第62話 宣戦布告

「ゆ、悠二さん……!!」


 現れた機械目玉に波留ちゃんが怯えだした。


 この目玉に酷い目に遭わされたから、相当トラウマになっているはず。

 俺は彼女を庇いながら奴を睨み付けた。


『何故私が監視している事が分かった……?』


「感知能力を集中して高めたんだ。そうしたらお前の気配が感じた」


 まず気配が感じられやすい順番としては、怪獣、次に怪人、そしてこの機械目玉となっている。

 

 分かりやすく言えば、怪獣はどこに現れようが感じやすいレベル。


 怪人は少し気配が感じられるといったレベル。


 そして機械目玉はかなり慎重かつ隠密なのか、かなり気配が薄いレベルだ。


 だから俺は元々あった感知能力を最大限にまで高め、奴の居場所を探る事にした。

 そうしたところ俺達の真上……しかも雲の中に奴が紛れて、見張っていたということだ。


「……お前は一体何者だ?」


 奴が現れたところで、俺は疑問をぶつけてみた。

 もっともまともな答えが返ってくるとは思えないのだが。


『……私は、お前達が「怪獣」と呼ぶものだ』


「……! お前、怪獣なのか?」


『そう……これはあくまで潜伏する為の仮の姿。これによって人間やお前達から欺いてきた』


 意外にも素直な返事が来た。答えてもいいという考えでもあったのか。


 それにその目玉が仮の姿だったとは……どうりで気配が薄い訳だ。

 となると目玉から怪獣に変化できる訳だが、さすがの俺でもどんな姿なのかは想像しづらい。


「悠二君!!」


「……! 皆!」


 俺達の元に舞さん達がやって来る。……なお晃さんはいない。


 多分、彼は玲央ちゃん辺りに来るなとか言われたのだろう。

 しかもこうしてすぐに来たのは、俺と波留ちゃんの様子を見ていたからというのが何とも皮肉。


『先ほど我が同族を倒した奴らか……揃いも揃って来るとは』


「……同族? もしかしてアラクネ……怪人の事か?」


『それ以外に何がある? あれは我々の小型種族……大きいか小さいかの違いだ』


「……怪獣と怪人が同じ種族……」


 驚いた。奴らは別々の存在ではなく、1つのセットだったのだ。

 以前、フェーミナが怪獣は異世界から来たと言っていたが、怪人もいるなんて一体どんな恐ろしい世界なのだろうか。


「……あなたは怪人をばらまき、何をしようとしているのですか?」


 俺が驚きの事実に圧倒されていると、フェーミナがアルマライザーから人間態へと変化した。

 元々目尻の鋭い目が、さらに鋭くなっている。


『調査だ』


「調査?」


 機械の目玉が舞さんを見つめた。

 ビクリと彼女が驚く。


『先の同族が「人間」というものに興味を示した。それで我々は人間がどういうものかを調べていくうちに、お前の存在にたどり着き、そして怪獣と人間両方の姿を持っている事を知った』


「やっぱり俺の正体を知っていたんだな」


『調査は順調にいっている。そのおかげで私は人間の言葉を話す事ができ、この世界の侵攻もやりやすくなった』


 先の同族というと、カブトムシ怪獣のタイタン辺りか。

 アイツが死に間際に舞さんを見つめていたのはそういう事だったのだ。


「なるほど、あなた達怪獣の目的がある程度分かりました。あなた達は……」


「この世界の情報を吸って、それを元に侵略しているんだな」

 

 フェーミナが言う前に、俺が口に出した。


 敵を知るには敵の内情を探れ……なんてのはよくある話だ。

 怪獣達はそうしてこちらの世界を知って、侵略の糧にしているつもりだろう。容姿に似合わない知性の高さには、俺でさえ脱帽だ。


 だがそれ以上に……いきどおりを感じる。


「その為に多くの人達を巻き込むつもりなのか。狙うなら俺……いや、俺達だけにしろ」


『元よりそのつもりだ。こちらも痛手を負った以上撤退するが、次会う時は貴様達から抹殺する……その時までに余生を過ごすという』


 ……悪党が。


 怪獣相手にその表現が相応しいか分からないが、それでも毒を吐きたかった。


『……貴様の持っているその腕輪』


「ん?」


 と、機械目玉が玲央ちゃんに興味を示した。


「これが何か? 欲しいの? あげないけど」


『それは元々、我々の所有物……。どうやら何らかのミスによりこちらに落ちてしまったようだな』


「……えっ?」


 俺と舞さんが玲央ちゃんのマレキウムドライバーを見た。


 その腕輪が、怪獣達の所有物……?


『いずれそれは返してもらうぞ……』


 機械目玉がそう言うと、身体……と言っていいのか分からないが、とにかく目玉が粒子状に散っていく。

 すると突然フェーミナがジャンプし、目玉へと手を伸ばした。目玉を掴んだのはいいが、すぐに跡形もなく消えてしまった。


「……逃げられたか」 


 着地するなり独り言ちるフェーミナ。

 奴がいなくなった事で静寂が舞い込む。少なくとも俺は今までの情報が衝撃すぎて、どう口にすればいいのか分からなかった。


「玲央さん」


「ん?」


 誰もが黙る中、フェーミナが玲央ちゃんに向く。


「どうやら怪獣へのカウンターとしての舞さんや、私と同化した光とは訳が違うようですね。ちなみにどこで腕輪を拾いましたか?」


「えっと、ゲーセン。足元に転がってました」


「なるほど……もしかしたら怪人という存在が現れた事で、あなたにその腕輪がやって来たのでしょう。訳とは違うとは言いましたが、怪獣に対抗する為に怪獣創造能力を身に付けた舞さんと似たようなケースと思われます」


 なるほどそういう理屈か。

 玲央ちゃんにもそういう力があったという事になる。


「もちろん奴らの所有物故、何が起こるのか未知数です。私としては使用を控えた方が……」


「なるほど! 敵の力を行使するメタルライドと一緒なんですね!! エモいな!!」


「…………えっ?」


 普段、表情をあまり変えないフェーミナがポカンとした。

 玲央ちゃんはそんな中でもまくし立てる。


「知ってます!? メタルライドシリーズも程度の差はあるんですけど、主人公は大抵敵と同質の力を使っているんですよ。つまり私はメタルライドのようなヒーローという事に!!」


「あの……現実と特撮は違うのですが……」


「もう今の展開が特撮そのものでしょう。それにこれで怪人を倒せるなら、私やりますよどこまでも。というかフェーミナさんって人間に変身できるんですね! 一体化タイプと擬態タイプのいいとこどりじゃないですか!」


「いや、今は関係ないでしょう……」


 フェーミナがドン引きするという世にも珍しい展開が繰り広げられていた。

 それとこのオタク丸出しにするところ……何となく舞さんに似ている気がする。『類は友を呼ぶ』というやつか?


「……分かりました、そこまで言うのであれば。ただ何かあった場合には、すぐに報告して下さいね」


「うい」


「それと悠二さん、舞さん、光」


 話を終えた後、フェーミナが俺達へと話しかけた。


「奴は最後に宣戦布告を叩き込んできました。近い日には奴の襲撃が来るはず……そうなればやる事は分かりますよね?」


「ああ……必ず返り討ちにする。ただでは済まさないようにしてやるよ」


「奇遇ですね。私もこちらを舐めたらどうなるのか、骨の髄まで教えてやろうと思っていました」


 どうやら俺と意見と合ったようだ。さすがは武闘派の巨人。

 俺はフェーミナから舞さんと光さんに振り向く。2人とも覚悟が出来たのか、コクリと頷いてくれた。


「何としてでもあの怪獣を倒そう、悠二君」


「手痛い目に遭ったから、キッチリお返ししないとね」


「そうだな。……波留ちゃん、俺頑張るから。波留ちゃんがもう二度と怖い目に遭わないように」


 そして俺は波留ちゃんへと言い切った。

 彼女は表情を険しくするも、舞さん達と同じように頷いてくれる。


「……悠二さん……気を付けて下さい……ね」


「もちろんだよ」


 そう心配してくれるだけでも嬉しかった。


 これで決心が付いた。

 アイツは何としてでも倒してやる……絶対に負ける訳にはいかない。


「……玲央さん、お兄さんを呼んでもいいですよ」


「あっ、そう? アキ君。もういいってさ」


 ふと玲央ちゃんが言うと、奥から晃さんがやって来る。

 彼は戸惑った表情をしていた。


「やっと終わったのか……。いや、何かすごい事が起きたけど……これはアレか? 玲央の腕輪と同じ感じ?」


「まぁ……そうなりますね」


「……そっか」


 舞さんの一言で納得……したのか分からない晃さんだった。

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