ep.38


 呼び鈴が鳴り、鍵を外し扉を開けると無精髭にくたびれたスーツを着た親父が立っている。


 「宇津か。ただいま。…桃華ちゃんはいるのか?」


 「息子よりも、桃華の事かよ… 桃華ならソファで寝てるよ」


 「まぁ、拗ねんなって。息子と桃華ちゃんの二人で生活させてるんだし、心配するのは保護者として当然だろ?」


 「分かってるよ。それよりも、もう少しで夕食できるから早く着替えてきてくれ」


 「おぉ、久しぶりの宇津の飯かー!ここ最近まともな物食ってなかったから助かる。それと、これ、二人で食べてくれ」


 そう言って取り出したのは、毎回恒例となっている近所の洋菓子店のケーキ。前回よりも少し重いのは、桃華の分が増えたからだろう。

 

 親父からケーキの箱を受け取り冷蔵庫へ入れて、夕食の準備を終わらせる。

 そろそろ桃華を起こすか、とソファに向かうと気持ちよさそうに寝息を立ててぐっすりと眠っている。


 「おーい、桃華ー。起きろー。そろそろ

 夕食だぞー」


 「……うへへ」


 「どんな夢見てんだよ…」


 俺の寝顔はいつも見られているが、桃華の寝顔をこんなにしっかりと見たのは初めてかもしれない。

 普段の桃華と違い、頬を緩ませ、猫耳をピクピクと揺らしながらだらしない顔で寝息を立てる姿見て苦笑する。


 「……ん、…おはよう、ございます」


 「おはよう。もう、夕方だけどな」


 しばらく寝顔を見ていると眩しそうに目を細めた桃華がソファから起き出す。

 毛布を畳んで仕舞い、桃華を椅子に座らせると親父もタイミングよくリビングへとやってくる。


 「お久しぶりです、おじさま」


「おう、久しぶりだな桃華ちゃん。さっきはぐっすり寝てたみたいだけどよく眠れたかい?」


 「はい!宇津さんが私の代わりに色々やっててくれたみたいで熟睡出来ました」


 「それは良かった。宇津も桃華ちゃんと仲良くしてるみたいで安心したよ。これからもビシバシ宇津の事を使っていってくれ」


 「はい!どんどん使わせてもらいますね!」


 目の前に本人がいるのにこの二人は何を言ってるんだか…

 二人の会話に呆れながら親父を席に着かせ3人で夕食を食べる。


 夕食中は俺たちの学校でどんな様子なのかが気になるとの事で、俺に女子の友達ができたと桃華が話した所、親父は動揺したのか皿を落としそうになって慌てていた。

 そして、動揺した親父に桃華が「この子です」と沙奈の写真を見せると今度は皿を落とし、俺に対して病気になったわけじゃないよな?と謎の心配をしてきた。



 解せぬ



 ちなみに、案の定割れた皿は落とした本人に片付けさせた。


 


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