第5話 新約創性紀――イヴがアダムを産んだ?

「ぐっすり眠れた?」

「どのくらい寝てた?」

「あなたの寝顔についつい見とれちゃった。一時間は過ぎたかしら?」

「お父さん帰って来たら不味くないですか?」

「そうね~、パパにばれて、ふたり着の身着のまま家を追い出されて路頭に迷う。なんか萌えない?」

「それ、ヱデンから追放されたアダムとイヴみたいだね」

「クリストリスチャンの伝承では、アワとアダナリのお話ね」

「なんか和風の響きがするね」

「そうよ。クリトリスチャンは、昔は『狐狸禽始端クリトリシタン』と名乗ってたのよ。恵那島に栗取稲荷って有るわよね」

「隠れ切支丹伝説があるところだね。何だか、神社だか、お寺だか、教会だか判らない神殿でしょ」

「そこが狐狸禽始端クリトリシタン発祥の地なのよ。あそこは安房あわ県安房あわ市にあるわよね。大御母おおみははアワに因んでるのよ」

「へぇーそうなんだ。じゃ、アワってママの前世の前世とかで、僕はアダナリに相当するの?」

「そうよ。難しいかもしれないけど、泡から産まれたアワの歌を歌うわね。

 あなたは一人寂しく、想像から世界を創造した。あなたは全てを創り出せたが、ナニも産み出せなかった。生み出す力は愛。あなたは一人寂しく愛を知らなかった。あなたは一人寂しく愛を求めた。でも、あなたは愛を見つけられなかった。あなたは愛を見つけられず苦しんだ。一人寂しく苦しんだ。苦しみのあまり叫んだ。『愛とは何ぞや、愛を知らば死しても悔いなし』と。あなたは創り主、あなたの言霊は創る力、全てを従え、自らをも縛る。あなたは一人寂しくお隠れになった。あなたに替わって愛が生まれた。愛はよって、海は母なる海となった。そして母なる海が泡立った。わたしは泡から産まれた。わたしはアワと名乗った。わたしは始めの女、始めの母となった。わたしは母なる海に抱かれた。母なる海の波の間に間を漂った。手脚が伸び、胸も膨らみ始めた頃、わたしの体の中を風が吹き抜けた。そして、わたしのお腹も大きく膨らみ始めた。わたしは海の波の間に間を漂い続けた。やがて、あなたを産んだ。海の中であなたを産んだ。儚く弱弱しいので、アダナリと名付けた。あなたを産んだ時、胞衣を落とした。胞衣は大きくなって島になった。恵那島と名付けた。わたしは、恵那島に上がり、あなたを育てた。あなたは大きくなった。あなたは、わたしの夫になった。そして子供たちが産まれた。子供たちは恵那島から溢れた。大きくなった子供たちは、舟を作って旅だった。新たな百八ももや島を探しに行った。こうして、この世は人の子で満たされた」

「へぇ~、アワは処女懐胎してアダナリを産んだ。そして息子とHして沢山の子孫が出来て、人類の祖先になったんだね」

「ヰサヲちゃんは、ママと息子がHすること、どう思う」

「(大好きなママとHしたいけど……)近親相姦だから、いけないんですよね」

「誰がそんなこと教えたの?」

「えーっと、世間の常識です」

「私はそんなこと教えたこと無いわよ。あなたはパパの言うことなんて聞かないでしょ?」

「うん、まぁ」

「だったら、世間の常識なんかに捕らわれなくて好いわよ。もっと頭を柔らかく、視野を広く、心を空っぽにして物事を考えてね」

「ママはマリヱで、僕はヰサヲだよね。マリヱは処女懐胎したけど、ヰサヲとHした訳じゃないでしょ?」

「Hしたのよ。母と子で。だから、ヰサヲは殺されても、聖母の聖杯の中に残された種から受肉して復活できたのよ」

「じゃ、アワとアダナリと同じじゃないけど、似たことしてたんだ?」

「そうよ。三位一体論って判る?」

「判るけど、ナニ言ってるか訳の分からない理論だよね。父なる神と神の子ヰサヲと聖霊の三つは同じってことでしょ」

「そうね。クリスチャンの解釈は意味不明よね。それは私たちの知る真実を捻じ曲げて糊塗したから、そうなったのよね」

「じゃ、もっと判り易く説明できるの?」

「そうよ。ごく簡単よ。聖霊を聖杯と読み替えればいいのよ。ヰサヲちゃんの本当のパパはヰサヲちゃん自身よ。聖杯・餐蔵得サングラールである私のお腹の中で受肉して、今のヰサヲちゃんが産まれたのよ」

「父なる僕と僕の子、そして母なる聖杯だと判り易いね」

「そうでしょ」

「じゃ、僕は、前世の僕とママの間に生まれた子供ってことだね」

 ママに脳を融かされいる。もう驚かなくなってきた。冷静に受け止めている。与作はヰサクだけに実の父じゃないんだな。本当は可哀相な人だったんだな。これからは優しく接しよう。

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