第22話 先輩

『ボクっ娘来たーー!!!この世界に転生できてよかった…!!って、落ち着け俺!!』




いくら前世で推していたキャラと似ているとはいえ、感情をさらけ出したらひかれてしまう。


心の中でひそかに推そう…




「よろしくお願いします。先輩も朝から体力作りを?」




「うん、そうなんだ!ボクは弱いから鍛えないとね…」




話しながらエレナ先輩を”鑑定”してみた。






名前 エレナ 種族 人間 Lv.40




HP 230/230 TP 826/826 SP 0




STR 50 VIT 60 DEX 50 AGI 40 INT 40 LUK 20




スキル


片手剣Lv.3 細剣Lv.7 盾Lv.3 体術Lv.5






『細剣Lv.7ってむしろ強い方じゃないか…?』




「ところで、先輩は特待クラスですか?」




「そうだよ。と言っても落ちこぼれだけどね…」




「先輩は強いと思うんですが…」




「2年生になると実践訓練が始まるんだ。ボクは魔物を相手にすると動けなくなってしまって…」




「なるほど…」




エレナ先輩の手が震えていた。


おそらく魔物に関する何らかのトラウマを抱えているのだろう。




「何か分からないことがあったら聞いてね!ボクは毎日この辺りを走ってるから。」




「ありがとうございます!ではまた!」




「うん!またね!」




会釈をした後、別れてランニングを再開した。




この世界は娯楽が少ないため今までは訓練で気分を誤魔化してきたが、せっかく推しを見つけたのだ。


前世ではまっていた推し活を始めようじゃないか。




『何か俺にできることは無いか…?』




そんなことを考えながらランニングを続け、気が付けば7時前になっていた。




『…っと、8:30からホームルームが始まるから少し急がないと。』




息切れしながらも急いで寮に戻る途中




「アルフレッド様、おはようございます。」




「あ、ソフィア。おはよう。」




「…毎朝走っているのですか?」




「ああ。体力作りは大事だからな。」




「朝早くから精が出ますね。」




「ありがとう。じゃあ先に戻ってるから。あ、急がなくていいからな。」




「はい。ではまた後程。」




それから寮に着き、水浴びや朝食を終えた。




「では行ってらっしゃいませ。」




「ああ。…ソフィアはずっとここで待ってるのか?」




「はい。」




「俺が言うことじゃないかもしれないが…楽に過ごしていいからな。何かを持ち込んでも構わない。」




「ありがとうございます。」




「じゃあ行ってくる。」




娯楽が少ないこの世界でずっと部屋に閉じこもったままなのはきつい。


ソフィアは俺に良くしてくれているので、できるだけ楽をさせてあげたいものだ。




そんなことを考えながら校舎に向かっていると、怒声が聞こえてきた。




「お前のせいで俺達の成績が落ちちまったじゃねーか!!どうしてくれるんだよこの男女が!!」




「ご、ごめん…」




「あぁ⁉よく聞こえねぇな!!」




『あれは…っ!!エレナ先輩!!』




男子生徒4人で囲んでエレナ先輩をいじめている。


その中の1人がエレナ先輩に手を出そうとした。




「…っ!!やめろ!!」




推しが傷つけられる姿なんて見たくない。


気が付くと、俺の身体は既に動き出していた。




今まで出したことがないほど全力で駆け寄り、男子生徒の拳を左手で掴んで止めた。




「なっ、何だお前は!!どこから来た⁉」




「アルフレッド…君?」




「推しを…ごほんっ、エレナ先輩をいじめてんじゃねーよ!!!!」




先輩の目の前で本音が漏れてしまい、咳ばらいをして誤魔化した。

本気で怒ったのはいつぶりだろうか。


前世で祖母がおじさんに脅されているのを助けて、




『あんたは怒ったら怖い顔をするね。せっかく母寄りの整った顔をしているんだから怒るんじゃないよ。』




と言われたとき以来だろうか。




「ひっ…ひぃぃ!!!」




「兄貴、こいつ1年主席のアルフレッドだ!!!」




「アラン教授と互角に戦ったって噂がある…化け物だ!!」




「今日のところは…お前の顔に免じて見逃してやるよ。」




「…は?俺がお前たちを見逃してやってるんだよ!!!」




「ひっ…!!」




「次エレナ先輩に手を出してみろ。お前たちの身体を八つ裂きにしてやるからな!!」




「お、お前等!!帰るぞ!!」




最後に脅し文句を言うと、男子生徒達は尻尾を巻いて逃げていった。


我ながらよくもまああんなに恥ずかしいセリフを言えたものだ。




「怒るのも結構疲れるんだな…エレナ先輩、大丈夫ですか?」




「アルフレッド君…ありがとぉぉ!!!」




「えっ!!うわっ!!!」




相当怖かったのか、泣きながら抱きついてきた。




「無事でよかったです。」




泣き続けるエレナ先輩に胸を貸した。




『…やばい!!距離が近い!!どうしよ!!』




前世は年齢=彼女いない歴の社畜で今世はこれまで屋敷にこもりっきりだったため、女性に対する免疫が皆無なのだ。




あたふたしながら胸を貸し続けること数分。




「…もう大丈夫。助けてくれてありがとね!」




「はい。これからも何かあったら俺を呼んでください!いつでも駆け付けますから!!」




「何だか立場が逆になっちゃったね。えへへ…」




『…尊い!!もはや尊死できるレベルに尊い…!!』




「あ、もうすぐ学活の時間だ!!アルフレッド君も急がなきゃ!!」




「へ?あ、そうですね!!」




「じゃあまたね!!」




「はい。また。」




もう少し推しの近くに居たい…が仕方ない。


別れた後急いで教室に向かい、何とか遅刻は免れた。

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