75.王様に謁見しました

 今回の結界構築について詳しい話を聞くには専門家の同席が必要だとのことで、いったん控え室に待機することになった。レイン教授はAランク冒険者の義務を果たすためとっくに前線に向かっていて、学生チーム代表としてニコル会長が表立つために残ってくれる。政府関係者はみんな貴族のため、エイダ以外は平民という俺たちでは荷が重いだろう、だそうだ。まさにその通り。

 案内してくれた侍女さん方がお茶を淹れて退席するまで待って、会長は主に俺に向き直った。


「さて、まずは私が色々把握しておきたいのだが、質問して良いかな?」


「はい。むしろ、何を説明したらいいか分からないので質問形式でお願いします」


 そうして始まった問答は、どうやってこの世界にやってきたのかという始まりの部分から開始した。俺は誰なのか、の説明で俺の背景の大枠は伝えられてしまうんだけどな。


「では、今回構築した結界は、超古代文明時代を生きた君の師匠殿が遺された研究施設で実際に現役稼働している魔法ということだね?」


「はい。ごく一部を抜き取って今回用に書き直してますが、元は師匠が遺してくれた魔法陣です」


 その魔法陣の効果は、俺と仲間たちが体験している。だからこそ、提案を口にしたところから誰も反対意見を出さなかった。それだけの有用性を実感しているのだ。


「なるほど。それが現在他国にあるというのは幸いだったな。この国にある遺跡なら、個人所有をギルド保証されていたとしても問答無用で接収対象だろう」


「いやぁ、実際のところあそこを人間が接収とか、無理だぞ、ニコル」


「ん? どうしてだい?」


「人間如きが神様と同等の力があるドラゴンに勝てるわけがねぇよ」


「……ドラ、ゴン?」


「そ。ちょっと前にここの上空で目撃された、ドラゴン。リツのお師匠さんの塔を塒にしてる」


 とても軽い口調でエイダが爆弾を投下。俺たちも苦笑するしか術がない。


「ま、それ以前の問題で、塔の結界には俺たちみたいな体内魔素を持った生き物は入れねぇよ。何せ本物の魔法師がゴロゴロいた超古代文明時代の天才魔法師が作った最高傑作に守られてるんだぜ? 現代人じゃ足下にも及ばねぇ」


「その結界は今回使ってもらったし、解説もしてもらう予定だが?」


「仕組みが分かったところで対抗手段にそのまま結びつくわけじゃねぇ。それに、今回の結界は本物のごく一部だ。だろ? リツ」


「ごく一部といっても、機関部分ではあるけど。まあ、そうだね」


 そもそも、魔導師以上の魔法陣魔法発動能力のある人でないと発動できない上に膨大な量の魔石を消費する金食い虫だ。単純に今回の結界を再現することすら難しいだろうと思うよ。

 それに、仕組みを知っている俺にもあの結界の対抗手段は見つからない。俺のように体内魔素を持たない動物なら侵入可能だけれど、体内魔素を持たず人間同等の知恵を持っている生き物なんてこの世界では俺だけだ。

 まぁ、日本から召喚すれば可能か。召喚魔法陣は既に知られているのだし、俺を名指ししている箇所を適切に改竄できれば日本から人を呼べるんじゃないかと思う。

 逆に言えばその程度には難しい。

 それに、あの塔の魔法陣は塔ごと破壊しない限り消せないしな。塔が欲しいのに塔ごと壊すとか本末転倒すぎる。


「なるほど、技術拡散への備えはされているわけか」


「拡散して困る技術はそうそう無いですけどね」


 何しろ、既に大部分はガレ氏によって拡散済みだしね。


 そんな話をしていると、侍女さんが俺たちを呼びに来た。会議室に案内してくれるという。それも、全員で良いそうだ。俺とエリアスだけいればことは足りるはずなので、政治の世界に不慣れな学生への配慮だろう。引き離されると心細いお年頃なので、ありがたい。


 案内された先には、大人が勢揃いだった。今回手伝ってくれた騎士の部隊長さんや、広場の奥で見ているだけだったローブ姿、いつの間にやってきたのか、今日中学院食堂に押しかけてきた面々に教授さんもいる。

 そして、宰相様の隣の一際立派な椅子に、ここに集まった面々に比較したら若者な部類の男性が1名。その仕立てのいい服装と頭に乗った金属の帽子、いや王冠は、その正体を見た目で示していた。


 左にいたニコル会長と右にいたエリアスに一瞬遅れて、一歩部屋に入ったその場に跪いた。片膝立てるこの国の最敬礼なんて知らないので、正座で。


「そのように畏まる必要はない。入ってそこにお座り」


 気さくにお声を下さった陛下は、見上げればニコニコとヒトの良い笑顔だ。

 俺たち日本人にとっての天皇陛下より権力の強い実権を持った国王陛下は、穏やかな人柄の滲み出たふわふわの金髪に碧の瞳が柔らかい美男子だった。

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