第16話・冒険者の救援は絶望的
エルダーゴブリンジェネラル襲来の数刻前のエレノ西廃坑跡ダンジョンでは、冒険者達が集めたスケルトンの持つボロボロのロングソードや魔石、ダンジョン産の鉱石などを求めて商人達が集まり、活気溢れるバザールが開かれ、屋台からは様々な料理の香りが溢れて懐が潤った冒険者の財布から銀貨や銅貨を吐き出さす何時もの光景が広がっていました。
エレノ西廃坑跡ダンジョンに隣接した公営のテント村ではテントの造りは粗末ながらも雨風が凌げ、公衆浴場やトイレも完備されて衛兵が24時間定期的に見回りを行い、安心安全ながら滞在費が安い事から大量の新米冒険者達が拠点を造っています。
このダンジョン近くに居を構えるクランの建物や雑貨店や風俗店や酒場に仮設冒険者ギルドも有る為、ダンジョンの周りは一種独特な冒険者村のような感じでした。
そこへ早馬に乗ったエレノの町の兵士が現れて叫ぶように冒険者にエルダーゴブリンジェネラル襲来を告げ、緊急クエストの参加者を求めました。
「エルダーゴブリンジェネラルがエレノの町を襲来している!エレノの町防衛の緊急クエストの参加者を求む!誰かエレノの町でエルダーゴブリンジェネラルを迎え撃つのに我々に協力してくれる冒険者は居ないか!鉄級以上ならば誰でも構わん!冒険者ギルド規定の報酬とは別にエレノ町からも特別報酬を約束しよう!我こそはと思う者は我々と共にエルダーゴブリンジェネラルとの戦いに参加して貰いたい!誰か居らんか!頼む!エレノの町をエルダーゴブリンジェネラルから救ってくれ!」
これを聞いた冒険者のほぼほぼ全てが即座にスルーを決める。
冒険者は基本的に己の身一つで商売しているのであり、リスクとリターンを秤に掛けてリスクの方が高ければクエストを受けないのは当然の話。
緊急クエストなどと言っても、そもそも冒険者ギルドが国を跨いだ相互の協力を促す機関で有り、冒険者の利益が優先な為、冒険者に不利益なクエストを出す事はありません。
指名依頼などを受注出来るのも冒険者ギルド加入から3年経過後の銅級(ベテラン兵士を軽く倒せる程度の強さ)以上からで有り、個人的に依頼主から直接依頼を請けた場合には何の保証も得ることが出来ないのです。
今回の緊急クエストはそもそも鉄級下位(ベテラン兵士よりも少し強い)以上の冒険者を指名する形でエレノ町から発生したクエストなので冒険者ギルドの保証やサポートを受けられるか否かが怪しく、エルダーゴブリンジェネラル自体が伝説的な災害指定モンスターな為、参加すれば確実に大怪我、最悪死ぬ可能性すらありました。
冒険者の行動はリスク管理も含めて自己管理であり、無理をした結果で手足が無くなれば引退を余儀なくされてしまう面でも緊急クエストはマイナスに働いていました。
冒険者は国を跨いで活動する為、冒険者ギルドの加入者には愛国心などは全くなく、金や名声、地位を求めて活動する者が大半で有り、何処かの町が消えようが知った事ではありません。
クエストは請けたくなければ請けなくて良いのが冒険者ギルドの鉄則でした。
冒険者に不利益が生じる行いや圧力、敵対行為は全ての冒険者ギルドを敵に回し、冒険者の保護に積極的なギルド加入国からの制裁を受ける場合すらあるほどにはギルド加入国にとって有益なのが冒険者です。
つまり、今回のエルダーゴブリンジェネラルの襲撃からエレノの町を守るなどというクエストは誰も請けたがる訳がないのですが……。
エレノの町からの使者の口上、それに応えるように冒険者の中から燃えるような赤髪と凶悪な面構えのオーガのような体つきをした厳つい大男が前に出て来て冒険者達の意見を代弁するようにエレノの兵士に返答しました。
この男はエレノの町で主に活動する大手冒険者クラン(100名近い冒険者集団)で有る蒼き盾(ブルーシールド)のクランマスターで有り、100人からの冒険者を束ねるアイオスという巨漢でした。
後に歴史書で有るリアナ大陸戦記に赤髪鬼のエレノオーガ=アイオス・ドワーフブラザーと呼ばれて歴史に名を連ねる若き英雄です。
「あー、エレノの兵士さんよー。それは内容的にちぃとばかし無理なんじゃねぇかな?相手はエルダーゴブリンジェネラルだろー?報酬の桁が足りねぇし、そもそも命が幾つ有っても足りんぜそりゃー。冒険者はボランティアじゃないんだぜー?」
アイオスはエレノから来た兵士の持って来た緊急クエストの内容を暫し吟味しましたが、そこにはエルダーゴブリンジェネラルと戦う為にはかなり不足している最低限の報酬額しか書かれておらず、冒険者ギルドの判も押されていません。
完全に命懸けなのに報酬が低くて、件の特別報酬とやらも冒険者達のリスクには全く釣り合わない少ない額で、かなりブラックな緊急クエストでした。
アイオスは頭を掻きつつ、この緊急クエストを発注したヤツの頭の悪さを呪います。
「エレノの町の滅亡の危機なんです!誰か助けて頂けませんか?」
「おい、この中の連中で誰か逝くヤツいるかー? 相手は遥かに格上の生きた伝説の災害級のモンスター、エルダーゴブリンジェネラルってな。まさに自分から死にに逝くって意味なんだが……皆そこんとこどうよー?」
「俺は鉄級上位だけど今回はパス!まだ死にたくねぇわ!」
「えーと、俺はそもそも石級だし無理なんじゃねぇかな?」
「あのな、俺なんて駆け出しの見習いの木級だぞ?鉄級なんて冒険者でも格上のベテランの域じゃねぇか!無理に決まってるよ!」
「あー、兵士の兄ちゃんよ。やっぱこの額で命懸けって無理なんじゃねぇかな?済まん、他を当たってくれや」
「そうですか……このままではエレノが滅びてしまう……俺はどうしたら良いんだ……」
「まあ、廃坑跡ダンジョンの冒険者はエレノへの救援はパスってこったな兄ちゃん」
「分かりました……一度エレノに戻って報告してきます」
「あー、まあ、頑張れよ兄ちゃん」
タッタカ……タッタカ……タッタカ……タッタカ……
頭を抱える兵士は応援の期待が薄いと見るやエレノの町へ戻り報告した後、北西のグラントの街へ応援の要請をしに向かいます。
「行ったか。はあ、全く……困ったもんだなこりゃー、相手は単独でも災害級のエルダーゴブリンジェネラルってどうするよジャッシュ?」
「はあ、全く……困ったもんだなこりゃー、とか言ってる場合じゃないっすよ団長!エレノで留守番してる、うちの可愛いセシリーを見捨てるつもりっすか?エレノの町のクランハウスはどうするんすか!団長!」
「あー、うっせぃなジャッシュ。ちぃとばかし考えさせろや……」
「早くして下さいよマスター!」
「へいへい」
早馬が北のグラントへ向かう頃、エレノ町とエレノ西廃坑跡ダンジョンを繋ぐ道の深い川に設置された跳ね橋が廃坑跡ダンジョン側から上がり、完全に通行不可となりました。
結果的にはエレノの町から廃坑跡ダンジョン側への逃げ道も塞がれてしまう事となります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます