【番外編】ゲーム広報部
【前置き】
こちらは別サイトでのイベント用に執筆したスピンオフの短編(1話完結)です。
話の流れ的にここに挿入しても違和感がないかなと思い入れさせてもらいました。
本編と異なりコメディタッチのお話ですが、楽しんでいただければと思います。
では、お楽しみください。
――――――――――――――――――――
ちーす。みんなお馴染みの
うんこじゃねーぜ。
…
……
あれ、笑いは起きない?
おかしいなー、鉄板ネタのはずなのにな。
えっ? 馴染んでないし、いきなり下ネタはやめろ。
ってか、お前は誰だ、だって?
マジかぁ~、俺っちの知名度はそんなもんか……
えっ? 凹んでないで自己紹介しろって?
そうだな。おっほん!
咳払いがオッサンくさいとか言うな。
ってこんな事やってたら話が進まないな。
俺っちの名前は
去年は新人の漫才賞レースで決勝に残って、最近じゃちょこちょこテレビにも出てるから見たことあると思うんだけど――え、ない。はい、すんません。調子乗りました。
だがだがだが、それならばここで俺っちのこと脳ミソにバチコーンってメモリーしちゃってくれYo!
なんか喋り方がウザい? ヘイヘーイ、そんな釣れない事言うなよ。これが俺っちの
っと、自己紹介で余計な時間使っちまったな。では、本題だ。
俺達「えるあーる。」はなんとなんと国のなんとかっていう偉い機関からとあるゲームの広報大使に任命されちゃったワケよ。
えっ、なんとかばかりで分からない?
んな細けーこと、どうでもいいっしょ。取り敢えず伝えたいのは、はい、ドン。これ『Brave Battle Online』よ。
知ってるかな? あぁ、知らないか。ならば覚えてくれよ。
この『
いま、ヤベー感染病が世界で猛威を振るってるワケじゃん。んで、行動規制されてスポーツも娯楽も制限かかって興行収入ガタ落ち、経済も
でもそんなどんよりムードを吹き飛ばすために国がぶち上げたのがVR推進委員会よ。そこから指示受けて日本中のゲーム会社が会社の枠を超えて、まさに
フルダイブするには専用の端末が必要なんだけど、逆に言えば、
んじゃ、凄さを分かってもらうためにゲーム画面に切り替えるぜ。すぐに俺っちがダイブするから、しばらく待っててくれよな。はい、ポチッとな。
★
画面が切り替わりしばらくすると、一人の男が画面に現れる。
『おう! 見えてるか? これが俺っちのアバター「
アフロ頭に剛毛な胸毛。ムッキムキの筋骨隆々の男が手を振っている。
ふんどし一丁に、身の丈ほどある大刀を剥き出しのまま背に装備しただけ。現実に居たら「お巡りさん案件」になりそうな格好の男だ。
『見てくれ、この精密な動き。やべーっしょ』
言いながら様々なマッチョポーズをとる盛男。筋肉の動きから指先の動きまでリアルに再現されている。
『さてさて、ここでひとつ注意点だ。この超絶かっけーアバターなんだが、トライアル版で筋力にステータスを極振りしてムキムキマッチョにしたワケなんだが、なんと正式版では行動制限が付くんだ。
具体的には端末が集めた
なので盛男は見た目は厳ついけど、パワーは中身の俺っちと変わらないへなちょこパワーしか出せないんだ』
ムキムキ男が泣き真似をする。はっきり言ってキモイ。
『それでも盛男が超パワーを出せる方法があるんだ。ブレバトの特徴の一つである【スキル】と呼ばれる特殊効果や必殺技を設定することだ。
盛男は手を背に装備していた大振りの刀を手に取る。
ここまで大きいとその質量だけでも凶悪な武器となるが、扱いが大変ななるのだが――
盛男はその巨大な刀を、ブンブンと軽々と振るって見せる。
『これは、職業「戦士」の固有スキル【武器重量軽減】の効果だ。スキル効果は「武器の重さの体感値が大きく軽減される」ってものなので、大型武器でも簡単に扱うことができるんだ。
それ以外にも【
スキルスロットは合計5つなので、5つの必殺技を設定するもよし。複数スロットを使って能力アップを図るも良しって事だな』
盛男は人差し指を立てて表情豊かに説明する。フルダイブの再現性をアピールしているつもりのようだが、逆にその表情豊かなところが気持ち悪さを際立たせている。
『っと、オイオイ。説明ばかりだったから眠くなりかけてるな!
いかん、いかん。それじゃあ、眠気を覚ますためにブレバトでのバトルを見てもらおう。
ブレバトのバトルはめちゃくちゃ画像が綺麗だから、見たら眠気なんか吹っ飛ぶぜ!』
得意気に言うと、盛男はメニューを表示させそれを弄り始める。
『おっ、丁度よく兄貴がログインしてる。よーし、バトル申請っと』
しばらくすると、画面が切り替わり、闘技場のような場所に移動する。
『急にバトル申請とはどうしたんだ、右近』
黒髪をたなびかせ、漆黒の鎧に盾を装備した男が独特の立ちポーズを取りながら、盛男に対峙していた。
アバター名は「エル」である。
『俺っちの個人チャンネルに来たリスナーにブレバトを紹介してたんだ。
ちーっとばかりバトルの様子を見せてやりたくてね。
なんでイイ感じで負けてくれ、兄貴』
『フン…… そんな事だろうと思ったよ。だが断る! 貴様の綺麗な負け姿をリスナーに晒すのだな!』
エルは黒で統一された中で唯一、統一色でない銀色の刃を持つ剣を構える。
『ったく兄貴は融通が効かねえな』
盛男も身の丈ほどもある刀を構える。
システムメッセージが試合開始を告げる。
『おっしゃあ、行くぜー! 覚悟しろ兄貴。スキル発動【属性纏衣】!』
走り出しながら盛男はスキルを発動する。持っている大刀が炎を纏う。
『簡単に近づけさせると思うな。スキル発動【
エルは剣を地面に突き立てると、その場を中心に稲光が周囲を包む。
『っくうっ! こんなの痛くない!』
First Attackの判定が出て盛男の体力ゲージが減少するが、構わず突進すると、気合の声とともに炎を纏った大刀を振り下ろす。
エルはなす術もなく真っ二つにされた、と思いきや、発動されたスキル名が画面に表示される。
【
身代わりと入れ替わり攻撃を無効にするスキルだ。非常に強力なスキルだが、
ボウンという効果音とともに、真っ二つになった丸太が現れる。
『チィッ!』
舌打ちをして振り返る。その視線の先には剣を振り上げているエルの姿があった。
『スキル発動【
落雷が発生し、エルの剣に雷が落ちる。
『属性纏衣など使用せずとも、武器への属性付与は出来る。攻撃にも使える魔法系のスキルの方が有用性は高い!』
エルの剣が、雷を纏ってバリバリとスパークしながら、刀身が銀から金色に変化して光輝く。
『こちらも奥の手だ! スキル発動【
盛男の体が一回り大きくなる。筋肉が肥大化し、血管が浮かび上がる。
このスキルによって筋力の制限が取り払われ、極振りした筋力が解放される。
そんな肥大化した両腕で巨大な刀を振り被る。
『喰らえ、必殺の炎を纏った一撃! スキル【
それは斬撃を放つスキル。
盛男が巨大な刀を振り下ろすと、炎を纏った巨大な孤月型の斬撃が放たれる。
【斬波衝】は"溜め"によって射程が変化するスキルだ。筋力全振りで思いっきり溜めた一撃の為、従来の射程範囲を無視して、離れた位置にいるエルに向かい巨大な斬撃の波が走る。
『甘い!!
貫け、
エルが刀を突き出すように振り抜くと、刀身が蛇腹状に分解され真っ直ぐに伸びる。
エルが手にしていた剣は「広報大使だから」とゲーム運営会社から贈与された激レア武器である。
炎を纏った斬撃と、雷を宿した刀身がぶつかる。
互いの必殺技で軍配が上がったのは、実体を持つ雷の剣だった。
炎の斬撃の波は爆散し、貫通した雷の刃は勢いそのままに、真っ直ぐに盛男へ迫る。
『なにぃっ!』
慌てふためく盛男。スキル発動後の硬直で回避できない。
真っ直ぐに伸びた刃は素っ裸同然の盛男の身体を貫くと、宿っていた雷の電流が解放され盛男の全身を灼く。
『フン。勝ったな』
エルは消滅するであろう盛男の体力ゲージに視線を向けるが、一向に体力が減少しない。代わりに目に飛び込んできたのは発動したスキル名。
【
『なっ!』
慌てて剣を引くのだが、身代わりとなった丸太に刀身が深々と突き刺さっており戻りが遅い。
『なーんてな。悪いな兄貴。俺っちの勝ちだ!』
同じスキルを使ったということは、出現する位置もほぼ一緒となるワケで――
ニヤリと笑い盛男は筋力が最大になっている腕で凶悪な質量武器を振り下ろす。
『くそっ』
エルは剣を戻すのを諦めて、剣を手放して両手で必死に盾を翳して、その一撃を防御する。
ガギギギィィ……バキャッ!!!
何とか受け止めたが、しかし一撃で盾が砕け散った。
武具破壊!
筋力全振りにしたアバターの一撃は強烈で、一撃で盾の耐久値を超過して破壊されてしまったのだ。
『今度こそ死ねー、積年の恨みー!』
嬉しそうに再度、大刀を振り上げると、防御手段の無くなったエルに容赦なくその刃を振り下ろす。
『う、うわぁぁぁぁぁっ!!!』
防御手段がなくなったエルは絶叫を上げながら、無我夢中で拳を繰り出す。
ドムッ……
『か、はっ……』
『えっ……』
二人とも何が起きたか分からないと言った表情だ。
エルが無我夢中で繰り出した拳が、裸同然の盛男の
『グェエェェッ……!!』
巨大な刀を取り落として、盛男は
もんどり打って苦しむ筋肉ムキムキマッチョ。その筋肉は現実の筋肉とは異なり、攻撃にのみ特化したもので、防御力は皆無。剣を失った剣士の攻撃という、殆ど攻撃力のない一撃だとしても、ダイレクトにダメージが換算されたのだった。
『し、しまった。【
まさかここで弱点部位へ攻撃を喰らうなんて……』
ぐうう、と苦悶の表情を浮かべる盛男の顔に影が落ちる。盛男はその影に視線をあげると、憤怒に表情を歪めたエルの姿があった。
『って、はっ! 兄貴、なんか顔が怖いぜ。あれ、もしかして怒ってる?』
『なんか、積年の恨みとか言ってたよな』
エルは足を振り上げる。
『そ、それは言葉の綾というか……』
『ほぉ……』
『
『うるせぇー、急に呼び出して、俺を話しのダシに使うなんて! それこそ積年の恨みだーー!!!』
『いやーーーっ』
こうして最後はゲシゲシと踏み付けの乱打を受けて、足跡をいくつも付けられてノックアウト。
勝者はエルとなってバトルが終了した。
☆
『えーっと、カッコ悪かった最後の部分ばカットで……』
バトルを終えて、パブリックスペースへ移動した二人。盛男はチョキチョキとジェスチャーしている。
『これ、生配信だろ?』
『しまったー! 盛男のカッコ悪い姿が全国に流れちまったぁーー! ノォーーっ!』
頭を抱える盛男。
『まぁ、最後は茶番劇みたいになってしまったが、バトル時の画面の美麗さや、細かな動きまで再現できる楽しさ。一度体験したら忘れられない経験になるのは間違いなしだな!』
エルがカメラに向かって営業トークを行う。
『おっと、そうだった広報大使の仕事の最中だった』
『ったくお前は……』
エルは呆れ顔で溜息をつく。
先程までのワザとらしく表情を変化させていた盛男より、自然と出た溜息が再現されている、こっち方がこのゲームの凄さが分かるような気がした。
『少しでも「ブレバト」や、俺達「えるあーる。」に興味を持ってくれたならば、是非是非「えるあーる。のブレバト紹介講座」を見てくれな』
『この放送の最後にリンクのQRコードを表示するんで、もしよかったらそっちも、よろしくっすー』
こうしてなんやかんや話が脱線した生配信番組はQRコードが表示されて終了するのであった。
その放送をたまたまリアルタイムで観ていた僕は「意味わかんない部分はあったけど、なんか楽しそうかも」と表示されているQRコードのURLへアクセスするのであった。
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