第17里 損傷 ▷ 派生

『”全長500mを越える個体を1回討伐する”のアチーブメントを獲得』

『”20回進化する”のアチーブメントを獲得』


 ひっくり返ってすぐ、メッセージが現れた。ははは、また損傷したよ。指向性を持たせられたようだが、100mという距離は近すぎたみたいだ。爆発の衝撃で背にした陸地へ吹っ飛ばされた。各部は破損しているが、動かせる。

 あの巨体は500mもあったのか。放水して船体を起こしながら巨体のいた方向を見る。長大だった胴体の一部が水面に浮かんでいるだけだ。尻尾だけでも売れるのだろうか。

 20回目。あと何回進化できるのだろう。


『進化の方向および進化項目を4回選択してください

 ――主兵装獲得

 ――副砲獲得

 ――推進力向上

 ――潜水性能獲得

 ――航空戦力獲得

 ――飛行能力獲得

 ——砲(破損修復)

 ——門(破損修復)

 ——翼(破損修復)

 ――波(破損修復)               』


 困った。火力不足は感じていない。むしろ過剰だ。そして進化の方向ときたか。どれも欲しいが、より攻撃か多彩な移動かを今決めるのは早計かもしれない。いつかは飛んでみたいしな。


『主兵装、副砲を獲得しました

 推進力向上および飛行能力獲得に伴い大幅な改修が実施されます。進化終了まで10000,9999,9998……

 船橋せんきょう未設置のため、切断されます』


 あ、選んでしまった。せんきょーって何だ? 今回は、やけに長いな。急に視界が暗転し、船体を動かせなくなった。






 船体に喧騒と波の音が届いてくる。意識がはっきりすると、東へ逃げたはずの兵士たちの船に曳航されていた。船体に縄を通されている。

 主砲として40cm二連装砲がマストの前に1基、副砲として臼砲よりも小さい高角砲が側面に1基ずつ配置されている。臼砲が2つとも無くなった。爆雷の筒はひん曲がったままだ。中央の丸太も幹回は大きくなったが、外側の損傷は激しいまま。

 全長は変化なし。モーターボートのような船体に変わっている。より速度が出そうだ。

 スクリューを軽く回すと、見物していた兵士たちにどよめきが走った。


「うぉ!?、動き出したぞ! 離れろ!」

「操舵輪も帆も無く、どうやって動いてんだ?」

「大砲の射線に立つな! 警戒しろ!」


 あー、何か警戒されてるっぽい。前に2隻、左右に2隻か。5隻だったが、どさくさに沈んだか。後方に戦利品の尻尾が括り付けられている。

 進化の影響か、船体側面の形状が変化している。縦2m、横1m、厚さ4cmの流線形の出っ張りは、ボートでいうハルにしか見えないかもだが飛行能力を獲得した実感がある。固定翼だと思いたい。


 現在地は……ドゥーミンの北側を西進中か。このままでは何をされるか分からん。飛行能力の検証もしたい。兵士たちには悪いが、通らせてもらおう。

 スクリューの回転を上げ始めると、兵士たちが慌ただしくなった。前の2隻の間を追い抜くようにして前に出ると、縄がミシミシと音を立てる。兵士たちが縄を切ろうとしているので少し待ち、切れたのを見計らい加速した。


 推進力が向上した割に加速の仕方は変わらないようだ。最高速度が少し上がったくらいか。この感じだと飛行能力も期待薄だろうか、と考えていると船体が海面から1mほど浮かび上がった。スクリューが空を切っている。飛行って浮遊か。どういう原理かは分からないが、スクリューの向きを変えると船体の向きも連動した。海上を航行する速度は変わらないようだ。主砲や副砲で放水すると、加速できるだろうか。主砲を後ろに旋回させようとするも後方に向かなかった。マストが邪魔らしい。約270度か。副砲は180度が限界らしい。

 両副砲を後方に向け放水すると、「あっ」という間にドゥーミンを通り越した。風の影響か船首がどんどん上を向いてしまう。やばい、と放水をやめると、増した速度のまま着水した。


 ……空を飛ぶ、危険、理解した。






「何で会うたびに問題抱えて来んのよ、あんたは」

「貢献ではないのか」

「護衛の船2隻、商船1隻、ホースシュランガーの尻尾のみ、極めつけは北の新大陸の王族から感謝と招待状」

「話題に事欠かないな」

「それに何か浮いてるし……」


 物珍しさからか人だかりができていた。予定を切り上げたボロトとニコラが合流して早々小言だ。ちょっと試しているだけなのに。ニコラは栄養が足りていないのかもしれない。尻尾だけにした巨体はホースシュランガーという名称らしい。馬には見えなかったが気にしても仕方ないか。

 北の大陸で助けたのは王族だったらしい。新大陸というくらいだから未発見だったろう。当ての無い航海ではなく、あると判明した大陸とは関係を持ちたいのかもしれない。行く機会があってもあまり意味は無いな。船だし。


「はぁ、ほんとアンタしゃべれるようになりなさいよ」


 まったくだよ。船なら船内放送のスピーカーで一方送信できそうだが……どれを選べばそうなるのか分からんな。

 同意の意味も込めて上昇下降を繰り返したら怒られた。解せぬ。


 ニコラとボロトを乗せて海抜5mほどを滞空していると、港が騒がしくなった。かなり離れたところにアルトンで見た黒い大円が現れた。身分の高い者が乗る船が来るらしい。


「テア様が来るわよ。面倒だからこのまま飛んでて」

「さすがに王族の頭上はまずいだろう」


 帆の無い船体が帆船より高い高度を滞空するか、という命題。もし地球ならば飛行船や宇宙戦艦など想像できるだろう。

 この世界ではどうだろう。中世の文明レベルの科学技術に魔法がある。ニコラにはできないようだが、魔法ならば船すら浮かべるかもしれない。

 そんなどうでもいいことを考えていると、黒い円から装飾の華美な大型船が現れた。

 1隻目には、大きな歓声は上がらなかった。テアは乗っていないのかもしれない。


「そろそろね、どんな反応なさるかしらね」


 悪い顔のニコラが言ったのは3隻目だった。護衛艦が先に黒い円を通り、後から王族が通るようだ。帆にでかでかと国旗が描かれた大型船に乗っているらしい。

 護衛艦の面々は、こちらの主砲が向いていたことに警戒していた。船上のニコラが帝国の国旗が見えるようにローブを振ると、警戒を解いたようだ。


「あれー? 船が飛んでるー。あっ、ニコラー!」


 全身鎧の騎士に囲まれたテアが港に降り立った。SPに囲まれるVIPみたいだ。こちらの人だかりに気づき、ニコラにも気づいたようだ。手を振るが、たしなめられている。身分が高い者は色々あるのだろう。

 こちらをチラチラ見ながらテアは、港町へ連れられて行った。公務があるらしい。明朝テアが合流する予定で、侍従が随伴するそうだ。執事かメイドかでヤル気が変わる。仕方のないことである。


「さて、私たちも……って降りれないわね。人が多すぎて。」

「明日も、人が多いときはどこから乗るか。」

「合図があるまで沖で待機、って見えてる?」


 と聞かれたようなので主砲の上下で応えると、なぜか人だかりから、どよめきが起こった。

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