5ー37
「桂吾、Realってさ、」
龍聖が静かに話しはじめた。
「大輝が作った船で、俺たちは大輝に誘われて船に乗った乗組員。
だけど、どう進むのかは、川の流れ次第って感じだった。
その川の流れをコントロール出来るのは、桂吾だけなんだ」
「えっ?なに?それ?」
「桂吾がこの道を進まなかったとしたら、俺たちは前には進めなかった。
Realは ここまで これなかった。
桂吾抜きの4人では、無理だったんだ。
だから、桂吾が彼女を諦めた犠牲の上に、この成功は成り立ってるとも言えるんだけど……
Realがここまでやれて、嬉しいし、感謝してるよ。
今さらだけど、桂吾が悩んで、フランスへ高飛びしちゃうことも……俺は、わかってたんだ……
なのに、どうすることもできなかった……
ごめん」
「龍聖……」
「俺の力のことは、ちゃんと話せてなくて悪かったよ。
俺ってゆうか、櫻井家の話だから、あんまり大っぴらに言えないんだ。
下手なこと言って、父さんと兄さんに消されたくなかったから。だから、こんな20年も黙ってて、ゴメン。
ここまできたら、もう消されることも、操られることもないだろうし。ってか、そもそも、桂吾を操ることはできないのかもしれないけどな。
桂吾は、薄々 気づいてたでしょ?」
「あぁ、ちょいちょい匂わすからな!龍聖」
「あはははは!匂わせてた?俺!」
「だってさ~!勘が鋭い、じゃ片付けられないようなこといっぱいあったし。
悠弥じゃ、気づかないだろうけどさ。あはは!
さっきだって、五和さんに、彼が警察官だって話してるし、サインも先読みして用意してもらって、倉田亨様ってさ!おまえ、名前なんて聞いてね~のに!しかも、漢字で!」
「あぁ!彼の記憶の 婚姻届書いた時のが鮮明に見えたからさ。名前も、漢字もわかっちゃった」
「婚姻届か……
俺……、ずっと彼女が幸せでいてくれたらいいって思ってきたけど、実際 彼女が幸せだってことわかって、旦那さんに愛されてるってわかって、安心した。
……ってのと同時に、なんで俺じゃなかったのかなって。
彼女以外の女からは、すげー愛されんのに、なんで彼女には愛されなかったんだろうって。
俺だって、幸せになりたかったのに。誰かとじゃなくて!彼女と、幸せになりたかったのに!!
なんて、 な……
そんな気持ちになっちゃった……」
「桂吾。気持ちはわかるよ。
ずっと桂吾と一緒にいて、桂吾の気持ちは俺が一番わかってるつもりだ。
両手の手のひらに載せきらない物は、ふるい落とすしかないって、ハリスに言われただろ。
彼女は、ふるい落としたんだ」
「あぁ。そうだな。それも、わかってる……
ああ!!マジで!!イラつくな!!
なんでこんなに女々しいのかな、俺!!
傷口にできたかさぶたを剥がしてはグリグリやっちゃうみたいなこと、ずっと繰り返してんだよな……だから、一向に傷が治らねー!!」
「その傷は、治そうなんて思わないで、その傷と一緒に生きていけばいいんじゃないのか?」
「傷と一緒に、か……。そうだな」
「俺もずっと一緒にいるから。
桂吾、俺の気持ちはわかってる?」
「ん?龍聖の気持ち?なんの?」
「……ううん、……それは、いいや。
桂吾、旦那さんの了解を得て、ゆきちゃんと一度会ってみるってのもありかもよ」
「いや!それは止めとくよ。奪い取りたくなっちゃったら、彼女の幸せを壊すことになっちゃうから。
彼女には、幸せでいて欲しいって、ほんとそう思ってるから。それだけは、本心でな」
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