和ノ空国のカラクリ機械
猫隼
プロローグ
帰国
京都は
しかし見た目程は少年ではない。彼の名は
階段を降りると、それこそ巨大な寺の中のような
薄暗がりの中で、金色の光を発しているような
自分の本来の国に戻ってきて、外国のことを懐かしく思うなんて、自分の魂もずいぶん遠くへ旅立ってしまったものだと、蓮介は思う。
「誰かいますか?」
普通に見渡す限りは、自分以外、完全に誰もいなさそうなその場で、独り言でも呟くように問いかける蓮介。
当然のようだが、どこからも返事などはない。
カチリ、とそんな音がした。手に持っていた玩具のようなものを蓮介が離した時だ。そして妙にゆっくり落ちたそれが地面に触れた時には、ギコっというような音。同時に、見えない煙でもあって、それが晴れていったかのように、一人の男が姿を現す。
「いるのならちゃんと返事しろよ。不安になるから」
「私には何も言わないでください」
怒気を含ませた蓮介の言葉を全く気にする様子もなく、男は自分の伝えるべきことだけを伝えてきた。
「
「里に?」
里への帰還。
今の情勢を考えると、意外でもない命令だった。
「それなら先に。いや、お前が伝言係なら、そうだよな?」
「そうですね。私はあなたに対して、ただ雪菜様の件を伝えに来ただけの者です」
「それならお前の方が帰るのは早くなるはずだ。実は通常の報告とは別に、個人的に伝えたいことがあるんだけど、それは先に伝えておいてくれないか。……雪菜様に」
なぜか雪菜様、と口にすることに少しばかり抵抗があるようだった蓮介。
「わかりました、伝えておきましょう」
「それじゃ、言葉の通り伝えてくれ」
そして蓮介は、自分が仕える立場にあるとはいえ、そういうのとは関係なく、深いつながりある特別な相手である彼女への、実のところ、少し情けない伝言を伝えた。
「ごめんなさい。お母さんがくれた御守り、失くしちゃった」
ーー
もうずいぶん昔。平安と呼ばれる時代の末期頃。
日本という、世界全体から見れば小さな島国において、世に言うカラクリ師たちが、自分たちの隠れ里を作ることを決めた。
全ては恐れから。
当時より彼らが有していたある特別な技術は、人が持つにはあまりに大きな力とされていた。平安時代を通して急速に発展していたそれが、絶える事なき人の戦に利用される事、それによる人々の自滅という未来を、カラクリ師たちは恐れ、しかしそれでも、全てを捨てる道を選ぶことはできなかった。
カラクリ師たちだけの秘密の国。「
実に数十年の月日をかけて造られたというその隠れ里は、その時よりも数百年と経った江戸の世においても、その場所や規模はおろか、存在の真偽さえ、外部の者にはほとんど知られていない。
ただし、最大の問題は内部にあった。
おそらく最初からではなかったろう。しかし十九世紀中頃、江戸末期という激動の時代。それは現実にそうなっていた。隠れ里に生きるカラクリ師たちの思想は今や一つではなく、結束は完全に崩れつつあった。
日の国において、電子機器もなく蒸気機関すらなく、カラクリと呼ばれたテクノロジーが最も優れていた頃。後の世でただのゼンマイ仕掛けの玩具と成り果てるカラクリは、海に潜り、空を飛び、そして……
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