第二章/接触 [遭遇]第1話‐2
‐やはり、ワープドライヴの感覚は良いものではない。‐
ラファエルは苦々しく顔を歪めると、デスク脇から水筒を取り出し、入っている水を飲んで少しでも気分を紛らわそうとした。水が喉を通る感覚。体には異常は無さそうだ。水筒の蓋を閉め、正面のスクリーンを見据える。スクリーンには機外カメラが撮影している土星が映し出されており、目的地に到着したことを意味していた。
ラファエルは椅子に座り直し、艦橋のスタッフ全員を見渡して口を開いた。
「各部、チェックを頼む。」
「了解。」と、各所からの返答。一拍置いてスタッフから各部に異常はないことの報告を受けた。ラファエルは頷いた後、艦橋中央にある円状のレーダーを見た。レーダーは太陽圏から拡大され、土星圏を映しており、土星周辺が妙に揺らいで表示されている。ラファエルは顎鬚を撫でる。
「オペレーター、ミハイル技術主任に通信を繋いでもらってもいいか?」
「ハイ!」とオペレーターは返事し、コンソールを操作してミハイルに通信を繋げた。デスクの空中ディスプレイに陰気なミハイルの顔が表示される。ワープドライヴに酔ったのか少し気持ち悪そうにしている。
「あー、ミハイル技術主任。今は大丈夫か?」
ラファエルの問いに、ミハイルは「・・・ええ。」と少し口を押えながら返事をした。
「一つ確認なんだが、レーダーが示した通り本当に対象が土星圏にいるんだな?」
まだ気持ち悪そうにしながらも、ミハイルはコクコクと頷いた。
「・・・対象が出現する際には空間に一定波形の〝揺らぎ〟が生じます。このレーダーは、各観測衛星からその〝揺らぎ〟を計測して表示しています。アイク前国家元首の〝禁書〟を参考にして制作されたので間違いはないです・・・うっぷ・・・」
今にも吐き出しそうなミハイルを気の毒に思いつつ、「そうか。」とラファエルは短く返事をした。その時、
「艦長!艦前方、約300㎞先に空間の歪みを目視!」
機外の様子を観察していたオペレーターが叫ぶ。「スクリーンに出します!」とオペレーターは自分が見ていた映像をメインスクリーンに投影する。漆黒の宇宙空間。だが確かに映像に映っている箇所は暗闇にもかかわらず妙に歪んでいるのが分かる。
「・・・ほらね?」
青い顔でミハイルは肩を竦めながら笑う。ラファエルは目に穴が空くほどにスクリーンを注視した。
歪みの中心から少しずつ金色の粒子が少しずつ漏れ出している。粒子は拡散していき〝何か〟を形作っていった。二股に分かれた尾ひれ。巨大な胸びれ。口、目、胴体。次第に形がはっきりとしていく。完全に形が整えられ、金色の鯨は光輝きながら、そこに出現した。尾ひれと胸びれを振る度に黄金の粒子が舞う。無重力空間を揺蕩うその様は、まさに鯨のそれであり、一枚の絵画の様だった。
出現した空想上の生物であった〝それ〟に艦橋の全員が本当に存在したという驚愕と壮麗な景色に言葉を失い、目を奪われた。ふと、我に返ったラファエルが慌てて艦橋全員に指示を出す。
「各員、対象の状況、解析を頼む!分かり次第報告せよ!」
ラファエルの一喝で艦橋の全員が同じ様に我に返り、「了解!」と返事をする。ラファエルは鯨を目を細めて見据えながら手を組んだ。目の前に現れた鯨が一体どういう存在なのか。アキレア様が言っていた、前国家元首の〝禁書〟通りであるならば・・・
「対象に目立った動きなし。まだ宇宙空間を泳いでいます。体長は[ストレリチア]同じです。体積、及び構成物質の金色の粒子は一部波形がEと類似していますが、その他全てがアンノウンです。」
「だろうな・・・。」とラファエルは小さく呟く。アキレアの計画の資料に載っていた通り、Eとは類似しているが、何かが決定的に違うらしい。まぁ、E自体かなり不透明なエネルギーではあるが。「で、では、後はお願いします。頑張ってください。」と、ミハイルは空中ディスプレイから姿を消した。ラファエルは「分かっている。」と消えたディスプレイに向かって返事をした後、深く椅子に座りこんだ。
‐まぁ、相手が何であれアキレア様の計画はこれからだ。まずは小手調べと行くか‐
ラファエルは小さく息を吸った後、艦橋全体に響き渡る様に叫んだ。
「総員、第一種戦闘配備!」
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