第71話 提案

『なんだ…?首に何かが…』




意識は若干取り戻したものの、身体が全く動かない。


おそらく壁に打ち付けられたときに全身打撲をしていたのだろう。




「本当に……やるのか?オレは辞めた方が…」




「あたしも!!やっぱり………は辞めておこうよ!!」




「ダメ!!うちの村の民間療法では……を尻に刺すんダ!!」




「……を⁉妾にはちと…………は刺激が強すぎるのじゃ…」




『…おいちょっと待て。何か不穏な会話が聞こえるんだが…』




首に何かを巻きつけられたような感覚といい…まさか俺が知っているアレか?


前世で風邪をひいた時の民間療法…巻く派と刺す派があるアレか?




「じゃあまずは……を脱がせるヨ。」




「で、では私が手伝いますね。」




「ボ、ボクも…」




『ちょっと待て!!大事な何かを失う気がする!!!』




俺は必死にTPを身体に循環させ、身体の自由を取り戻した。


目を開けると、やはりメリッサがネギに似た植物を手に持っていた。




「ちょっ、待って!!!!!!」




「あっ、起きましたね。」




「刺さなくて済んだナ!!」




「はぁ…助かった…」




辺りを見回すと、そこは前世の保健室のような場所だった。


おそらくコロッセオ内の処置室だろう。




「おいアルフレッド!!倒れた時はびっくりしたぞ!!」




「私も気が気じゃなかったです。」




「すまんすまん。」




「スーもアルフレッドが倒れるなんてびっくりしたよ…!!」




「ボ、ボクも…!!」




2人は俺を何だと思っているんだ。


強い敵と戦ったら倒れるに決まっているだろうに…




「もう終わったのじゃ?」




「終わりましたヨ!!」




「…っ!!」




カーテンで遮られた向こうからのじゃロリババァ…もとい、エレノア様がひょこっと顔を出した。


…可愛い。




「のじゃロリバ…じゃなくてエレノア様!!」




「おい小童、意味は分からんがお主失礼なこと言おうとしたじゃろ?」




「い、いやエレノア様に向かってそんな失礼なこと!!」




「…まあ良しとするのじゃ。メリッサと共に即座に変異した選手を仕留めてくれたこと、感謝するのじゃ。おかげで被害は最小限で済んだのじゃ!!」




「ああいえ、俺はメリッサの加勢に行っただけですから。」




「そうかそうか!!」




メリッサが照れて赤面し、尻尾をぶんぶん振っている。


今までも気になっていたが…ファンタジーならではの猫獣人、恐ろしく可愛いな。




「ところで…剣闘祭はどうなっていますか?」




「それはうちが説明するヨ!!麻薬騒動で今日は中止…だから、儲ける機会は失ってないヨ!!」




「良かった…!!」




メリッサは俺の質問の意図を理解してくれていたようだ。


そう、俺が気にしていたのはまさに賭博のことだ。




もし俺が気絶している間に試合が進んでいたら、金貨数十枚(百数十万円)稼ぐ絶好のチャンスを失っていたのだ。


他にもっと心配するところあるだろ…と罵ってくれても構わない。


だが、俺にとっては金の方が重要なのだ。




「皆、席を外すのじゃ。」




「分かりました。」




「じゃあまた後でな!!」




エレノア様が真剣な表情で皆に呼びかけると、そそくさと処置室を出ていった。




「さて…単刀直入に言う。お主、妾の後継者になるのじゃ!!」




「是非!!」




「とはいえすぐには答えを出せまい。考える時間を…ん?お主今なんと言ったのじゃ?」




「是非お願いします!!」




「即答…流石の妾でもびっくりしたのじゃ。」




開会式の時に剣闘祭で活躍して選ばれたらいいなとは思っていたが、化け物退治という全く別の活躍で選ばれてしまった。


…まあ結果的に選ばれたので良かったとしよう。




「そうか…じゃがお主はまだ身体の成長が不十分なのじゃ。」




『いや…ロリっ娘のあなたに言われたくはないがな。』




「お主…また失礼なことを考えたじゃろ?」




「そ、そんなことないですよ!!」




このロリババァ…スキルを持っていないのにどうしてわかるんだ?




「それはさておき…お主はまだ成長期の真っ最中じゃ。まだ12か13歳じゃろ?」




「はい。まだ12ですね。」




と言っても、この世界の12歳は達観した人が多い。


前世で例えると、身体は中学生だが中身は高校生と同じくらいだ。




「なら、成長が止まる18歳くらいまでは妾の後継者(仮)ということにするのじゃ!!それまで鍛錬を怠らず、生き残っていたら正式に妾の後継者にしてやるのじゃ!!」




「おぉ…お?生き残っていたらとは?」




「言葉の通りじゃ。お主、冒険者になるのじゃろ?」




「あぁ、なるほど。てっきりエレノア様にしごかれるのかと思いました。」




「なるほど…それもありじゃな!!」




『しまった。余計なことを言ってしまった…!!』




エレノア様がいたずらっ子のような顔をしている。


本当にそんなことにならなければいいが…




「…ところでエレノア様、後継者って具体的に何をするんですか?」




「お主を吸血鬼にするだけじゃよ?ただ妾が先輩になりたかっただけなのじゃ!!」




『おいまじかよ…まあ俺としては寿命が延びるから嬉しいんだがな。』




しかし、それにしてはエレノア様の表情が暗かった気がする。


おそらく今のは建前で、本音は




『吸血鬼の寿命が永遠に近いから知人が妾を残して死んでゆく…それがつらかったのじゃ!!』




とかその辺りだろう。


勝手に同情するのはお門違いだが、後継者になったらできるだけエレノア様の側にいてあげよう。




「では…後継者(仮)としてこれからよろしくお願いします。」




「うむ!!よろしくされるのじゃ!!」

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