第40話 怪獣への愛も忘れないで!

 戦いを終わらせたアメミットのプロフィールはこうなっている。



 巨顎怪獣 アメミット

 全長:200メートル

 体重:1050トン


 まるで山のような巨体を誇る超大型怪獣。

 突風が起きるほどの吸引力で敵を呑み込み、捕食をする。


 

 それから俺達は防衛軍にバレないようそそくさに退散し、舞さんの家へと戻っていった。

 もちろん行きと同様、光球による瞬間移動を使ってだ。


「やっと着い……うおぉ!?」


「悠二クンカッコよかった~! 怪獣1人で圧倒してたし、前よりも強くなってない!?」


 庭に着くなり光さんが俺に抱き付いた。

 舞さんで慣れているつもりだが、美人ギャルの光さんだとまだ恥ずかしい……あと胸が大きくて柔らかい。


「ていうか尻尾伸ばしとか電撃とかどうやったの!? 鍛錬でもした!?」


「イ、イラストに能力を追加していくとそうなるんだよ……。タイタンの電撃奪い取れたのもそのおかげで……」


「へぇ、便利なんだねぇ。しかも技をコピーするなんてチートじゃん。ねぇ、舞?」


 話題を振られた後、舞さんが俺の手を握ってきた。

 目を輝かせながらだ。


「本当にすごかったよ悠二君!! 今朝に追加した尻尾伸ばしがスタイリッシュだったし、折った角をタイタンに刺すとか荒々しくてナイス!! 電撃もまさに怪獣的、暴虐的!!」


「ヘヘ……ありがとう。嬉しいかも」


「うん、あれ見て私も元気出て……あっ、ごめん光ちゃん……」


 相変わらずオタク全開丸出しにしたものの、光さんに気付いた途端縮んでしまった。

 完璧に彼女の存在を忘れていたらしい。


「ううん、何かこういう舞も面白いじゃん。今までの清楚な感じもアリだけど、こっちのオタク全開もなかなか!」


「……う、うん……」


「やだぁかわいいー! 見てよフェーミナさん、この舞の照れた顔! 人間態になって見てよ!」


『あまり言うと舞さんの状態が悪化しますよ。体温が上がっているのが分かります』


 それは恥ずかしさで熱くなっているだけじゃないかな……。


 するとフェーミナがアルマライザーから女性の姿になって、舞さんの元へと向かった。


「舞さん、少しよろしいでしょうか?」


「えっ? はい……」


 了承を得た途端、フェーミナが舞さんの頭に手を添えた。

 撫でるように手を動かすと、そこからほんのり淡い光が灯る。舞さんは終始不安な表情をしていた。


「……やはり私の読み通りだった」


「何か分かったのですか?」


「はい。その前に舞さん、この能力が開花した時に最初の怪獣が出現しませんでしたか? ほぼ同時刻に」


「えっ? 何でそんな事を……」


 確かに舞さんが能力開花したのは、怪獣1号が出現したのと同じ時間だった。

 でもまさかフェーミナがそれを知っていたとは。


「結論から言えば、怪獣が現れたからこそ今の力が発現したのです」


「えっ……?」


「順を追って話しましょう。そもそも怪獣は世の理から外れた存在。その怪獣が現れた事で、それを排除すべく相応の力がこの世界で発現されます。

 怪獣という異物がいたからこそ、あなたは元々の怪獣好きが高じて怪獣創造能力を得た。怪獣が人体に侵入したウイルスなら、あなたはそれを排除しようとする白血球なのです」


「じゃあ、私がこれを持ったのは怪獣に対抗する為?」


「かいつまんで説明すればそうなります。力が暴走するような事も、あなた本人がそう思わない限り起こらないでしょう」


 今の説明は何となく分かりやすい。

 要は異世界の魔王とか魔龍に対抗すべく、チート能力が発現した。それと似た感じか。


「……そうか……そうだったんですね……よかった」


 舞さんが安心したように胸を撫で下ろした。

 俺も同じだ。彼女の力が邪悪なものではないと分かって、荷が下りる気分だ。


 それともう一つ。さっきから思っていたが、フェーミナの口ぶりからして怪獣の正体を知っているのではないだろうか。

 異世界の観測者なのだから別におかしな話ではないはずだ。


「フェーミナって、やっぱり怪獣が何なのか分かっているのか?」


「ええ、もちろん。しかしこれ以上は話がややこしくなるだけですので、また別の機会に話そうと思います。そして最後に……」


 フェーミナがその端正な顔つきを険しくさせた。


「悠二さん、舞さん、これだけは覚えておいてください。怪獣は存在するだけで、全てに対して多大な影響を与える。それを担うあなた達も例外ではありませんので、ぜひとも気を引き締めてもらいます」


「そんなの分かっているよ。怪獣はそういう奴なんだから」


 怪獣は人間には制御しきれない力の権化。舞さん自身が言った言葉だ。

 今後、何かが起きてもいいよう警戒はするつもりだ。


「……と、我ながらキツい事は言いましたが、同時にこう思っております」


「何を?」


「あなた達はこの上なく、相性のいいパートナー同士であると」


 険しかった表情が少しだけ柔らかくなったのを、俺は見逃さなかった。


「舞さんがここまでいられたのは悠二さん、あなたが常にそばにいたからだと思われます。それは先ほどの話からすぐに分かりました。なのでどうか、舞さんを今後とも支えてやって下さい」


「……舞さんは俺にとって大切な人なんだ。言われるまでもないよ」


「そうですか。それはよかったです」


 フェーミナなりに舞さんを案じていたのかもしれない。素直にそう言わないのは彼女の性格からか。

 それとここで話を終わらせてもよかったが、俺には1つ聞きたい事が出来た。


「あとさフェーミナ、タイタンと戦ってた時から名前呼びしてくれたよね。俺のこと……その、認めてくれたのか?」


 今までフェーミナから名前呼びされていなかった。

 おそらく怪獣である俺を警戒して、心を許していなかったからだと思う。


 だから彼女がさりげなく名前呼びしたのには、少し驚いてしまった。

 なお俺の言葉を聞いた彼女はというと、図星したかのように目を瞬きさせていた。


「……あなたが危険な存在ではないと再認識しただけです……」


 なんだこの可愛い巨人さんは?


 照れてそっぽを向くという、真の姿からは想像つかない行為をするという。

 端から聞いていた光さんがニヤニヤしているし。


「と、とにかく私からは以上です……。アルマライザーに戻りますので」


「はーいっと。悠二クン、舞、今日は話してくれて嬉しいよ。ありがと」


 フェーミナがアルマライザーが戻っている間、光さんがお礼を言ってきた。


「それと舞、あの時は本当にごめん」


「えっ、あの時?」


「前に舞が男子の告白断った時、怪獣なんて理解できないって言ったじゃん。あれ内心傷付いたでしょ?」


「ああ、それ? 別に光ちゃんに悪気があって言ったんじゃないって知ってるから。私はそんな事があっても光ちゃんの友達でいたいな」


「舞……うん、わたしもいたい! だから怪獣への愛も忘れないで!」


 愛を忘れないで……。


 光さんのその言葉は、まさしく舞さんを肯定するものだった。

 舞さんは目を丸くするも、明らかに口元を緩ませる。


「うん、ありがとう光ちゃん。すごく嬉しい……」


「大好きな友達だからね! 当然だよ!」


 光さんがぎゅっと舞さんを抱き締めた。

 2人から漂う百合オーラに、自身の口元がはみかむのを感じた。これは……悪くない。


「それとさぁ、勇美にも言った方がいいかもね。わたし達の事」


「ああ、そうかもね。信じてくれればいいけど……」


「というか証拠見せたら、ハンドグリップ使って混乱を紛らわしたりして。それじゃあ、わたし達そろそろ家に帰るから!」


『失礼します』


「うん、気を付けてね」


 光さん達が俺達の元から立ち去っていった。

 これで一件落着……と言うべきか。

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