第36話 お医者さん

数年前、私は突然、お腹を壊した。

悪いものを食べた訳でもなく。何かに当たった訳でもなく。

だいたいが、腹痛がなく、ただ、お腹が壊れているだけの状態。

最初の数日間、市販の整腸薬で様子を見てみたが、一向に治る気配が無いため、かかりつけの医者に行った。


ところが、そのかかりつけの医者が処方してくれた薬でも一向に治らない。

何度か薬を変えて様子を見てみたものの、全く治る見込みが無い。

かかりつけの医者に、お腹専門の医者を紹介してもらい、私はその医者の元へ行った。


いくつか検査した結果、告げられた病名は【過敏性腸症候群】。

前までは、【過敏性大腸炎】と呼ばれていたらしいので、こちらの方が聞いた事がある人が多いかもしれない

どちらにしろ、ストレス性の機能障害だ。


診断を下した先生が、私に言った。


「なにか、思い当たるストレスはありますか?」

「・・・・仕事、ですかね・・・・」


当時、私の仕事は業務量も多く、また、運用の部分で毎日のように頭に来ていたので、精神的にも肉体的にも、相当な負荷が掛かっている状態ではあった。


「そうですか」


おそらく、よくある話なのだろう。

先生は、さほど表情を変えずに相槌を打つ。


「治りますか?」

「仕事辞めればすぐに治ると思いますけどね」


ものすごく軽い口調で言われたものの。

収入がなくなれば、それはそれで不安になり、別のストレスが発生するじゃないか。


黙っていると、先生が言った。


「今はいい薬も出てますからね。とりあえず、薬を飲んで様子を見てみましょう」


医師からの診断も出た事だし、と。

私はすぐ上司に状況を伝え、とりあえず、業務量を減らして貰い、処方された薬を飲んで様子を見てみる事にした。



幸いなことに。

それから1年半ほど経つと、私の【過敏性腸症候群】は完治した。

診察の際、私は嬉しくなって、先生に言った。


「先生。薬を飲まなくても、もうすっかり良くなりました!」

「それは良かったですね」


先生も嬉しそうに笑う。


「仕事の方は、いかがですか?」


当時は運よく、業務量を減らしてもらったことに加えて、職場環境自体も落ち着いてきていて、精神的な負荷も減っていた。

私はそれを、端的に先生に伝えた。


「はい!最近は、!」

「ええっ?!」


何故か、先生は驚きの声を上げた。


?!」


そして、何故か笑い始めた。


先生はどうやらずっと、私が職場で怒られまくって、精神的にやられてしまったのだと思っていたらしい。

そりゃ、体調悪けりゃ、弱々しくも見えるでしょうけどっ!

ちょっと、失礼じゃあないかいっ?!


「違いますよ、いつも私が怒ってるんです!」


先生は、しばらく笑っていた。



家に帰って家族に話しても、友人に話しても、何故か笑われる。


確かにね。

私は一見、穏やかそうに見えるらしいけど。

それにしても・・・・・

そんなに怒られまくっているような人に見えるかね・・・・なんかちょっと、納得できん。

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