111.オンボロ一刀地獄行き


 掻き混ぜられ嵐のように吹き荒れる空気にコンフェッティと粉塵が乗って暴れる中、その大きさを何倍にもされたり鉢の縁に着地する。


 どうせ聞こえているだろう。裁への説明として口を切った。


「……うちのクソジジイは悪魔らいになって、数百年も生きた。正確な時間が分からないのは、あいつが日記を付けるような質でも無ければ、遺品が各時代の日本軍からの支給品ばかりで呆れたからだ。中でもこの軍服は最悪で、あいつはこれを着て戦争に参加している頃に悪魔喰らいとしての力の扱いを覚えたのか、これに触った奴は、どいつもこいつも壊れてバラバラになれって魔法をかけたんだよ。何でそうしたのかは知らない。まともな職に就いてなかったようだし、顔を覚えられないよう全国を転々としながら、兵隊に入っては辞めを繰り返す生活をしてたみたいだぜ。その内戦争が終わって、女の家に転がり込んではだらだらやるって暮らしに切り替えたらしいが。まあだから、生物は私に触れられない。殺したければ武器だ。私はクソジジイの血を引いて同じ性質を持つ悪魔喰らいだから、この魔法は自分でかけた扱いとなってるから壊死しないし、クソジジイは食い殺したぐらい悪魔が憎いから、この魔法に悪魔は例外なんてルールは存在しない。すべからく、あらゆる種を殺す」


 嵐でズレた制帽を、『一つ頭のケルベロス』を握ったままの右手で被り直す。


 黒の魔術が失せ、嵐が止んだ空気から粉塵が晴れて来た。巨大隕石の落下跡のような規模になったり鉢の底で、まだ青砥あおと部長が形を保っている。起き上がろうと四つ這いになっていた。


 つい顔を顰める。自分のしぶとさで思い知っているが、純正の悪魔となればそう簡単に死なないか。


 だが攻撃は効いている。数をこなせば倒せる相手だ。魔法を壊す魔術が乗っている『一つ頭のケルベロス』がある限り、青砥部長の手は封じられる。


 それにここは、生物の匂いが少な過ぎだ。私達三人分しか無い。瓶が撒く傷んだ肉のような悪臭にやられていた鼻がやっと慣れて気付いたが、瓶に都心部ごと閉じ込められていた魔術師達は既に死んでいる。ピエロに変えられたりと生きているように動いていた彼らはうに、青砥部長の傀儡かいらいだ。もう何をしようと帰って来ない。


 酷い気分だった。限り無く形式上に近い関係とは言え、死した仲間を攻撃してしまったのは。


 だからと言って立ち止まってしまうのは、魔術師としての彼らへ侮辱に当たる。


 魔術師が魔法を解く方法は、その魔法をかけた魔法使いを殺す事だけ。それは悪魔が相手でも変わらない。そしてこの戦いには制限時間がある。鉄村が魔術師の規律に反してまで、私への信頼を貫き作ってくれた僅かな猶予が。


 取り戻せなければ二度目も無い。ならせめて、その全てを無駄にはしない。


 足を肩幅まで開いた。一切の手心を捨てた力を右腕に込める。握り締めた『一つ頭のケルベロス』を正中線に構えると、頭上へ掲げた。


 錆塗れで傷み切った刀身から黒の魔術が噴き出しビル群を追い抜くと、辺りを影に沈める。その影はサーチライトで鋭く不規則に切り抜かれ、降り頻るコンフェッティシャワーに飾られた。


 肩で息をしてまだ立ち上がれない青砥部長へ、睨むように狙いを定める。


「……何度でも地獄を見せてやる」



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