第178話 蟲のダンジョン 上層②
22層に着くと、そこは樹海フィールドだった。
そして目の前の巨大樹にカブトムシの魔物が、遠くの巨大樹にはクワガタの魔物が生息していた。
『この層は昆虫系の魔物か…』
遠くから見て察するに、カブトムシ魔物の体長は7mほどで攻撃手段はその尖った角だろう。
クワガタ魔物も体長は同じくらいで、攻撃手段はその鋭いハサミだろう。
また、両者とも立派な羽根をしまっているので空を飛ぶこともできるだろう。
『近づいたら角かハサミで攻撃され、距離を取ったら飛んで懐に入られて攻撃され…なかなか厄介だな。』
数匹を同時に相手するのは辛そうなので、一匹ずつ戦って確実に仕留めて進むのが良いだろう。
さらに、一撃で仕留められたら上出来だ。
『とりあえず周辺を警戒して進もう。』
“レーダー“を行使すると、巨大樹だけでなく地中にも反応があった。
『…っ!!罠か!?…いや、魔物の幼虫か。』
突然成長して足元から襲われても嫌なので、地中の幼虫も倒しながら進もう。
…とは言っても地中の座標ぴったりに攻撃するのは“空間魔法“を行使してもなかなか難しい。
『…環境に悪いけどここはダンジョン内だからな。気にしなくて良いか。』
俺は大量のMPを消費して毒魔法“デッドリーポイズンエリア“を地面に向けて行使し、22層全体の土を毒で汚染した。
これで地中の幼虫達は自身に毒を取り込み、勝手に死んでいくだろう。
『さて…地上の魔物は…っ!?』
俺が幼虫に攻撃したことに気付いたようで、周辺の魔物が皆、一直線にこちらに向かってくる。
それも、子を攻撃されて激怒しているようだ。
反撃しようにも相手の数が多すぎる。
目視だけでもカブトムシとクワガタ両方の魔物の混合集団が十匹以上、こちらに向かってきている。
『まじか…』
こうなったら結界魔法で防御しながら大規模魔法で一掃したい。
自身の周りに結界魔法“絶対不可侵結界“を展開した直後、集団の先頭にいたカブトムシの魔物が結界を角で刺突してきた。
まるで硬い金属の武器同士で鍔迫り合いした時の金属音のような、はたまた木の棍棒で人を殴った時の鈍い音のような、そんな音が響いた。
しかし、カブトムシ魔物の角が折れたことでその音は鳴り止んだ。
『あぶね…!ギリギリ結界が間に合ってよかった…』
しかし安堵している暇はなく、後ろにいた集団が一斉攻撃をしてきた。
大量の魔物の体で結界全体が覆われ、結界の外が何も見えなくなった。
『うわ…これは閲覧注意だな…気持ち悪すぎる。』
俺は水属性魔法限界突破Lv.1“止水球“を結界外に“転移“し、自身に向けて放った。
魔物の集団は子をやられて理性を失っているのか、元々知性がないのか、一目散に結界を攻撃し続けて“止水球“の存在に気付いていない。
気付かれないように徐々に距離を詰めていき、そして魔物全体を巻き込める位置に来た。
『…今だ!!』
俺は“魔力念操作“で“止水球“を操作し、魔物の集団にぶつけた。
次の瞬間、魔物達は次々と水圧で粉砕していき、粉々になった身体の雨が降ってきた。
『自分でやったとはいえ…オーバーキルだったな…』
追加で魔物が来ていないか調べるため“レーダー“を行使すると、なんと今の攻防で22層にいた全ての魔物を仕留めていたようだ。
『多いなとは思ってたけど…まじか。』
危険が無くなったのでそこら中に散らばった欠片を“鑑定“すると、魔物スキルはそれぞれ“刺突強化“と“斬撃強化“で、使えそうなので“略奪“した。
ドロップは予想通りそれぞれ角とハサミで、武器や防具の作成に使えそうなので“アイテムボックス“に収納した。
その後、一息ついてから樹海フィールドを探索した。
『…おっ、これは使えるんじゃないか?』
中央にそびえ立つ一際大きい大樹の地上15m地点あたりで、樹液が溢れていたのだ。
風属性魔法で近づき“鑑定“すると、どうやら超激レア素材だったようだ。
『おぉ…!加工して嗜好品に…または昆虫系魔物のテイム食材に使えるのか!』
味が気になるので、少しだけ食事用に取って残りは“アイテムボックス“に収納した。
『さて…加工は“調理“スキルで出来るみたいだしやってみるか。』
早速煮詰めたり焼いたりと作業を始めて数十分。
甘い香りを放つ黄色いドロっとした液体になった。
『じゃあ一口…っ!?!?蜂蜜のような砂糖のような…ただ美味しいということは分かる!!』
前世では食事に興味がなかったし、貴族時代の生活でも特に嗜好品を食べたりはしなかったので、舌が肥えていないのだ。
『美味しいが…そこまで中毒性はないな。…今度誰かに振る舞ってみようかな。』
それからフィールドを隅から隅まで探索して宝箱を四つ見つけたが、〇〇のリングどころかボロボロの鉄の装備ばかりでどれもハズレだった。
おそらく超激レア素材の樹液がある分、宝箱の中身の質が落ちているのだろう。
『…それだったら樹液がなくて超激レア装備品を得られた方が嬉しかったな。』
もし超激レア装備品だったら、果たしてどれほど高ランクの装備が出ただろうか…?
そんなことを考えると、どこかムカついてきた。
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