第20話 おじさん、学校からマジタブを支給される
「ねぇねぇ!」
「はい?」
席に着くと、数人のクラスメイトが集まってきた。
「あなたって魔法少女プリティコスモスなんだって!?」
「はい。そうですよ」
「良かったら握手してください!」
「いいですよ」
どうやらファンだったようで、握手してあげた。
彼女たちは握手できた喜びで黄色い声を上げてから、こう名乗った。
「私は魔法少女ソウハンド! だからソウって呼んで! それで、隣の二人はレイニードルのレイちゃんと、ヤーンクロスのヤンちゃん! よろしくね!」
「よろしくですソウさん。レイさん。ヤンさん。私のことは好きに呼んでくださいね」
「じゃあモモちゃんって呼ばせて!」
「ええ。どうぞ」
三人は私の許可を得て嬉しそうにしていた。
それに続けと、他のクラスメイトからもニックネームではあるが自己紹介が始まり、結果的にクラスのみんなと仲良くなれた。
キーンコーンカーン――
「あ、時間だ! 休み時間にまたね!」
「はい。また」
その頃には始業時間になり、一限目の授業が始まる。
Z組の担任の先生が教室に来たが、腰の調子が悪いのか膝がカタカタとしていた。
「えー、一限目の授業を始めます。まずは挨拶から。起立。礼――」
しかし業務に支障は無さそうだった。
でもデスクワークの辛さが分かる分、どうしても気になってしまう。
「先生、膝か腰が痛いんでしょうか?」
「気になるモル?」
「多少は気がかりですよね」
「その気付き、大事にするモルよ。でも今は気にしなくて良いモル」
「たしかに」
ダント氏の言うとおり、まずは授業に集中しなくては。
「新入生の皆さん、おはようございます。担任の松永です。今日は一限目と二限目の授業が特別だとは皆さん御存知の通りですが、その前に皆さんに用意して貰いたいものがあります。学校支給のスマホであるマジックタブレットと、聖獣用のマジックバックです」
その一言でクラスがざわめく。
期待と興奮、不安と心配の両方が入り混じった声だ。
「では聖獣の皆さん、支給されたプレゼントボックスを魔法少女に渡してください」
「夜見さんどうぞモル」
「わぁ」
ダント氏がどこからか取り出したのは、黒い贈呈用包装紙に包まれた長方形の箱だった。
「いつの間に貰ったんですか?」
「昨日貰ったモル」
「誰に?」
「先生に。赤城さんからモル」
「えへへ、もーそういう嬉しいことは先に言ってくださいよー」
私は包装紙を丁寧に外して、箱の蓋を開け、私の髪と同じピンクのカバー付きスマホと、手のひらサイズの小さな肩掛けポーチを手に入れた。
「可愛いマジタブですねぇ。こっちはお人形のおもちゃみたい」
「あ、そのポーチは僕へのプレゼントだモル」
「へぇーどうぞ」
ダント氏は受け取って肩から掛けた。
すると自動でサイズが変わり、ダント氏にフィットした。
「おお、一気に聖獣感が出ましたね」
「ふふん、新生ダントの誕生モル」
「どう変わったんですか?」
「このポーチは特別な魔法の鞄。色々なモノを収納出来るんだモル」
「へぇー」
私と同じように、他のクラスメイトも聖獣と話して、説明を受けて驚いていた。
「あの、サイズ制限とかあります? 個数制限とか」
「そういうところを聞くのは夜見さんらしいモルね。あるけど、僕がちゃんと管理するから安心して欲しいモル」
「あっ、はい」
言われてみればたしかにそうだ。
疑問に思ったのはクラスでも私だけで、クラスメイトはお行儀よく、先生が話しだすのを待っていた。私が前を向くと、先生がダント氏と同じことを言った。
「――次はマジタブの説明をしますが、先にマジタブで個人情報の登録をしましょう。分かってる子も、分からない子も聖獣さんと一緒にやってね」
ワッ、とみんなこぞってマジタブを起動し始めた。
「みんなこれが欲しかったんですかね?」
「マジタブには魔法少女衣装のカスタマイズ機能があるんだモル」
「そんなに重要な代物なんだ……」
「本当はメンテナンス用の機能なんだモルけど、よくデコレーション機能として使う子が多いモル」
「へぇ――よし。登録終わりました。顔と指紋だけって楽ですね」
「実は網膜と虹彩パターンの登録も――」
意外と高性能な認証とも分かった。
その後、ダント氏でもマジタブを起動出来るようにする聖獣情報の登録も行い、先生から魔法少女ランキングについての説明がなされた。
「――ランキングについては以上です。みなさんはこれから魔法少女としての訓練をたくさん積むわけですが、そちらをやりこみすぎて、学校の勉強がダメダメにならないように気をつけてくださいね」
『はーい!』
「それと、ランキングの順位に関わるシャインストーン争奪戦については次の授業で説明します。次はマジタブに入れて使っていいアプリ、ダメなアプリを簡単な例を挙げて教えます――」
先生が語ったのは、ソレイユ・ソリューション、ナイトアイズ・クリエイターズというIT企業が作ったアプリだけ使用出来て、他のアプリを入れたいときは新しいスマホを購入してもらいなさい、という説明だった。
「うわぁ、うちのお得意さんだった企業じゃん……」
「まさかの伏線回収モルね……僕も予想外モル」
私はIT業界に勤めていた初めて良かったと思えた。
社会に正しく貢献出来ていたと知ったからだ。
「もしかして夜見さん、どっちかの本社に行ったことあるモル?」
「後者だけありますよ。スタイリッシュなオフィスでしたね」
「おおー、今後に生きそうな繋がりモルね」
「――えー、マジタブには専用の超高速無線回線が通っていますので、とても素早くアプリをインストールできます。せっかくなので、みんなで『マジスタグラム』というコミュニケーション用のアプリを入れてみましょうか」
クラスは熱狂の渦に包まれた。
私もマジスタをインストールし、アカウント作成、初めての挨拶まではやっておいた。
すると数秒ほどでハートが貰えて、それは赤城さんからだと知った。
さらにフォローとメッセージまで飛んでくる。
『ごめんね夜見ちゃん。こっちの仕事が終わったら遊ぼうねー』
私もリフォローして、『待ってます』と小さくメッセを返した。
ハートがついたので見てくれたようだ。
「――はい、マジタブの説明は終わりです。マジスタでのフォローやID交換はみんな自由にしてください。これから第一校庭で変身の練習を始めますので、みんなで移動しまし――」
ズダダダダダ――
突然、廊下から沢山の人が走る音がする。
先生や私を含めたクラスメイトが困惑していると、
――ガラララッ!
「動くな!」
「手をあげろ!」
突然、銃器を構えた黒いフルフェイスのヘルメット集団が教室内に乱入してきた。
装甲付きの黒いライダースーツで全身を包んでいる。
「誰ですかあなた達は!?」
「おい、ソイツは
「はい」
パァンッ!
「ぐあああああッ――」
先生への返答の代わりに、彼らは銃弾をプレゼントした。
すると先生の姿が茶色い木製の人形に変化し、当たった場所に黒い焼き印が刻まれて、彼らの元に移動する。
「せ、先生……」
「よく聞け! 我々は『魔法少女連盟』を名乗る反社会国家ソレイユへの抵抗組織『ダークライ』である! 君たちが先生と思い込んでいるのはただの木偶人形に過ぎない!」
「そ、そんな」
「君たちはソレイユに洗脳されている! 正義は我々にあり、君たちは無垢な被害者である!」
「そんなことな――」
「黙れ!」
パァン――パリィン!
「ひぃぃ」
銃弾で窓ガラスが割れ、銃が本物だと示した。
声を荒げた子は机の下でしゃがみこみ、私も恐怖で縮こまってしまう。
「家に帰りたくば大人しくしていろ! 抵抗する者は容赦なく殺す!」
「だ、ダントさん……!」
「しっ、今は静かに」
「は、はい」
私たちの教室は、ダークライを名乗る謎のテロリスト集団によって占拠された。
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