虚無編第2話 激動の感情
俺は隠れて、二人の未離の会話を聞いてみた。
「エクスバースちゃ~ん!ぎゅ~!」
先ほど見かけた少女がもう一人の椅子に座っている方に抱きついた。
「やめてくれ、そういうのは…。」
「む~、だって最近のエクスバースちゃんっていつも真剣な顔してるでしょ。たまには息抜きもしなきゃ。」
「息抜きはいいが、お前はやりすぎだ、エクステラ。」
どうやらあの2人はエクスバースとエクステラと呼び合っているらしい。とても不思議な感情だった。あの2人からは未離と同じに見えてしまう。
「おっと、見つかってしまったようだな。エクステラ、周りに気を付けたのか?」
「う~ん、微妙?」
「はぁ…。仕方ない。予定は早いが…。もう隠れなくていい。出てきてくれ。」
俺は仕方なく二人の前に出た。
「お前たちはいったい何なんだ?」
「それについては今のオリジナルの状態を説明する必要があるな。」
「そちらの自己紹介はいい。私たちは知っているからな。私はミリ・エクスバースと呼ばれている。こっちはミリ・エクステラ。」
「はいは~い。よろしくね、お兄ちゃん。」
「お兄ちゃんって…。」
「そうだ。私たちは元々虚無未離(うつなみり)の感情がそれぞれ独立したものだ。私が“楽”の感情だ。基本的に頭脳担当だ。」
「私は“喜”の感情だよ。」
「と、ここら辺の話を詰める前に今のオリジナル、つまり未離の状況だ。」
「あいつはどこへ行ったんだ。」
「とある人に幽閉されている。オリジナルの心次第だが、時間は限られている。」
「どういうことだ?」
「それは書庫に行って自分で確かめてくれ。今は少し手が離せないのでな。」
「は~い!私が案内するよ!」
廊下を少し歩くと大きな書庫に出た。
「ちょっと待っててね。」
エクステラが中に入り、ごそごそと物音が鳴った後に出てきた。
「入っていいよ。」
エクステラに連れられ、中に入ると物置のように様々なものが乱雑に置かれていた。
「ごめんね、汚くて。私もエクスバースちゃんも掃除が好きじゃないの。」
エクステラは白い本を一冊持ってきた。
「とりあえずこの本を読めば分かるから。」
「これは…」
そこには“創造と虚無の力”と書かれていた。
「私はエクスバースちゃんのところに行ってくるね。」
エクステラは部屋を出て行った。
“虚無の女神”それは禁忌の力に染まった一人の少女の話。それは実在しないものを司る力を持つ。存在しないファンタジーは当然、人の心や存在定義、それらを自由に動かせてしまう。その定義はあまりに広義すぎるが故、その背反的存在として創造神を想像すればわかりやすい。創造神は“在る“ということそのものを司る。虚無の女神は”無い“ものあるいは”曖昧“なものを司るのか。
そんなことが書きなぐってあった。おそらくあのエクスバースの考察なのだろう。
「虚無の力…か。そんなものがあったらでたらめだな。」
存在そのものを動かせるとなるとこの世界が存在していることがまずおかしい。そんな力があったのならこの世界はもっとめちゃくちゃになっているだろう。そこに在るものすら信じられないような幻惑の世界に。
「信じられないか?」
振り返るとそこには俺がいた。
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