脱着可能な女の首(巻第五「龍田姫の事」)

 何某の娘が成人したので女房達を数多つけてやることにした。

 そこに、どこから来たのか、大層優美な女が一人、門の前に佇んで、宮仕えの望みがある旨を云ってきた。

「幸いなことに、この屋敷のお方が、御身のような人を求めております。さあいらっしゃって、北の方にご紹介しましょう」

 受け付けた者がそう云って、彼女を北の方に紹介すると、娘の女房として屋敷に置くことになった。


 女は、よく気が付いて心に叶った宮仕えはさることながら、絵描き、花結び、手跡はいずれも美しく、縫物に至っては七夕の織女にも劣るまいといったものであった。

 また、ものの色合いを染め出す業は、龍田姫にも恥じない仕上がりであった。


 ある夜、北の方は、女の部屋の中をたまたま目にした。

 夜も大層更けて、微かな灯りに照らされた女は、自分の首を鏡台に置き、それに鉄漿を付けている。

 化粧を終えると、自分で首を胴体に接ぎ、何事もなかったかのように過ごしていた。

 北の方は目の当たりにした光景に、云いようもない恐ろしさを感じた。


 サテ、北の方は殿である何某にこのことを相談した。

「このようなことがございまして、いかがお計らいいたしましょう」

「早速、それとなく暇を出そう」

 そういうことになった。


 北の方は、女を近くに呼んで、

「云いにくいことではあるが、近頃、人が多すぎるので、一人二人に暇を出せという命を受けている。そなたのような重宝の人は他にいないので、いつまでもいてほしいとは思うのだが、他の女房たちはいずれも譜代の者であり、暇を出すことができない。そうであるので、そなたにはひとまず出て行っていただきたい。主命には背きがたいのだが、娘の嫁入りの際にはきっと迎えに行きます」

 これを聞くと女の気色がざわっと変わり、

「さては何ぞご覧になったので、そのように仰せになったのではございませんか」

 そう云って傍近くへ寄ってくる。

「そ、そなたは何を云うか。またしかるべき時に、きっと喚び戻すから」

 知らないふりをして北の方は答えたが、

「いや、いや、きっと後ろめたいことがございますね」

 そう云うなり、女が飛びかかって来た。

 その時、北の方の後ろに控えていた男が、あらかじめ備えていたとおり、太刀を抜くと女をはたと斬った。

 斬りつけられて弱ったところを引き倒すと、さらに思いのままに更に斬りまくった。

 すると女は正体を現したのだが、口は耳まで裂け、角を生やした、年経た猫であった。


 この化け猫は、その名も龍田姫たつたびめと云ったそうだ。

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