第30話 おじさん、魔法少女ランキングに参加する

 中は一面鏡張りのレッスンルームだった。


「よくぞ来た、中等部の生徒会役員候補たち」

「役員!?」

「モル!?」


 そこで待っていたのは生徒会長と副会長、そして緑陣営の青メッシュ先輩、赤陣営のハムスター先輩、紺陣営らしき青髪の先輩だった。

 先輩たちの背後には、役員の証である銀腕章、その補佐である黒銀腕章を付けた高等部のお嬢様方が並んでいる。


「いきなりで申し訳ないが、これからお前たちには専任の先生を選んでもらう」

「うちらが先生を選ぶん!?」

「決められてるんじゃないの!?」


 副会長のお言葉に、私を盾にしたままの琴鈴ちゃんと玲香ちゃんも驚いていた。


「ど、どうして……?」

「どうして教えてくださらなかったんですかお姉さま!」


 先に入っていたマリアちゃんと結衣ちゃんも困惑気味だ。

 すると会長が答えた。


「いや、最初は各陣営のリーダーに教育を任せようと思っていたのだが、昨日、赤城くんが夜見くんに行った教育で考えを改めたんだ。他の子の担任は専任方式にしたほうが良いだろう、と」

「な、何があったんですの?」

「詳しくは言えない。ただ赤城くんと彼女の聖獣には、高等部の総合訓練室で反省を促すダンスレッスンを受けてもらっている」


 一体どんなダンスレッスンなんだ……


「かぼちゃマスク被ってそうモル」

「変なこと言わなくて良いんですよダントさん」

「ふむ、被らせた方が反省を促せるか……?」

「実行しようとしないで下さい会長」

「はは、冗談だよ副会長」


 副会長に叱られても呑気な会長。

 相変わらず不思議な人だ。


「……それで、私たちは何を基準に選べばいいんでしょうか」

「ああ、すまないが、夜見くん。君は赤城くんで固定だ」

「どうしてですか!? 嫌です!」


 生徒会長には人の心がないのか。

 すると副会長が対応した。


「すまん夜見。あれでマイルドな訓練だとしたら他の子は廃人になる。カウンセリングは欠かさず行なうから防波堤になってくれ」

「副会長まで! 酷い!」

「あのテロリストの言葉で価値観が崩壊しないのはお前だけなんだ。頼む」

「ええー……」


 頭まで下げられたら、受け入れるしかあるまい。


「じゃあ、何か特典を下さい」

「特例として課外活動権を与える」

「課外活動権……?」


 副会長はコホンと咳払いをして、詳しい説明に入った。


「魔法少女ランキングは知っているか?」

「はい。大体は」

「昔は人気度だけで決まっていたが、今は三つの評価基準によるポイントの合計で順位が決まる仕組みでな。そのランキングで上位1000位以内に入ると『優等生』、100位以内で『特待生』として認められ、梢千代市の外に遊びに行く権利が貰えるんだ」

「へぇー」


 私は漠然と聞いていたが、ダント氏は強く反応した。


「つつつ、つまり、エモ力を上げるために必要な他人からの承認が得られやすくなる、ということモル!?」

『!?』


 彼の言葉に他の四人は猛反発を示した。


「うちらもお外行きたーい!」

「ライナだけずるいー!」


 現実はもっと論理的な言いくるめだったが、内容はおおよそそんな感じだった。


「お前達はまだダメだ。夜見は既に実戦級をはるかに越えたエモ値を記録しているから特例なのだ」

「「「そんなー」」」


 副会長の返答も意訳するとこんな感じだった。


「エモ力を高めるには、この学校や梢千代市で定期的に行われるシャインジュエル争奪戦に参加すると良い。それに夜見にいきなり与える訳でもない。最低限の日数を置いてから与える」

「なら仕方ないのだわ」

「そやったらええよ。始まったあとやし」


 結果的に副会長側が譲歩する形で四人は納得した。


「それで副会長。最低限の日数とは?」

「一ヶ月半だ。梢千代市の永久パスポートの発行にはそれだけかかるからな」

「分かりました」


 ならば仕方がない。永久パスが発行されるまでの我慢だ。


「それで話は戻るが、お前たち。先生を誰にするか選んでくれ」

「あー、そういえばそんな話やったなぁ」


 四人は悩みに悩んだ末に、琴鈴ちゃんは特技が活かせると言われて緑陣営の青メッシュ先輩、玲香ちゃんは憧れの存在らしいハムスター先輩、マリアちゃんは熱烈な歓迎を受けて青髪先輩、結衣ちゃんは会長の前で戸惑ったあとに副会長……の補佐さんを選んだ。


「担任は専任とし、入れ替えは可能とする。判断は先生役の高等部生に任せる。これで良いか!」

『はい!』


 生徒会長の最終確認に、担任の先生と四人が威勢よく返事をした。


「いいなぁ」

「僕たちには赤城先生が居るモル」

「やだなぁ……」

「僕も……」

「安心するのだ後輩。あんな戦闘シミュレーションは高等部まで行われないのだ」

「なら良いんですけど……」


 私は若干ニヒルになりつつも、青メッシュ先輩の勇気づけでやる気を取り戻した。

 その後はマジタブ・マジカルバッグの贈呈式と説明が行われ、魔法少女ランキングを起動することになる。


『魔法少女ランキング♪ あなたは魔法少女かな? それとも応援者さんかな?』

「君達は魔法少女を選んでくれ」

「はい」


 選択画面で魔法少女を選ぶと、『端末情報と同期しますか?』と表示が出て、『はい』を押すと画面が3Dホログラムとして浮かび上がる。

 私が魔法少女になった時の姿と、現在の順位である圏外、そして三角グラフで表された評価ランクとポイントだった。


「夜見さんの評価グラフ、つまようじみたいな形モル」

「あ、それ思いました」


 私の評価ポイントは人気度だけがCランクまで伸びていて、他は0ptでFランクという極端な数値なため、そのような形のグラフになってしまっているらしい。


「魔法少女ランキングは知力・魔法能力・人気度の三つで評価される。知力は学力テスト、魔法能力は学期末の魔法少女試験、人気度は応援者からの応援や評価で決まる。どれも欠かさず伸ばし、三位一体の黄金比であるよう心がけること。担任は生徒たちと共に切磋琢磨すること。ランキングの説明は以上で良いか!」

『はいっ!』


 私たちは元気よく返答した。


「次はシャインジュエル争奪戦について説明する。まずシャインジュエルとは、光の国で採れるスターダストフルーツの種で、エモ力の結晶体だ。君たちは、時には協力し、時には敵対してシャインジュエルを奪い合うことになる。争奪戦の難易度は最低のFから最高ランクのAまであるので、身の丈にあったゲームに参加するように」

『はい!』

「そして集めたシャインジュエルは、そのまま食べれば自身のエモ値を上昇させてくれるし、購買部で通貨に換金することも出来る。状況に合わせて自由に使いなさい」

「あ、あの!」

「なんだい夜見くん」


 会長は私を名指ししてくれた。

 思ったことをそのまま聞く。


「シャインジュエルってどんな味なんですか? どう食べるんですか?」

「味は種類によって色々だが、基本はキャンディと同じだ。舐めたり噛んだりして食べる」

「分かりました。ありがとうございます」

「よろしい。では質問を受け付ける。あるか!」


 みんなは特にないようで、会長は説明に戻る。


「シャインジュエル争奪戦は、今日から一週間後に開始される。何故かと言うと、中等部一年生の多くは、変身してもどうすれば良いか知らなかったり、そもそも変身が苦手だったりする者だからだ。担任の指導は争奪戦攻略に向けての手助けが主なので、来週までは勉学に励むなりして尽力せよ。以上で良いか!」

『はい!』

「会長、日時の説明が抜けています」

「む、すまない。シャインジュエル争奪戦は放課後から閉門するまでの三時間、休日は朝から夕方まで行われている。自由参加だが、体調管理には気をつけること。毎年過労で倒れる生徒が何名か出るからな。私から言えることは、食事は毎日三食食べなさい。以上だ。良いか!」

『はいっ!』

「では解散とする!」


 会長の指示を受けて、みんなはそれぞれの担任の先生である高等部生と共に散らばっていった。ポツンと残される私。


「会長。夜見はどうしますか?」

「君に任せた」

「分かりました。夜見、ついてこい。私が面倒を見てやる」

「副会長……!」


 私は副会長に拾われる形で、争奪戦の対策を練ることになる。

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