第16話・赤狼団との実力の差
名もない村の位階の低い自警団20人に対して、北から迫る赤狼団の盗賊達は少なく見積もっても石級以上の実力を持つ者が20数人程もいる。
その手には使い込まれた斧やショートソード、弓矢などを持っており、鉄で補強された頑丈そうな鎧も着ており見た目も厳めしい。
名もない小さな村で、なんとか戦えそうな年齢の村人全てを合わせても木級以上石級下位ほどの実力を持つ者は30人に満たず、装備は農機具に獣の革の継ぎはぎだらけの粗末な鎧であり、20数人を数える石級以上の位階の高い盗賊には装備でも基本な能力的にも全く敵わなかった。
第一、この村の人々は善良なだけが取り柄であり、日々を畑を耕して生活しており武術などの鍛練もしていないし、その温厚な性格も相まって戦闘には全く向いていない。
ここはあくまでも辺境の辺境の、そのまた辺境に位置する良くも悪くも平和で自然豊かな農村なのだから……。
その名もない農村でも森に分け入り、木々を切り倒してはプラナを吸収し、比較的にレベルが高く鉄級並みの腕力や体格に優れた木こりのオルソン、エルト小国の中央に位置する農業と美食の交易都市グラントを中心に戦場で活躍して里帰り中の鉄級上位クラスの腕利き傭兵であるジル、村のまわりに広がる森での狩りを行う石級上位クラスの猟師のバスカルは数少ない村の戦力でした。
その三人がニ十人以上を数える盗賊達を相手に勝てる筈のない戦いを挑もうとしています。
名もない小さな村には木こりで大工のオルソンの先祖が脈々と造った立派な塀と厚い門が有りました。
名も無い村にしては無駄に立派な北門は盗賊達から村を守るための十分な頑強さを持っていたのですが……。
「おいおい、抵抗しないで門から退けよ!」「お前ら死にてえのか?あ?」
「自警団は南西の門へ! 怪我人は下がれ!」
「なんだあ?援軍か?」
ジル、オルソン、パスカルの3人は怪我をした自警団の面々を下がらせて前に出ます。
「すまん! 頼めるかオルソン」
「おうよ! ジルさんも居るぜ!」
「ああ、ここは任せてくれて構わんよ。早く村から逃げてくれると助かる」
「二人共すまん! みんな怪我人を運べ!」
ズルズルズルズル……「グウウウウウウ……」
「やらせるかよー『トス!』ぎゃあああーーー!」
「おーい!俺も居るんだけどな」
「パスカルも頼む! 俺達自警団は村長の家でアリシアちゃんの薬を貰ってから南西の門へ行く!早く下がるぞ!」
「「おう!」」
「そうしてくれ!ジルさん、俺も前に出るよ!」
「オルソン、前に出過ぎるなよ」
「おいおい、コイツら二人で俺達を相手にするつもりか?」
門の前には自警団を下がらせる形で腕利きの傭兵で有るジルが鉄で補強された魔物由来の硬い革鎧に身を包み、使い込まれた業物のロングソードと鉄の盾を装備して前衛として立ち、その隣には草臥れた斧を担ぎ革の鎧並みに分厚い革の服に身を包んだ巨漢のオルソンが続く、そして後方の見張り台からは軽装の猟師のバスカルが弓矢を担いで現れます。
ジルは34歳でエルト小国の交易都市グラント近辺で荷物運搬の際に雇われる傭兵として働いているベテランの戦士で、名も無い小さな村にたまたま帰郷していました。
人懐こい性格で非常に気さくな男で傭兵仲間からも慕われており、昔からオルソンとバスカルの兄貴分です。
バスカルは25歳、オルソンとは兄弟のように育った猟師で線は細いもの無口だが優しいなお兄さんでした。
「ジルさん、前衛を頼む!」ガシャ!
オルソンが気合いを入れて使い込まれた斧を肩に担ぐ。
「オルソン、武器はその草臥れた大斧で大丈夫なのか?」ガチャガチャ……ガシャ!
ジルは左手の盾を前に出し、腰を落として右手に持つ鋭いロングソードを斜め後方に構えました、
「おうよ、バスカルは見張り台から盗賊を狙ってくれ」
「任された!」カチャカチャ……
バスカルは素早く見張り台に登ると矢筒から矢を取り出して弓につがえます。
「ワシらも戦うぞ!」
「僕達も戦う!」
そこに現れた嬉しくない援軍は元戦士の天職を持つ村長のガルフと孤児達でしたが……気合いとは裏腹に武器は鍬に鎌で有ったりします。
これでどう戦うのでしょうか?
「村長! 村長も下がってくれ!」
「その武器では戦えんよ村長」
「おいおい、子供達も居るじゃないか!」
「この鼻垂れ小僧共が! ワシを年寄り扱いするではないわー!」
((いやいや、あんた村で一番年寄りだろ!))
巨漢のオルソンの威勢の良い掛け声で3人はそれぞれ配置につきます。
何故か鍬を武器にする老人と木の棒を武器にする子供達が後ろに並ぶが戦力になりようもなく、足手纏いになりかねないためジルとオルソンは退却の指示を出していました。
「ガルフ長老! 子供達も早く逃げてくれ!」
「むぅ、バスカルもワシを年寄り扱いするか! お主のオシメを交換してやったのは誰じゃバカたれ!」
「う……それは……」 (勘弁してくれよ……)
バスカルも頭を抱えながらもガルフ達を下がらせる為に苦言を呈します。
ガルフは65歳で村の長老で有り、頑固爺を絵に描いたような人物ですがアリシア達には非常に甘いツンデレお爺さんでした。
昔は天職が戦士で村を離れてそれなりに戦いを経験していたのですが……よる年波には勝てず、現在の身体能力は全盛期に比べるまでもなく低いようです。
「みんな! これは盗賊と俺達の戦いだ! 素人が手を出して良いものではない! 直ぐに下がれ! 自警団達と村長の家に行き、物資を集めてエレノの町に逃げる用意をするんだ!」
「何を言っておるんじゃジル! 盗賊は20人以上居るじゃないか! お前ら3人だけで勝てる訳はないじゃろ?」
「そうだよ!僕達も戦えるよ!」
「おいおい、村長は自警団の怪我人達と下がってろ! 子供達も危ないだろう? 俺達が時間を稼ぐから南西の門に急ぐんだ!」
「ガルフのじっちゃん、だいたいな、その鍬じゃまともに戦えないよ!」
「なんじゃとジル! オルソン! バスカル! まだまだ若いもんには負けんぞ!」
そんなやりとりを繰り返す中、救世主が到着しました。
「はいはい、ガルフお爺ちゃん達は怪我をした自警団の方々と南西の門に行って村の人を守って下さいねー」
「おうおうアリシアちゃんか。アリシアちゃんが言うなら仕方ない。爺は他の連中を連れて村長の家と南の門に行くよ。さあ、子供達も急ぐぞ」
「はい!」
アリシアの一言でガルフを含む孤児達全てが南門に退却します。
「「「おい!(あんたアリシアの言うことは聞くんかい!)」」」
ジル、オルソン、バスカル達は盛大に心の中でツッコミをいれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます