第55話 襲撃

それから2日が経った。


今日も今日とて朝食を終え、早速体内でTPを循環させながらトランプで遊んでいる。




「そろそろブルーノ帝国の領土に入った頃か…」




ペンシルゴン領とブルーノ帝国のちょうど中間あたりなので、ここら辺はいっそう木々が生い茂っている。


緑が豊かで目が休まるが、同時に左右の視界が悪い。




「…?アラン、浮かない顔してどうしたんだ?」




「最近この辺りに盗賊団が住み着いてるらしいんだよ…5人とも、すぐに応戦できるよう武器を手元に置いておけ。」




「は~い。」




「盗賊なんて返り討ちにしてやるぜ!!」




今使ってる馬車は冒険者学校のエンブレムが付いている。


冒険者学校の生徒を誘拐して親に身代金を要求する…なんてことがあるかもしれない。




「…小僧、索敵を頼まれてくれるか?」




「分かった。」




実は今までも、”魔物探知”と”犯罪者探知”を常に行使していた。


”探知”スキルは行使すれば自動で索敵して知らせてくれるため、負担がないのだ。




『まだ無罪の盗賊もいるかもしれないし…一応”盗賊探知”を行使しておくか。範囲は…移動速度が速いし半径500mでいいか。反応は少ないだろうし、脳への負担は心配しなくていいか。』




「おいアルフレッド、順番来たぞ。どうしたボーっとして?」




「あ、ああ。少し考え事をな。んースタンドで。」




それから移動すること数十分。




「くっそぉ…ポーカーだとどうしてもイザベルに勝てないな…」




「ボ、ボクはこれ得意なのです!!」




「何か勝てる方法は…っ!!アラン!!速度を緩めてくれ!!」




突如、脳内でピコン!!というシステム音が何十回も続けて鳴った。


これは自動化した”探知”スキルに反応があったときの音だ。




「まさか…⁉」




「…ああ。500m先右前方の木の上に4人、左前方の木の上に4人、さらに草むらの中に9人反応があった。」




「全員戦闘態勢を取れ!!」




「教授…?っ…⁉」




4人は困惑した表情を見せたが、流石は特待クラスのトップ。


すぐに状況を把握し、戦闘態勢を取った。




「気付いていないふりをして接近する。俺は右の敵を倒す。小僧は左の敵を。」




「ああ。」




「4人は中央の敵を倒してくれ。数が多いから注意しろ。」




「分かりました!」




「おう!!」




「左右の敵はおそらく狙撃手だ。小僧、同時に奇襲して仕留めるぞ。…やれるな?」




「ああ!!」




「アイリス、俺と小僧が出たらすぐに馬を停止させろ。それから3分後に馬車から出て戦闘開始だ。」




「はい。」




盗賊までの距離はあと240m…


”鑑定”によると中央にいる盗賊団長と副団長がLv.40前後とまあまあ強く、他はLv.30前後だ。




今までTPを循環させていたことが功を奏し、すぐにTP2000を纏うことができた。


油断しなければ大丈夫…なはずだ。




「行くぞ?」




「…ああ。」




初めて行う人間同士の命のやりとり…


俺は緊張し、グレートバスタードソードを強く握りしめた。




「5…4…3…2…1…今!!」




カウントと同時に、俺とアランは高速で駆け出した。


そしてすぐに左右の森の中に入り、姿を隠しながら距離を詰めた。




「目標まであと150…100…50…今!」




標的4人を視認すると同時に両手剣Lv.6“ジェットスマッシュ“を行使し、弓を構えていた中央の敵を両断した。


左脇の下から右腰までが両断され、血飛沫が広がる。




「て、敵しゅ…」




俺は血飛沫を見て動きを止めることなく、すかさず両手剣Lv.5“サイクロン“にスキルチェインして残りの3人を仕留めた。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」




手に肉を斬ったときの柔らかい感触と、骨を断ったときの硬い感触が残っている。


そして地面には瞳孔が開き、グロテスクな死体が4つ転がっている。




「うっ…気持ち悪い…」




模擬戦では斬るとすぐに身体が闘技場の外へ転送されるので、模擬戦で体験した感覚とはまるで別物だ。


吐き気を感じると共に、クレアやアイリス、イザベル、スーを死なせたくないと強く思った。




『とりあえず目標は達成したから…現状を把握しよう。』




“盗賊探知“の反応によると、アランは既に右側の4人を仕留めて中央に加勢している。


残りの盗賊はあと5人だ。




『俺も加勢しに行くか…?いや、ここから弓で牽制しよう。』




ちょうど今仕留めた盗賊の弓が枝に引っかかっている。


俺の存在が気付かれていない以上、これを利用しない手は無いだろう。




『盗賊団長は…後ろで構えてるあいつか。』




アランたちに注意が向き、隙だらけだ。


ここは1撃で仕留めたいところだ。




「すー…はぁー…ここだ!!」




ヘッドショットを狙って放った矢は風切り音と共に飛んでいく。


しかし矢の軌道がぶれていたため、頭ではなく首を貫いた。




『弓の状態が悪かったのか。…まあ仕留められたし結果オーライだな。』




「団長がやられた!!野郎ども、逃げろ!!」




「逃がさん!!」




団長が死んだため盗賊団の士気が下がり、連携がバラバラになった。


アランは“闘気操術“で底上げした能力値によって逃げた方へ先回りし、残り4人を瞬殺した。




『ふぅ…“盗賊探知“も“魔物探知“も反応は無いな。これで一件落着か…』




「お前ら馬車に戻れー!!さっさとコルセアに行くぞ。」




「おう!!」




「はい。」




4人とも1人ずつ盗賊を殺めたようだが、特に気に病んでいる様子がない。


少し複雑な気持ちだが、安心した。

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