5ー44

 年末

 俺たちRealは、いろいろな賞をいただいた。

9月に出したアルバム、LOVESICKNESS2が年間売上げ1位だった。

俺は、作詞家大賞と、作曲家大賞をもらった。

9年前に、新人賞をもらったけど、まさか大賞をもらえる日がくるとは思ってなかった。

この協会の賞は、だいたい30年くらいの実績がある 大御所さんがもらう賞なんだって言われた。

作曲家大賞では、俺は最年少の受賞になるらしい。

なんてゆうのか、あまり実感はない。

何をそんなに評価されているのだろう。


デビューして10年。

着実にキャリアアップしていると感じられる。

来年は、10周年を記念して、ベストアルバムも出すことになっている。

きっと、これも売上げ1位を狙っていくのだろう。



 Realの成功は、俺が彼女のことを諦めた犠牲の上に成り立っているって、この前 龍聖に言われたけど、別にそれ、俺が決断してそうなった訳じゃない。

俺のお陰で、みたいなことを言ったけど、ほんとにそうか?

川の流れをコントロール出来るのは、俺だけだって、龍聖は言ってた。

って、俺、なんもコントロールなんて 出来やしない。

俺はただただ、流れに身を任せているだけなんじゃないのかな。

コントロール出来んなら、そもそも彼女にフラレるようなことはしない。

でも、彼女にフラレなかったら……

俺は、デビューしてすら ないんじゃないかと思う。

彼女が短大を卒業して、就職しても、あのまま俺と関係を続けていてくれていたら、俺は、あのまま あの店で、バイトをしてたんじゃないか?

それか、あの店の社員にしてもらったか。

趣味でバンドをしてる人みたいに、たまに、ライブハウスでライブしたり、そうゆうので満足していたのかも。

彼女がいたら、きっと彼女と遊ぶ方を優先しただろうし。

彼女と別れていなかったら、フランスのばあちゃんちへ行くこともなかった。

母さんにバイオリンを教えてもらうことも、ハリスに教えてもらうこともなかった。

ハリスに出会わなかったら、ジョージに会うこともなかった。

oneと知り合いになることなんて、あり得なかった。

ルピアーノのコンテストに出す為のラブソングは、もしかしたら 楽しい気分のラブソングを 書けたかもしれないけど、それでグランプリをとることなんて出来ただろうか。


すべての事柄には、理由がある。

彼女と出会って、そして別れる。

それがターニングポイントだった。


落ちこんで、もうなにもかもイヤになって、逃げ出した あの一歩が たまたま成功に繋がる道だっただけだ。

そこには、俺のチカラなんて、なんも関係してないだろう。

災い転じて福となす

Realの成功は、俺ひとりのチカラなんかじゃない。

俺ひとりでは、何者にもなれなかった。

大輝に誘ってもらって、仲のいい悠弥と一緒にやれて、音楽の才能のかたまりのような瞬、天性のボーカリストの龍聖。

このメンバーで、バンドをやれることになったのは、奇跡のような出来事だった。

今の俺があるのは、みんなのお陰だ。


そして、彼女のお陰だ。


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