爛れてる。


 そんな事考えないでくれと、その日から高校一年生までの時間の、ほぼ全てを投じた説得が始まった。放課後になれば話し合ったし、朝を向かえれば授業が始まるまで意見を出し合った。勿論学生生活を平行してこなしながら、気晴らしに出かけたり、お互いに声をかけない日も作った。


 高校に入学すると、絵が好きな帯刀おびなたは中学時代と同じく美術部に入って、私は親代わりになった阿部さんに面倒を見て貰いながら、魔術を習う日々が続いた。また、同時にお目付け役としてつるむようになった鉄村とは存外気が合うようになって、帯刀と三人で過ごすようになった。それでも鉄村に相談する気は一切起きなかったし、帯刀の気持ちは変わらなければ、私は帯刀を説得出来なかった。


 もし帯刀の案を実行したら、周囲にどれだけの影響が出るかという事を、阿部さんから習った魔術師の知識を交えて何度も説明した。当然学びの最中である事からその内容は、時間経過と共に精度が上がっていく。多面的に膨張していくその長話を帯刀は、いつも真剣に聞いていた。


 帯刀の素行に、一切の劣化は無かった。勉強は昔から人並みだし、美術部でも昔と変わらず、度々賞を貰っていた。八高の美術部でも通じるなんて才能があるんじゃないかと褒めたら、とても嬉しそうにしていた。卒業後も絵を描こうかななんて、将来について前向きな事も話していた。それでも帯刀の気持ちが変わらなかったのは、帯刀の両親が宣言通り、離婚協議を始めたからだろう。


 私の帯刀の両親への怒りも、限界に近付いていた。私だってずっと何も思っていなかった訳では無いし、どうして一般家庭に生まれた筈の帯刀が、こんな目に遭わなければならないのかも分からなかった。両親さえちゃんとしていれば帰宅が遅い癖も付かなかったし、そもそも手のかかるような性格もしていない。こんなの、父に迷惑をかけるなと押さえ付けられて来た私と、変わらないじゃないか。コミュニケーションが成立していなければ、ただ親の意思に支配されているだけ。帯刀が一体何をしたんだ。私のように〝患者〟だの悪魔喰らいだのと除け者にされる身分を持ち合わせていなければ、私のように乱暴者という訳でも無いのに。そもそも産んだのは、お前らだろ。何でちゃんと見てやらないんだ。何だってお前ら親という生き物は、どいつもこいつも勝手なんだ。こんなの私じゃ、どうにもしてやれないじゃないか。


 私の頭の中で、親への憎悪が二つ目の心臓みたいに脈打っているように、帯刀の中にも、取り除けない姿で根付いてしまったのだろう。両親への恨みと、寂しさが。


 これは明らかな復讐であり、私達とは間違っている。


 何度も帯刀に告げたその言葉を軽んじると決めたのは、一年生の三学期だった。



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