10.十二分ボディーガード
野次馬からプライバシーを守る為、魔術師の間で使われている錠剤の効果である。飲んでおけばメディア上に表示される自分の姿が、化け物の形に変換されるのだ。ガラスや鏡、水面などに映り込んでも変換されるので、盗撮されても完璧に身分を守ってくれる優れものである。飲んでいるのを忘れると、何かに映った自分を見る
画面の向こうで、今日もしっかり効果を発揮しているおばけの薬に感心するも、やっぱり撮られていたかと気が塞ぐ。じっと睨み付けていた鉄村のスマホから、顔を背けた。
「……ふん。まあいいさ。人助けで遅刻したなら、学校にも咎められない」
「遅刻? 今から美術館にコガネムシ持ってっても、開いてねえぞ?」
ぽかんとする鉄村に呆れる。
「あのなあ、いつまでもこんなずぶ濡れでいられるか。ネカフェでシャワー借りるんだよ。美術館には付いて行ってもいいけれど、あれには絶対触りたくないからお前が運べ」
言いながら鉄村に傘を握らせると、リュックを足元に下ろし、ブレザーの前を開けた。
「だあ!? 上着脱ぐなよ!」
急に
ブレザーから右肩を抜きながら睨む。
「ビシャビシャで気持ち悪いんだよさっきから」
「YOU今上脱いだらスケスケよ!?」
「ブラトップだから気にしない」
「いーや駄目だね! 通勤ラッシュというおっさんが最も密になってうろつく時間に、そんな格好で歩くのは!」
……何で煩くなってるんだこいつ。
男子がブラトップという言葉の意味を難無く理解しているのは正直キモいと思ったが、そこへのツッコミを看過してしまう程に余りに意味不明な豹変なので、ついブレザーを脱ぐのを中断した。
「……じゃあタイツにしようか?」
脱いでも出るのは足だから問題あるまい。つまり返事を待つ前に答えは出ているので、言いながら前傾姿勢を取った。
「スカートに手を入れるな!」
なんと指を向けて怒鳴ってきやがった。
もう私はスカートの中で、黒のホットパンツと、百十デニールのタイツに指をかけたまま怒鳴り返す。
「どーやって脱ぐんだよじゃあ! 馬鹿かお前!」
「外で服を脱ぐんじゃあないよオ!!」
鉄村は耳が痛いぐらいに怒鳴るなり、目にも止まらぬ速さでリュックを下ろしてブレザーを脱ぎ私へ投げ付けた。私は頭から鉄村のブレザーを浴び、ハロウィンでよく見る、ゴーストのコスプレみたいになる。布は白くないし、視界を保つ為の穴も無いが。あと臭い。
真っ暗になった視界の向こうで、鉄村は血管が切れそうな勢いで続けた。
「女の子が外で薄着になるなって言ってんだよ! 非常識だぞ! 仮にお前がよかったとしても、世間のエロ親父がそういう目でお前を見るの!」
……濃紺のゴーストになった私はもう面倒になって来て、手を下ろし、姿勢も戻す。
「……つまり、私がそうなるが嫌だと」
「嫌だよ! 駄目だろ友達がそんな目で見られるのは!」
「分かった、分かったよ。過保護な奴だな」
降参だと、軽く両腕を上げて肩を
こいつ中学生の妹さんがいるから、妹さんを相手にしている時と同じような態度を向けて来る事がある。
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