使い魔二脅される!

光庵

一章

混沌の闇より出でし邪悪なる眷属。その漆黒の狂獣、名をティタルニアと呼ぶ。

 雲ひとつない青天。俺は屋上にいた。


 偽りの人間関係、意味もなく課される宿題(=懲罰)、学業の真似事……全部クソ喰らえ。俺は学生なんかじゃあない。身分を偽ってこの陸王高校を潜入調査しているだけだ。

 一般の人間は俺の来訪を『転校』などと呑気に呼ぶが、こちらにとっても都合がいいので好きに呼ばせている。……今のうちは、な。


 擬態任務=学生のカルマから解放してくれるこの聖域サンクチュアリは昼休みの時偶然見つけた。

 普段は魔力エネルギーを肌から直接補給しているのだが、そんなところを一般人に見られては任務失敗だ。俺が普通の人間と違っていることがバレてしまう。

 そのためこの世界で母親役を担ってもらっている女に弁当を作って貰い、しかしそれをわざとらしく経口摂取・咀嚼しているのも気恥ずかしいので、何処か人目につかない場所を探していたところ、ここへと辿り着いたのだった。

 決してぼっち飯とかそういうのではない。


「さて、始めるとしよう……」


 午後の授業も終わり、放課後。

 部活動に励む一般生徒や下校する者がほとんどで邪魔は入らない。それに夜が近づくこの時から、俺の魔力は徐々に高まっていく。頃合だ。


 あらかじめ教室から拝借しておいたチョークで床にカリカリと魔法陣を描き出す。

 目的遂行の成功率を上げるため『使い魔』でも召喚しておくつもりだ。この世界では協力者が極端に少ないので(断じてが少ないとは言ってない)、扱いやすい手駒を揃えておく必要がある。

 さて、ドラゴンが出るか、悪魔が出るか。


「ククク……」


 陣を描き終えた俺は悦に入り、つい笑いをこぼしてしまう。

 ……うん、上手く描けた。後で記念に写真でも撮っておこう。


 次いで召喚の代償を払う。

 膝小僧にちょうどかさぶたがあったのを思い出し、制服ズボンをめくってガリガリ掻くと、薄ーく血が滲み出てきた。それを魔法陣の真ん中に一滴垂らす。

 ……傷が治りかける時特有の痒みも解消されたので一石二鳥。


 最後は呪文の詠唱だ。

 間違っても誰かに聞かれたら恥ず、正体がバレたらマズイので胸中で黙唱する。


『我、この世に破壊と創造をもたらす者なり。我が血を以てこの地に魔獣を呼び起こさん。現れよ! 漆黒の狂獣、ティタルニア!』


「クハハハハ!」


 決まった。

 仕上げにこれまた拝借しておいた黒板消しを盛大に叩き、粉で白煙を演出する。


 --と。


「きゃっ」


 --ドシン。(人程の重みのある何かが落ちてきたような肉感のある生音)


「ククク…………あれ?」


 煙が晴れ、そこに現れたのは。


 漆黒の狂獣、ティタルニア!


 --ではなく。


「うぅ……痛ったぁ」

「お、女の子……?」


 眼前に黒髪ロングの美少女。

 陸王高校の制服を着たJK邪悪なる眷属が、腰をついているところだった。


 ……あれ、これってもしかして、召喚成功しちゃってる?


 なんてこった。

 己に宿った魔力を信じ続けた苦節17年弱。


 ついに。


 ついに魔法が成功したらしい。


 --目の前に女の子が召喚された!

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