第17話 魔法競技祭
遂にこの時期がやってきた────
この王立魔法学院で、最も国中から注目を集める行事と言っても過言ではない『魔法競技祭』だ。
簡単に言ってしまえば、魔法師を目指したり騎士を目指したりしない者が通う普通の学校で行われる体育祭のようなものだが、規模が違う。
開催期間は一ヶ月にもおよび、一年生から四年生まで学年別に異なる日取りで行われる。
その名の通り魔法を使って競う種目で、競技中は閃光が走り抜けるし、轟音は鳴り響くしでとてつもなく派手である。
特に、月終わりに行われる四年生の部は注目度が高い。
これまでの魔法の研鑽の集大成でもあるし、何より優秀な生徒を見定めるために、軍上層部の者が見に来る。
────そんな大規模イベントに向けて、今一年三組では誰がどの競技に出場するかを決めていた。
「えー、では最後……目玉競技の『プロテクション・オブ・キング』ですね。一クラスから三名ということで決めていきましょう」
三組担任教師のエマが、黒板にチョークで書きながら言う。
────『プロテクション・オブ・キング』。通称POKとは、魔法競技祭の目玉で、その者の魔法師としての力量が最も反映される競技でもある。
クラスから選抜された三人が相手クラスの選手三人と競うのだが、競技場には自分達の守るべき王の形の石像が一つ設置されており、それを守りながら、相手クラスの石像を壊せば勝ちだ。
自分達の石像が先に壊されるか、相手の石像を先に壊すか──毎年かなり白熱した魔法戦になる。
そして、当然選抜される三人はクラスの成績上位トップスリーの生徒であるべきだ。
三組には特待生の第三位アリシアと、もう一人第八位の生徒──ルードル・ベルバッサがいる。特にレイを目の敵にしていたプライド高めの男子生徒である。
同然のようにその二人が全会一致で選抜され、残るは一人…………
「ちょっと貴方……まだどの種目にも出てないじゃない」
机に突っ伏して眠っているレイに、アリシアが小声でそう言う。
「んぁ……いや、目立つの好きじゃないし……」
「いや、もうかなり目立ってるから貴方。一年生の間で貴方のこと知らない人とかいないから……」
アリシアは「はぁ……」と呆れたようにため息を吐きながら、ジト目でレイを見る。
「ねぇ、貴方POK出なさいよ」
「絶対、イヤだね」
「意地張ってないで……ほら、クラスみんな貴方をチラチラ見てるわよっ?」
「俺豆腐メンタルなんだよ……そんなに見られると恥ずかしくて出られない……」
「嘘言ってないでほらっ! 早く手を挙げて! 一言『出ます』って言えば良いだけでしょ?」
「…………」
レイは目を閉じたまま無言を貫いた。
それを見たアリシアは内心イラッときたのを表情に出さず、それどころかまるで聖女のような微笑みを浮かべてすっと立ち上がった。
そして────
「エマ先生、このレイ君がPOKに出るそうです」
「ちょぉい!? アリシ──」
「ねっ? 出ますよね?」
アリシアの目が怖い。瞳から光が消え失せていて、まるで心を宿していないようで……断ったら何を仕出かすかわからない目だ。
レイはそんなアリシアの瞳を見て唾を飲み込んだあと、小さく「はい……」と呟くのだった────
□■□■□■
選手決めが終わったあと、出場種目別に生徒が集まって練習することとなった────
POKに出場するレイ、アリシア、ルードルはあまり人のいない校舎裏に集まっていた。
「アリシア王女殿下……
「あ、あはは……ありがとうございます。ルードル……」
ルードルはアリシアの目の前に片膝をついて座り、真っ直ぐな視線をアリシアに向ける。
(俺は一体何を見せつけられてんだよ……)
レイはそんなことを思いながら、ため息を吐いていた。
「おい。貴様もこの種目の選手に選ばれたからには、全力で王女様を守れよ!?」
「いや、守るのコイツじゃなくて王様の石像だから……」
「こ、コイツ……!? 王女様に向かってコイツだと貴様ッ!?」
ルードルは血相を変えてレイに詰め寄っていく。
アリシアは慌ててレイとルードルの間に割り込んで、ルードルを落ち着かせる。
「い、良いのですよルードル。この学院では身分の違いは関係ありません。貴方ももっと気軽に呼んでくださっても──」
「とは言っても王女様! このレイという男はあまりにも無礼すぎます! この男とチームプレイなどっ……!」
ルードルはアリシアの後ろに立つレイに憎らしいような眼差しを向ける。
「まあまあ、落ち着いてください。貴方の気持ちもわからなくはありませんが、今は仲間……わかり合うことが大切です」
「っ……た、確かに……」
「まだ時間はあります。これから互いに理解を深めて参りましょう?」
「はい……王女様がそう言うのであれば……」
まだ不満は残っているだろうが、アリシアに言われてはルードルも引き下がるしかない。肩を落としてレイからとぼとぼと離れていった。
それを確認したアリシアはくるっとレイに振り返って人差し指を顔近くまで突き出してくる。
「貴方もっ! アイツとかお前とかじゃなくてきちんと名前で呼んでくれるかしら!?」
「お前……何で俺のときだけこうも態度が違うんだ……?」
「し……知らないわよ! あと、今もお前って言った!」
「はいはい、わかりましたよアリシア……これで良いだろ?」
「っ……!?」
アリシアはなぜか固まって、微かに頬を赤らめる。
そして、レイに向けていた人差し指を下ろすと、視線を斜め下に逃がしてボソッと呟く。
「あ……アリスで良いわよ……」
「そうか? ならアリスで」
「うん……」
アリシアはそれだけ聞くと、ルードルの向かった方向に歩き出す。
そして、レイから顔が見えないところで、どこか恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかむのだった。
そしてこのあと、レイはルードルに「王女様を愛称で呼ぶとは何様のつもりだぁあああああッ!?」と怒鳴られることになるのだった────
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