第34話 オタク少女と衝撃交流 2

「あの2人、友達だったのか」


「知っているの悠二君?」


「前にどちらも会った事があったんだ。ボブの子はナンパから助けてさ」


「へぇ、そうなんだ」


 俺が舞さんへと簡潔に答える。まさか別々に出会った女の子達が友達同士とは思ってもみなかった。

 女の子達はざわめくギャラリーに関係なく、先ほどのプレイの事を話し合っている。


「いつも思うけど……何であんなに上手いの……?」


「左の脳と目で左画面を、その逆の脳と目で右画面を……ってやつ。極めれば波留ちゃんでも出来るよ」


「へぇ……玲央ちゃんすごいんだね……」


 いやそれはない。


 出まかせの可能性が高いが、それが事実ならもはや人間ではない。


 なおボブの子はいかにもな中学生な身長とスタイルをしているも、お下げの子は彼女よりも一回り小さい。

 以前見た時もやけに小さいと思っていたが、どうも同年代よりも下だったらしい。


「……あれ、あの子……」


 話している途中、ボブの子が俺に気付いた。

 そこから少し近付いて、確信したような顔をする。


「やっぱり……あの時の男の子……!」


「ん? おお、いつぞやの美ショタじゃん。波留ちゃん知ってんだ」


「うん……! 前に助けてくれた事があったの……。よかった……会えて……」


 まるで生き別れた恋人と再会したかのような表情だ。

 そんな女の子の姿に、少しドキリとしてしまう俺。


「あ、ああ……こちらこそ。あれからもう大丈夫なんだ……?」


「はい何とか……まさかここで会えると思わなくて……本当に嬉しいです……」


「い、いや……そんな大げさな……」


 何故だろうか。彼女の前をすると初々しい気持ちになる。おっとりとした口調の影響か、それとも別の要因でもあるのか。

 いずれにしても、彼女と再会できたのはこちらとしても嬉しい。もちろん元気でいてくれた事にもだ。

 

「波留ちゃん×美ショタ……ハァハァ……」


 それとおさげの子は何を言っているのだろうか。

 しかもよだれを垂らしているという。


「えっと……」


「あっ、すいません……あたし、公崎波留こうざきはると言います。それでこの子が彩木玲央さいきれおちゃん……友達……です」


「玲央っす。どうも」


「ああどうも……。俺は……宝田悠二。こっちが従姉の宝田舞さん」


「初めまして波留ちゃん、玲央ちゃん。悠二君がどうもお世話になりました」


 とっさに苗字を拝借してしまったが、考えを汲み取ってくれたのか舞さんは突っ込まなかった。これはありがたい。

 それと彼女達にも名前呼びをしておく。今まで恥ずかしがった女性への名前呼びはもう慣れてしまった。


「綺麗な人……あ、あの、こちらこそ初めまして……!」


 波留ちゃんが舞さんに会釈。オドオドな仕草が本当に可愛い。

 玲央ちゃんも彼女に向いて軽く会釈。それから俺の方に視線を戻した……


「!?」


 ……かと思いきや、もう一回舞さんに向く。二度見である。

 これには舞さんもびっくりしていた。


「ど、どうしたの玲央ちゃん?」


「い、いえ……何かラノベのメインヒロインになれそうな人だって思って……。おっぱい大きいしお尻もキュッとしてそうで、イラストの題材とかに出来そうでハァハァしそうで……」


 な、何だこいつ……!? 

 

 語彙力がどこか乏しかった玲央ちゃんが急によくなったばかりか、公共の場でセクハラを公言してくるとは! しかもニヤケ顔!

 そもそもラノベのヒロインみたいだというのは俺も最初思っていた事だ。そう言いたくなる気持ちは分かるのだが……。


「玲央ちゃん……いつもこんな感じです……あの……出来れば……」


「い、いや……別に怒ってないよ? というかユニークだね、ハハ……」


 公然の場でセクハラされた舞さんは、それはもうトマトのように真っ赤っかだ。


 しかも周りのギャラリーがざわめくのを俺は聞き捨てられなかった。

 彼らに対怪獣戦でつちかった鋭い視線を向けると、一瞬にして静寂になる。効果はあったみたいだ。


「なんだもう終わったのか。おい玲央、ジュース買ってきたぞ」


 静まり返ったギャラリーの中から茶髪の青年が現れた。

 これも俺にとっては見知った顔。以前に玲央ちゃんと歩いていたお兄さんらしき人だ。


「おお、ちょうどよかった。はい波留ちゃん」


「あっ、ありがとう……いただきます……」


「では二丁拳銃ワンコインクリアを記念して。ジュース、飲まずにいられない!!」


 渡された缶ジュースを一緒に飲み干す玲央ちゃん。

 彼女のキャラが相当濃くて困ってしまう。


「……あれ、その子達は?」


「私たちの前に舞い降りた天使。あとそのショタが波留ちゃんを助けた事があんだって。どうやってなのか知らんけど」


「恩人かぁ。妹の友達を助けてありがとうな。よかったら名前を」


「ああ、宝田悠二です。こちらが従姉の舞さん」


「悠二君と宝田さんだね、俺は玲央の兄の彩木晃さいきあきら。まぁよく似てないと言われるけどさ」


 確かに髪色などの面影はともかく、性格は全く似ていない。むしろ妹の方が何らかの突然変異があったのかもしれない。


 彼から「これも何かの縁だし、食事奢らせてくれないか?」と提案されるも、俺はお気持ちだけで大丈夫だとやんわり断った。

 ならばと晃さんが缶ジュースを買ってきてくれて、ベンチで待っていた俺達に渡してくれた。


「本当によかった? 別に遠慮は……」


「いえ、お構いなく。この後も舞さんと遊ぶ予定ですので」


「そうか。宝田さん、従弟の面倒を見るなんてよく出来ているなぁ」


「悠二君は可愛いですからね。面倒を見るのも私の務めです」


 自慢の弟ですと言わんばかりの舞さんのドヤ顔。

 さらに晃さんに見せつけるように、ぎゅっと俺の手を握る。彼女の仕草に戸惑うも、俺もそっと握り返す……。


「波留ちゃん波留ちゃん、おねショタが目の前に、おねショタが目の前に」


「おねショタ……?」


「説明しよう。おねショタは年上のお姉さんと男の子がラブラブチュッチュする事。ほらっ、よーく見れば何かクるもんあんでしょ?」


「……恥じらってる悠二さん……あうっ、可愛い……」


 ……目の前でそんな会話が繰り広げられていて、俺も舞さんもまた赤くなってしまった。

 それに純真そうな波留ちゃんがイケない道に入ろうとしている。いわゆる「沼にハマる」というやつか。


「玲央……初対面の方に何言ってんだよ……」


「アキ君もおねショタ知らんのか。おねショタはプラトニックな恋人関係の他にも、お互いに身体を重ねる……」


「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!? ……えっとごめんな。妹ってあんな感じなんだ、日頃から」


「いえ……大丈夫ですはい……」


 怪獣になるとハイになる舞さんも縮んでいる辺り、玲央ちゃんの性質がかなりおっかないのがよく分かる。


 確かに以前、ラノベを爆買いした彼女をオタクみたいだと思っていた事はある。

 ここまで重症とは思わなかったし、さながらキモオタが内部に潜んでいるかのようだ。しかもそれなりに可愛い顔立ちをしているというギャップ付き。


 巨人に変身する美人ギャルといい、女の子の皮を被ったキモオタといい、この世界は色んな意味でおかしい……少なくとも俺はそう思う。


「玲央ちゃんってそういうアニメとかラノベに詳しい方なの?」


 よほどキャラが濃いせいか、舞さんが玲央ちゃんにそんな話題を切り出した。


「もち。深夜アニメ、漫画、ラノベ、特撮、なんでもいけますよ。よかったら今話題のラノベ全部お貸します」


「それは間に合っているかな……。特撮ってことは怪獣とか好きだったりする?」


「嫌いじゃない。どちらかというと私、怪獣と戦うロボットの方が好きですけど」


「そっか……」


 やはりと思っていたが、玲央ちゃんもその手には通だったらしい。

 ただ、何かがおかしい。


「玲央ちゃん。もし自分の趣味で悪口言われたら、あなたはどうする?」


「舞さん?」


 同族と出会えた事に、口には出さずとも嬉しそうな顔をすると思っていた。

 そんな舞さんが何か考え事をして、さらに意味深な質問を投げかけている。俺は眉をひそめるしかなかった。


「その悪口を言った奴に、死よりも恐ろしい極限の地獄を与えて、絶望を抱えたまま盛大に殺す……」


 対し玲央ちゃんの答えがこれだ。

 言葉もそうだが、狂気がこもっている目が怖すぎる。そもそも死ぬより恐ろしい目に遭わせるのに結局殺すのがまた。


「というのは冗談で、ちゃんとその時は反論しますわ。私はこれが好きだ、推してるんだ、なんか文句あっかおおゴラァって。それで相手が納得しなかったら戦争不可避」


「……分かった。ありがとうね、変な質問しちゃって」


「いえいえ、とんでもございません。これで力になれたら大助かりっす」


 相変わらず玲央ちゃんの言動がおかしいが、どうやら舞さんにとってのヒントがあったようだ。

 あとで何を考えていたのか、玲央ちゃん達がいなくなってから聞いておく事にした。


「ところで舞さん、ユウ君を連れてるって事はペドなんすか?」


「えっ?」


「ブッ!?」


 飲んでいたジュースこぼしそうになってしまった! 何を言い出すんだこいつは!?


 舞さんはよく分からなかったらしいが、代わりに晃さんが妹の頭をひっぱたたいた。

 これはナイスな判断。俺は心の中でサムズアップをした。

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