるし、まあ分かりやすいっちゃ分かりやすいけど、やっぱり謎多き人だとは思ってると言うか!」

「……? あ、ああ……」


 瞬時に頭に浮かんだ弁明の言葉をきちんと精査せずに口に出したせいか、キアンの表情が少しずつ訝し気なものに変わっていく。あまり良くない空気感が漂い始めていると感じた私は、焦る気持ちを落ち着かせるべく、大きく息を一つ吐き出した。


「その、なんて言うか……。脅すつもり、なんていうのはもちろんだけど、他の誰にもない特殊能力を持ってるって自賛して、ひけらかしたいわけでもないんだよ。ただちょっと勘が鋭いかなって程度のものを、私自身が人間出来てないせいで持て余してるってことを言いたかったの」

「ああ」

「別に知りたくもない事情を把握しちゃって、知らないフリをするために余計な気遣いまでしなくちゃいけなくて、なんかもうこんなにニコニコして対応してるけどあなたの本心分かってますから、なんて叫び出したくなることもあったりして」


 そこまで言った後に小さくこぼしたため息以外は、たぶんこの雑踏にかき消されることなくキアンの耳に届いたと思う。でもキアンは、私たちの行く手を阻むかのように流れる人波に視線を向けたまま、私が並べ立てた言い訳には何も答えなかった。

 想定内の反応だと思った。だって、取り繕っても本心はお見通しだ、なんて聞けば、だいたいの人は迂闊に喋らないでおこうと考えて口を閉ざすに決まっているからだ。腹の内なんて、後ろ暗い一物のあるなしにかかわらず、誰でも探られたくないところでもあるのだし。

 分からずに悩むキアンと、分かりすぎるせいで悩む私。方向性は違えど人との関わり方に難を抱えているのは同じで、そこにシンパシーを感じるまではいいとしても、調子に乗ってその悩みを吐露すべきではないのは重々承知していたはずだった。なのに私の口は、嵐で決壊した川の堤防よろしく、心の中で渦巻いていた濁流を押しとどめることができなかった。


「あの、」

「俺は、悪い意味で表と裏の顔を分けられないらしいからな。知られちゃまずい感情を見透かされるのには慣れている」


 いきなり面倒なカミングアウトをしたことを詫びようとした時、キアンが先に口を開いた。


「逆に真意がうまく伝わらなくて、相手を誤解させたまま関係が終わることもしょっちゅうだし、どんな言葉を使えばいいのか、表情は、タイミングは、声のトーンは、なんてことを考えている内に伝える機会そのものを失うこともあるんだ」

「……」

「たぶん君は気付いていないだろうが、俺はすでに一度、君のその能力のお陰で命を救われている」

「えっ、うそ! いつ?」

「リュカに魔術の指導をすることを君に承諾してもらうために、指導計画書を持って行った時のことだ」


 そう言われ、つい先日のことを頭に巡らせる。まだ体が回復しきっていないところに無理やり訪れてきたと思ったら、びっくりするくらい分厚い計画書を押し付けられ、ずいぶんイライラさせられたことを思い出した私は、ゆるく頬を上げて苦笑いを浮かべた。


「たいていの人間は、俺の不躾な行動で不快になって拒絶する。今後は気を付ける、善処すると言っても二度と耳を貸してはくれない。でも、君は違った。俺が何も言わないのに、全てを分かった上で受け入れてくれた」


 それが命を救うほどのことだろうかと思案してから、キアンが見せてくれた、右手の指輪にしつらえられていた赤い石のことを思い出した。その石が放っていた、恐怖心を煽るような赤い光。あの時キアンは「かなりヤバい状態」だと言っていたけれど。


「……ねえ、あのまま私がキアンの申し出を断っていたら、どうなっていたの?」

「死んでいただろうな」

「えっ……」


 あっさりと、あまり感情の乗らない声色でそう言い放たれ、私は一瞬言葉に詰まった。


「それは、えっと……その場ですぐに処刑されてたってこと?」

「ああ」

「あの、まさか私の目の前で、とかじゃないよね?」

「“ヤツ”からは、ダメだと判断したら即刻手を下すとはっきり言われていたし、楽に死ねると思うなとも言われていたからな。君の目の前で、苦しみ悶えながら死んでいたんじゃないか」


 まるで他人事のようにさらっと言ってのけるキアン。その横顔はさっきと何も変わらない、涼し気なものだ。


「苦しみ悶えるって……どうして」

「他人は巻き込まないようにするはずだから、体が爆発するとか燃やされるとかはないと思う。俺が想像していた手段としては、」

「そういう意味の“どうして”じゃない、苦しませて死なせるなんて、何でそんな非道なことをするのかって言ってるの!」


 不規則に流れる人波の中、立ち止まったキアンにつられて、私も歩みを止める。思いのほか強めに出た声音に驚いたのは私だけではなかったようで、こちらを見下ろすキアンの表情は、さっきと打って変わって何かしらの色合いを乗せたものになっていた。


「そう言われれば、そうだな」

「へっ?」

「処刑するだけならいちいち苦しませる必要はない、ただ息絶えさせればいいはずだ。それなのに、どうしてそんなよく分からないオプションを付けたのか……」


 キアンは、考えたこともなかった、と呟きながら、あごに手を当てて考え込んでいる。私は深くため息をついた。

 フレイヴァの刑を言い渡された者は、使命を果たさなければ死を与えられる。それは裏を返すと、課題を求められた形でこなすことができれば、バルジーナ皇帝のさじ加減による何らかの悪意ある操作が成されない限り、制度上は死なずに済むということだ。皇帝はそうやって罪を犯した者に希望を与え、命がけで皇国のために動く駒に仕立て上げているんだろう。

 たいていの人間は、許され生き永らえる道を示されればそちらに目を向けて、チャンスをものにしようと躍起になるはず。でもキアンは……。


「もっと、生きることに執着してほしかったんじゃないのかな」

「……? 執着はしているぞ。だからこうしてあいつの指示に素直に従っているんじゃないか」

「熱量が感じられなかったんだよ、たぶん。フレイヴァの刑を言い渡されてるのに、死ぬならそれはそれでいいやー、みたいな投げやりな態度でも取ったんでしょ。だから楽に死なせない、なんて言われたんだと思うよ」


 私の指摘に、その当時のことを思い起こしているのか、キアンは小さく唸り声のようなものをこぼしながら視線を足元に落とした。


「そんなつもりはなかったんだが……いや、まあ、でも君が言うならきっとそうだったんだろうな」

「……」

「人は死ぬもので、それがいつどんな形で来ても別に何も変わらないと思っていたのは事実だし」


 根底にそういった信条があるのは自由だとは思うけれど、それを大事な場面で表に出すのは本当にどうかしているとしか言いようがない。一つ謎が解けた、と嬉しそうに笑うキアンに、謎だとも思っていなかったくせに、と返しつつ、私は湧き上がってきた2度目の大きなため息を飲み込んだ。







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