その後は暫く話した。


 親が憎くて仕方無い気持ちは変わらない事。悪魔らいという身分上、魔術師にならない道を選んだとしても、魔術師からの監視は避けられない事。魔術という自衛手段を持たないという事は、悪魔のはらわたを狙う魔法使いから逃れらなくなるという事。自分の身を守る為に魔術師になるという事は、魔法使いを殺す道を選ぶという事。私は自分の為に人殺しになんてなりたくないし、人を傷付ける事は嫌いな事。小さい頃から散々痛め付けられて来たんだから、同じ立場に回るなんて耐えられない事。でもやられっ放しでいたい訳じゃないし、ただ、加害者になりたくないだけ。でもそれは、きっと叶わないと分かっている事。父とは何も、根っからの狂人じゃない。娘に反抗されれば人並みに動揺していたし、人並みに傷付いていた。だから父も、悩んだ果てにあの生き方を選んだのだろう。でもそれでも、私を巻き込んで欲しくなかった事。私は父も母も愛していないし、その生まれで子供を持つ判断に至った二人の神経は、やっぱり勝手に映るし信じられない事。


 愛情の正体とはきっと、それを抱えている者の自己都合だ。子供とは親が幸せになる為に生み出される、逃げ場を用意されていない人形。こんな考えを抱いてしまっている時点で天喰あまじき家とは、破綻している。きっと、幼稚園で寂しさを覚えていた、あの頃から。


 自分は世界で一番不幸だなんて言いたい訳じゃない。ただ、家族が憎くて仕方無いだけ。死んでいなくなったというのに、呪いのようにまだ頭の中で生きている。私が覚える、あらゆる苦痛の根源として。


 帯刀おびなたはずっと聞いていた。叱りも、嫌な顔も一つせずに。こんな話つまらないだろうと切り上げようとしても、塁は私がどんな話をしても無視した事が無いからいいと言って、取り合わなかった。そりゃあ、放っておかれるのは誰だって寂しいだろう。まして帯刀の親はあんなのだ。いや、一つだけ、自殺はしないでと怒られた。出来そうに無いと分かったからしないよと言ったけれど、少し不満そうだった。


 解決策が出ないまま、ただ話す事が無くなった。やっぱり人と話すのは好きじゃないし、意味を持つ事も少ないなと思いながら、どうすればいいのか見当も付かなくて黙っていた。いや、もう遅いから帯刀を帰らせないと。


 そう考えが浮かんだ瞬間帯刀が、ずっと考えている事があると切り出した。私の動きを封じるようなタイミングでそう言った帯刀は、市民交流センターの割れた窓から差し込む月光を浴びて、輪郭だけが白く浮き上がっていた。それ以外は殆ど闇に潰れているのに、見た事の無い顔をしていると分かった。


 寒気がしたのを覚えている。どうしてか、知らない人に見えてしまって。


 昔から気弱で、友達も決して多くは無くて、絵を描くのが好きな、寂しいとは絶対に言わない女の子。そう抱いて来た認識が崩れ去る話を、帯刀は始めた。



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