第一幕/出立 [邂逅/後]第2話‐1

 ー5分前、ストレリチア艦橋ー

 ラファエルは、三杯目のコーヒーが注がれたマグカップに口をつけながら眉間に皺を寄せて、じっと端末の画面を見つめていた。端末に表示されているのは[JST]所属の民間シャトル[ハミングバード号]の宇宙航行許可証だった。許可証には印が表示されており、各国の機関の許可は得ていることを示している。

「どういうことだ?」

ラファエルは一人呟く。そうだとは思っていたが、実際に目にするとやはり疑いたくはなる。

「私にもさっぱり。少なくとも、あの民間シャトルは承認を得て宇宙に出ているということですね。」

呟きが聞こえたのか、ラファエルの斜め後ろに立っている保安部長が受け答えた。ラファエルは保安部長の言葉を聞きながら、視線を許可証に記載されているフライトルートに移す。そこにはしっかりと火星を経由する事と、最終的には海王星まで行く予定が記されていた。

‐選りによって海王星とは、な・・・‐

ラファエルはマグカップをデスクに置き、顎鬚を撫でながら端末の裏を確認する。何かを繋げて細工した様な痕跡は見当たらない。技術部も同じ見解で、端末内のソフトウェアも正常で外部からのハッキングや操作された痕跡は見当たらず、且つ許可証も偽装されておらず正規のものだと主張。シャトル側の非を否定している。そうなると、自分たちが持っていたフライトスケジュールが誤っていた事となる。しかし、持っていたスケジュールも各国機関の了承を得たもの‐急にも関わらず対応してくれたことに感謝の念が尽きない‐であり、機関の方も必ず確認して許可を出している事から誤りが生じないはずである。念の為、こちらのフライトスケジュールも確認してもらっているが・・・。ラファエルはデスクに端末を置いて、マグカップを手にした。もし、こちらのスケジュールに問題に生じていた場合は内部の犯行であることになる。それが出来る人物も思い当たる節がある。が、それが出来る時間やましてや度量もない。そもそも、あそこまで支援しておいて台無しにする動機が考えつかない。ラファエルはマグカップを口へ運ぶ。どっちにせよ、今は犯人捜しをしている場合ではない。日本からの珍客を帰して、〝任務〟に戻らなければ。だが、何か邪魔をされたらたまったものではないから。

「保安部長。念の為、民間シャトルの乗員も含めて人員の監視を怠らない様にしてくれ。」

「サー、イエスサー」と、保安部長は敬礼をする。ラファエルは深く息を吐きながら椅子に座りこみ、再びコーヒーを口へ運んだ。後方から軽い振動音。何事かとカップを口につけながらラファエルは振り返ると、保安部長がポケットから携帯端末を取り出し、耳に当てていた。

「はい・・・はい・・・そうですか、準備の方が整いましたか。分かりました、ではそちらに案内します。・・・そうですね・・・今からだと3分前位には貴賓室に着きますね。」

腕時計を見ながら「では」と端末に向かって軽く返事をする。

「シャトルの準備が整ったようなので、私はこれからシャトルの皆様の案内に向かいます。では、これにて。」

再び敬礼をし、回れ右をして扉へ向かって行く保安部長。「おう」と返事をしてそれを見送ると、ラファエルはカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。

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