第37話 交差する刃
朝日が昇る。同時に全軍が進撃する。
今回は乗船可能な数の弓兵を乗せている。俺が船を操作しつつ、他の三人と弓兵が攻撃を仕掛けていく。
敵兵の攻撃がギリギリ届かない高度に滞空し、重力の力が一方的にこちらの味方になるような位置関係で攻撃していく。
それは命を奪う雨のように敵に降り注ぎ、集団的な抵抗力を奪っていった。
破城槌が門に到達し、大きな空気の振動がここまで伝わってくる。
事前に聞いた話によると、どうやら、門自体は強い抗魔法が何重にもかけられているため、魔力を帯びた攻撃はあまり効果がないそうで、破城槌に風魔法を用いた加速を加えて攻撃したり、梯子をかけて城門を昇ったりするのが攻城戦の主な戦術らしい。
敵が破城槌を攻撃しようと顔を出すたびに船から攻撃を加え、破城槌の音が響き続ける。
そして、徐々に亀裂が入り始める。最後には、敵を阻むために置かれた門がこちらを迎え入れるかのように大きく開かれた。
多くの味方が突撃する。城門に構えていた敵兵も船の動きと共に倒されていき、こちらの動きを止めることができないままその役目を終えていった。
多くの兵に続き将軍達が入城する。そして、こちらに向かって全軍突撃の合図となる魔法を放った。
船を安全な場所に止める。乗せれる兵の数はそれほど多くないため、船を降りて兵たちと共に本丸を目指した。
所々で剣戟の音がする。敵と会敵する度に味方の兵が抑え込み、敵の最大戦力である四天王と魔王を探す。
城はとても広いが、それを守る兵は足りていない。
抵抗にあいながらも長い時間をかけて最上階にたどり着く。
そこには赤色の絨毯が広がっており、突き当りの大きな扉まで続いていた。
見える部分に敵はおらず、扉へと進む。
そして、ここまでついてきた兵と仲間の三人に目配せすると扉を開け放った。
軍隊すら入れるのではと思えるような広大な広間、その奥には玉座に腰かける魔王。
そして、その横に四天王だろう。強者のオーラを放つ者達が立っていた。
片方は巨大な斧と盾を持ち、更に城壁のような硬い鎧を着こんでいる二足歩行の牛の悪魔
もう片方は巨大なフランベルジュを握る黒い靄がかかった鎧姿の騎士
近づくにつれ、その強大さが肌で感じられる。
だが、今回はこっちもフル装備だ。
フェアリスには、出発の少し前、父の形見の剣と神樹の鎧を預けられていた。剣は俺が持っても枯れてしまうことは無く、ちゃんと持てている。
それに、聖剣のように俺の全力に耐えられるものが無かったために一本だけで戦ってきたが、どうやら二刀使いの剣闘士をずっと見てきたせいか、自然なほどに動きに馴染む。
いや、むしろ、無理やり片手剣に当てはめていた部分が無くなり、さらに動きのキレが上がったように感じている。
両手に剣を握り、負けるわけにはいかないと心を奮い立たせた。
「まさかクラウダが負けるとはな。今回の勇者は相当な強者らしい」
魔王がこちらに話しかけてくる。
二メートルほどの体躯に黒いマントを身に着け、額に角は生えているもののほぼ人間といった姿で少し意外さがある。
「まあいい。ここで魔王と勇者どちらが勝つかで戦いは決まる。始めるとしようか」
話を待つつもりは無かったが、隙が全く無い。
だが、事前の打ち合わせ通り、敵の戦力を分断しようと思い背中に隠した腕の親指を立てて開始の合図を味方に知らせた。
魔王に向かって飛び出す俺。そして、フェアリスが牛の悪魔、レイアが黒い騎士のほうへそれぞれ走り出しサクラと兵がそれに続く。
魔王の魔剣と俺の聖剣がぶつかる。
「ほう。一対一ということか。いいだろう」
仲間の方も当然気になるが、そちらは信頼して任せる。だから、俺は俺の相手を片付ける。
体に濃い黒い魔法が纏わりつく。同時に体の動きが落ちるのを感じる。
だが、聖と闇その力は均衡しているらしい。俺が強化し、相手が弱体化させても相対的な速度は変わりが無いようだ。
同じくらいの身体能力同士で戦いが進む。体格の差はあっても魔法強化に差が出ないのがこちらにとって有利に働いている。
数十合に渡り剣が交差する。
敵の剣が振り下ろされる。両手の剣を交差して受け止めるような姿勢を見せつつ、片側の剣だけを滑らせるようにして体を回転させて受け流す。
そして、反対側の剣で回転の力を乗せて攻撃を加える。
吹き飛ばされる魔王。壁にたたきつけられるのに合わせて聖剣を投擲、風の魔法を押し出すように組み合わせて凄まじい速度で放つ。
そして、聖剣に念じて瞬時に手に戻しながら魔王に接近連撃を叩き込んだ。
壁が大きく陥没し、血を吐く魔王。
しかし、闇魔法を爆発させるように放ったため、後ろに跳び距離を取る。
「がはっ。…………戦士と王ではやはり戦闘経験が違うな。
しかし、それでも今までの勇者のように力任せならば負けない想定だったのだが。
私の采配ミスか。これはクラウダにも謝らねばならんな」
無言で剣を構える俺。
追撃の姿勢をとると、相手の言葉を聞かぬうちに相手に踏み込む。
守り構えを取ろうとする相手に近づく寸前、床を弾力性があるものに変えて速度を上げる。
タイミングをずらされ甘くなった部分に片方の剣を下から振り上げるように放ち跳ね上げる。
そして、もう片方の剣を相手の胸に深く突き刺した。
「…………此度の勇者は容赦が無いようだな。これは強いはずだ」
完全に何かをつぶした感触がある。恐らく心臓部分だろう。
相手の顔からも血の気が失せていくのが分かる。
もう間もなく、やつは死を迎えるだろう。
「……お前に個人的な恨みは無い。だが、俺は俺の理由で勝たせてもらうぞ」
剣を引き抜く。構えを解かないまま、不意打ちに備えて距離を取る。
「いいさ。人間は自分勝手なものと知っている。
…………それに、私も私の理由で勝たせてもらうのだから」
そういった瞬間やつの背後に膨大な魔力が渦巻く。まずいと思い駆けだしたときには遅かったらしい。俺の体が吹き飛ばされ、背に強い衝撃を受けたのが分かった。
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