あにめぶ! ~私立垣鳥高校アニメーション研究部~

輪島ライ

第1話 声優の出番が少なすぎます

 私立垣鳥かきどり高校は伝統的に文化部の活動が盛んな学校で、部員数は少ないですがアニメーション研究部、通称アニメ部などというおちゃらけた部活も存在を許されています。


 アニメ部ではいつも放課後にアニメ鑑賞会を開いていて、今日は放映中の話題作を集まった部員全員で見ていました。この高校では校舎内に無線LANが整備されているため液晶モニターさえあれば定額配信サイトの利用も容易です。



「ウェブ小説原作のアニメにはあまりなじみがないけど、このアニメは面白いわねえ。悪役令嬢に転生した現代日本人が破滅の運命を回避しようとするっていう題材は斬新に感じるわ」

「ウェブ小説としては王道の展開でもあるんですけど、テレビアニメになるとやっぱり目新しいですよね。アニメとしての質も十分以上に高いですし」


 3年生で部長の鷺宮さぎのみや早子はやこさんは過去の名作を中心にアニメを見てきたため今時のテレビアニメには興味津々。2年生にして副部長を務める天野あまの秀美ひでみさんは小説や漫画などアニメ以外の創作物にも詳しい人なので話題作をより深い視点から分析しています。


「私、普段から乙女ゲームとかティーンズラブ小説が大好きなのでイケメン貴族が沢山出てくるアニメには惚れ惚れしちゃいます。スパロウ君にはあまり面白くなかったかな?」

「そんなことはありマセンよ、女性主人公ヒロインの視点から見ても男女間の恋愛には変わりありマセンし女性主人公に惹かれる女性キャラクターも沢山いてとてもエキサイティングデス。ダイバーシティに溢れたアニメには好感が持てマスね」


 いかにもな文系女子の眼鏡っ娘は1年生の谷内たにうち五月さつきちゃんでイケメンの男性キャラクターが好きなようです。男子部員で日英ハーフである1年生の大智おおちスパロウ君は小学校卒業まで一家でイギリスに住んでいたため気風も西洋人的です。


「今日はこのアニメを題材にディスカッションをしたいんだけど、誰か意見はあるかしら?」

「はいはーい、じゃあ外部顧問から提案しまーす」


 早子さんがディスカッションのテーマを募集するとテーブルの一角に座っていた金髪のギャルが手を挙げました。彼女は2年生の仙波せんばルミさんで、普段は軽音楽部でギターボーカルを務めています。


 アニメ部は人数が少ないためよその部活で主に活動している生徒数名に頼み込んで外部顧問として所属して貰っています。彼女らはあくまで数合わせの存在ですが何だかんだでアニメ部を楽しんでいました。


 外部顧問の発言に耳を傾けた4人に対し、仙波さんは率直な意見を述べました。


「あーしアニメって普段見ないんですけどぉ、アニメに出てくるキャラクターの声って声優さん? が当ててるんですよねぇ。1話で最大20分は喋ってるのに名前が出るの最後の映像だけっておかしくないすか?」

「確かに一理あるよね……」


 テレビアニメはCMを除くと1話につき23分ほどの放映時間があり、声優さんはオープニングとエンディングを除いても最大で20分間キャラクターを演じ続けていることになります。それなのにエンディングでしか名前が映らないのはおかしい。仙波さんはそういった疑問を感じていたのです。


 頷いた秀美さんを見て、早子さんは今からやることを決定しました。


「それじゃあ声優さんの存在感をもっとアピールできるようなアニメの作り方を考えてみましょう。今からそれぞれにキャラクターボイスを割り振って簡単な脚本を書くから、アニメのキャラクターになりきったつもりで演じてみてね」

「分かりましたー」


 早子さんが部室のノートパソコンで瞬時に書き上げた脚本を元に、声優さんの存在感をアピールしたアニメの実演が始まりました。五月ちゃんと仙波さんは観客として演技を見ています。




 ここは朝の通学路。高校2年生の天野秀美さん(CV:まゆずみ佳奈かな)はテニス部の朝練に遅刻しそうになりダッシュしていました。


「カナカナー! このままじゃ朝練に遅刻しちゃうカナーー!!」


 急いでいた彼女は曲がり角で誰かに激突してしまいます。その相手は転校生の大智スパロウ君(CV:火野ひのさとし)でした。


「いててて……ごめんなさいカナ、急いでてまゆずみません」

「全然大丈夫デスよ、この程度の痛みは火野慧ならどうってことありマセン」

「カナッ! なんてかっこいい男性なのカナ!?」

「そちらのレイディこそ、火野慧のように美しいルックスと火野慧のように綺麗な心の持ち主のようデス。ぜひミーとお付き合いをして頂けマセンか」

「ちょっと待ちなさい!」


 登校中にぶつかっただけでフォーリンラブしそうになっている秀美さんとスパロウ君の前に、女性の声が投げかけられました。


「その声は……お姉様!?」

「秀美、あなたという人は私との約束を忘れたのですか。私に対するあなたの愛情はあなたに対する私の愛情にははるかに及ばないのですね」


 秀美さんと将来を誓い合っていたらしい3年生の鷺宮早子さん(CV:戸町とまちはるか)はスパロウ君に色目を使う彼女に幻滅していました。


「そんな、私が愛するのはお姉様だけですカナー! 見捨てないでカナー!!」

「OH! ミーは百合に挟まる男にはなりたくないデース!! 火野慧ならそんなことはしないのデスー!!」

「ちょっと待ちなさい! いや待たなくていいのかしら?」


 演劇は最後まで楽しく終了しました。




「これはひどい」

「いやー、ひでーわこれ。よーく考えたらぁ、カントク? とか演出の人も最初と最後にしか名前出なかったっすよねー。さっきの話はなかったことにしてちょー」


 あまりにもひどい脚本に本音が出た谷内五月ちゃん(CV:M・I・O)に、仙波ルミさん(CV:北村きたむら英梨えり)は爆笑しながらバイトに向かうため部室を出ていったのでした。



 (続く)

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