第153話 極秘クエスト
時の流れは非常に早いもので、冒険者登録してから4ヶ月が経った。
季節は春から夏へと移り変わり、蒸し暑さが襲ってくる。
クレア達は大雨の日を除いて毎日クエストを続け、2週間前ついに俺と同じCランクに昇格した。
俺はというと、ここ数ヵ月の間1つのクエストを達成できずにいた。
このクエストを進行しつつ魔物討伐クエストや薬草採取クエストを達成しているが、Cランクのまま停滞している。
『引き受けなきゃよかったけど…断れなかったしな。』
というのも、これはサリーちゃんからの極秘クエストなのだ。
邪神教は国家の敵でもあるためブルーノ帝国から金が支給されたらしく、報酬が金貨10枚とBランククエスト50回分と非常に良さげだったので引き受けたのだが…
『達成条件が思ってたより難しいんだよな…』
“邪神教の拠点を1つ見つける“という高難度クエストだ。
“邪神教徒探知“の派生スキルを習得したので最初は余裕だと思っていたのだが、想定外の事態が発生した。
コルセアの民間人の中に多くの邪神教徒が蔓延っていたのだ。
邪神教徒の民間人3人を捕縛してサリーちゃんに調べてもらった結果、洗脳されていたことが分かった。
俺の“鑑定“で調べてみても確かに状態欄に洗脳と書かれていた。
洗脳状態を回復する“洗脳状態回復薬“で治すことができるが、素材の薬草が希少なので少し値が張る。
俺は来る日も来る日も洗脳状態の邪神教徒を次々捕縛し、サリーちゃんの元へ連れて行った。
サリーちゃんが帝国のお偉いさんにその事を伝えると、1人捕縛して連行するごとに小銀貨5枚という費用対効果の高い追加報酬が約束された。
既に200人以上の洗脳を解き、金貨数枚分の報酬を得ることができた。
俺としては思わぬ臨時収入にウハウハな気分だ。
毎日活動した記録から統計を取ると、洗脳されるのはスラムの人々や貧困した民間人に多かった。
つらい人生を送ってきたことで心が荒み、邪神教徒からすれば取り入りやすかったのだろう。
洗脳される人の母数が増えていないのは不幸中の幸いだ。
おそらく洗脳は魔道具の効果であり、洗脳状態の人が増えないのは魔道具の行使可能回数が無くなって壊れたか犯人が別の街に移ったからだろう。
出来れば前者で、かつ洗脳の魔道具の在庫切れだと平和で嬉しいものだ。
最初は“邪神教徒探知“に無数の反応があったが、今では残るところあと6人となった。
流れ作業で6人全員を気絶させて運び、ギルドの裏口から受け渡しをした。
「これでこの街に洗脳状態の人はいなくなったな。」
「本当に助かったわ~!!」
「ああ。これでやっとアジト捜索にも本腰を入れられるよ…」
「本当に迷惑かけたわねぇ…まさかあそこまで蔓延ってるとは思わなかったわぁ…」
「まあまあ報酬はもらえたし気にするな。じゃあまだ時間はあるし、街の外で捜索してくる。」
「気を付けるのよ~!!」
楽な仕事で高収入を得られるボーナスタイムはここで終了だ。
クエスト達成数がクレア達に追いつかれそうになってきたので、さくっとアジトを見つけてしまおう。
気持ちを切り替え、門の外に出た。
そして”邪神教徒探知”の効果範囲を半径3kmで設定して行使した。
『…反応はなしか。』
一気に流れ込む情報量が多いと脳を損傷するので、段階的に範囲を広げていく。
半径5km、10km、15kmと広げていくがそれでも反応がない。
『…もしかしてあの盗賊団兼邪神教徒の奴らが倒されたからここから去ったのか?』
だが、その考えは次の瞬間に否定された。
半径30kmまで広げたところで、北西方向に反応が4つあったのだ。
試しに半径35kmで行使してみたが、追加の反応はない。
とすると、この4人は本物の邪神教徒の確立が高いだろう。
『…って、迷いの森付近じゃん!!』
俺の記憶が正しければ、あそこには確か小さな集落があったはずだ。
冒険者ランク上げで訪れた街とは少し離れた、人口数十人程度の集落だ。
『…行ってみるか。』
”闘気操術”を適度なTP消費で行使し、街道を駆け抜けていった。
この前夕暮れ前に大熊宿に戻ろうとTP100,000消費で地面を蹴って進もうとしたとき、地面を大きく抉って身体が回った。
この失敗をしてから、俺は地面によって”闘気操術”の消費TPを考えて行使している。
一時間弱後
『…おっ、見えてきたな。』
目の前に木の幹で作られた城壁に包まれた集落が現れた。
人口は少ないのに立派な城壁があるのは、迷いの森付近に位置しているため魔物の遭遇率が高いからだ。
『”邪神教徒探知”の反応は…まだ消えてないな。』
集落の1番右手前にある家の2階で密会している様子だ。
俺は”迷彩偽装”を行使し、音を立てない足運びで家の元まで距離を詰めた。
そして”闘気操術”のTPを耳に集中すると、男性4人の話し声が聞こえた。
「コルセアで洗脳した奴らの反応はどうだ?」
「………ついさっき完全に反応が消えた。」
「せっかくリーダーから頂いた希少な魔道具を消費してまで洗脳したのに…」
「あのオネエ野郎が動いたんだろうな。くそっ!!」
「落ち着け。とりあえず当面…1ヶ月くらいはここで身を潜めるぞ。」
「………了解。」
『なるほどな。俺が討伐してもいいが…依頼はアジトの発見までだからな。今得た情報だけ持ち帰るか。』
拠点と呼べるのかは怪しいところだったが、サリーちゃんに報告したら無事クエストを達成した。
それから1週間後に帝国の騎士団がその集落に攻め込み、邪神教徒4人を捕縛。
4人は強力な異能の持ち主であったため、騎士団に多少の被害が出たらしい。
帝国が尋問して情報を吐かせた結果、彼らの中で1番強かったリーダーは邪神教に10人いる幹部の内の1人でだったようだ。
その仕事内容は予想通り、洗脳で邪神教徒を増やして力を増すことだったという。
単なる偶然だったのだが、帝国の邪神教対策本部が幹部を発見した俺の活躍を称えて金貨30枚が送られてきた。
”今後の活躍も楽しみにしている”という手紙付きで。
おそらく今後は俺を優先して極秘クエストが依頼されるのだろう。
大金が入って嬉しく思いつつも、足枷が付いたような感覚であまり喜べないアルフレッドであった。
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