第59話・相変わらず煩い人達
東の洞窟を逃げ出した避難民やガイソンの隊は意外と元気に見えた。しかし、それは表面上の事だけであり、名もない村からの合流組の物資を含めても、現状は薬剤も食料もギリギリのラインであり、最低限の治療や食事で東の洞窟から北に大きく道を逸れてエレノへと進んでいく。
村の面々は見た目なんとか無事のようだが、実際は毎日の戦いでの疲れや、自警団の数人が目の前でゴブリンジェネラルに生きたまま引き裂かれていくのを震えて見ていたトラウマは相当である。
皆は意外と元気では有るが、実のところは空元気というやつで、それぞれが何か話していないと恐怖で動けない位には疲弊していた。
もちろん、ろくに食事も食べれず寝れていない為、かなり体力的にはギリギリであった。
しかし、ガルフ村長は若者を叱咤して前に進ませるが、オルソンやパスカルも疲労困憊であり、護衛の斥候部隊も名もない村から歩き詰めで碌な休息もなく何度となくゴブリンと闘っていた為、ガルフ村長の叱咤激励には少しだけ苦笑いを浮かべた。
「あー、皆さん少し静かに願います。大量のゴブリンが彷徨いてますから」(ほんと元気な人達だな…)
「まあ、連中も空元気ってやつだよ。ほんと毎日毎日が次は俺の番じゃないかと思ったら恐怖で狂いそうだったしな」
「ははは、ガイソンさんもお疲れ様でした。我々も名もない村から東の洞窟へと向かった際にはゴブリンの大群と出くわしましたし死ぬと思いましたよ。ですが、エルダーゴブリンジェネラルの生け贄にならず、なんとか生きてますからね」
現在、避難した名もない村の村人は約三十人、兵士は約百三十人が生き延びた。残りの村人や兵士達はゴブリンジェネラル達になぶり殺された後に戦意高揚の為に解体して食べられた。
今も多数のゴブリンが彷徨く中、兵士達に注意されながらも村人達がお互いに喋り続けるのは恐怖を誤魔化す為のようである。
そんな時に、数十匹単位のはぐれゴブリン達が前方に現れた。
「ひぃ!敵だ!ゴブリンの群れだ!」(ゴブリン!)
「敵襲!兵士は前へ!」(ほら来た)
「バスカル!偉そうな奴を射て!」(先頭のアイツを射て!)
「はいよ……後は任すぞオルソン」(死ねやゴブリン!)
ビュンッ!トス!「グギャッ」プシュ~!
「よし!リーダーらしい奴をパスカル殿が倒してくれたぞ!防御重視の円陣で進め!」
「了解!」ガチャッ、ガチャッ……
憐れ、バスカルの前に現れたはぐれゴブリンのリーダー格は速攻で死んだ。
良くも悪くもこのオルソンやパスカル達は人やモンスターの死に慣れ位階が上がり続けた。
兵士達は円陣を敷いて防御を固めてゴブリンを危なげなく倒していく。
程なくしてゴブリン数十匹は討伐され、各兵士達の位階が少し上がる。
「パスカル殿もオルソン殿も実に見事な腕ですな!」
「洞窟内で何匹ゴブリンを倒したか分からないですからね。天職に斧戦士も増えましたし、少し臭いますが装備も手に入れましたから」
「オルソンに同じく……大変だったが弓矢の替えは大量に有る」
「そうですか、実に頼もしいですな!お二人はエレノの衛兵になるつもりは?」
「そうですね……出来れば天職を生かしてエレノの衛兵になれたらと思います」
「俺は斥候隊に入りたい……元々が猟師だからな」
「そうですか!私の方からも二人を推薦しますぞ!パスカル殿、オルソン殿!」
「ありがとうございます隊長さん」
「ハハハ、このガイソンも二人を推薦するぞ!斥候隊に配属されたら楽しくやろうなパスカル君」
「よろしく頼むよ……ガイソンの親父さん」
今回の体験を通じて戦闘の経験を積んだオルソンとパスカルは町に着いたらエレノの兵士に志願するらしい。他の村人達もエレノの町で働いている縁故を頼るようだ。
「それで……他の方々はどうなさるのかな?」
「あー、それは先程の斥候隊員が指示書きを持って来たのだが……アニス院長さんと孤児達は生きておられるか?」
「はい、アニス院長は怪我を負って衰弱してますが大丈夫です!今は孤児達と一緒に荷車に乗ってます」
「そうか、エレノに現れた魔法使い殿がアニス殿と孤児達が修道院で暮らせるように手配してくれているそうだ。その他の避難民に対しても、かなりの額の一時金も出るぞ。どうやら、魔法使い殿の獅子奮迅の活躍でエレノは助かったらしい。領主様はその恩義に報いたいとの事だな」
「魔法使い殿って……アリシアちゃんか!」
「ふむ、そのアリシア殿が現在エレノを離れ東の洞窟方面に向かってゴブリンシャーマンとエルダーゴブリンジェネラルを追撃中との事。我々はそれに乗じて北に大きく迂回して逃げよと指示が来ておるよ」
「なんと、アリシアちゃんのおかげで我々は命拾いさせてもらったのですね」
「まあ、我々エレノの民は魔法使い殿には返しきれない恩が有ると言っておこう。今は少しでも早くエレノへと帰還する事だな。追加で食料や医薬品を持って来る衛兵隊もこちらに向かっているので安心しなさい」
ゴブリンジェネラル襲来におけるアリシアの働きのおかげで、アニス院長と孤児達が生きていた場合には町の修道院に入れるように既に手配がされている。
その他の村人もアリシアの獅子奮迅の働きにより、役場から多額の支援金を貰い生活を立て直す事になるだろう。しかし、まだまだエレノの町までの道は険しい。
けして油断してはいけない。
今後も頑張って更新していきますので、ここまで読んで面白い!続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや下の↓♥、レビュー★★★などお願いします!
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