第155話フランの記憶と思い

 フランに向かって突き進む。

 飛んで来る魔法はレミリアが魔法で弾いては魔法陣を消している。


「【ソウルパニッシャー】」


 サトシが何かのメダルを使ったのか、大剣の見た目が少し変わっていた。

 リマの隣を飛び、互いにフランへと接近する。


「おりゃ!」


 リマは一振に見える振り方だが、斬撃の数は5つ。

 サトシは強力な一撃をフランへと放った。

 多少のダメージを与えた所で、リマの目の前に火球が出現してリマを吹き飛ばした。

 廃城の壁まで吹き飛ばされた。


「っ!」


 この世界のみで生まれた人格であるリマ、つまり自分。

 プレイヤーならば痛覚はある程度抑えられて感じるようになっている。

 しかし、ここの世界のみの存在。それはNPCとなんら変わらないリマ。

 感じる痛みは現実、いや、それ以上の痛みを感じる。

 無意識演算領域があるからこそ、痛みを冷静に高速で分析し、精密に感じる。

 痛みがリマを激しく揺さぶる。


「ゴホゴホ。痛い、けど。行かないと!」


 今のリマは悪魔であって悪魔じゃない。

 制限時間がないのなら、全力で戦う。

 合体状態が終わった瞬間に死ぬ可能性があるから使わなかったが、今ならその心配もいらない。


「ぐは!」


 HPが2割も減ってない状態で、反対の方向にサトシが吹き飛んだ。

 まともに戦っいるのはレミリアくらいか。

 他のプレイヤーは魔法によって死んでるし、うちらのメンバーはイサに守られながらなんかしてるし。


 インベントリを操作して魔剣を取り出す。


「行くぜ、魔炎剣、レーヴァテイン!」


 右手には刀、四獣刀モード朱雀、左手には剣、魔炎剣、レーヴァテイン。

 赤色の刀と黒色の剣。二刀流である。


「次は受けねぇぞ!」


 レミリアですら魔法を使う際には魔法陣を展開して魔法を放つ工程がある。

 だが、さっきのアレには魔法陣と言う工程が無く、魔法その物を出現させて放って来た。

 その例外のせいで反応が遅れて吹き飛んだ。

 数秒経てばマナの自己再生能力で全回復する。


「八岐大蛇の首切り!」


 2本なので2激の攻撃で8つの斬撃を放って周囲に展開された魔法を切る。

 食うにしても出るタイミングが分からない。

 精霊魔法かも分からない。


「九頭龍の首切り!」


 9つの斬撃を十字架に向かって放つが、その1つ1つの斬撃に対しての結界が張られて防がれた。

 その隙に大量の魔法がレミリアから放たれたが、魔法で応戦していた。

 上から降ってくる魔法は、フラン、リマ達の戦いの場所は既になかった。

 だが、他の所があった。

 まぁ、有象無象の事なんて気にしている余裕なんてないし、無視だ。


「ケロベロスの首切り!」


 刀と剣を下から上へと振り上げ、3本の斬撃を放つ。

 方や赤き速激の斬撃、方や黒き対象を焼き切る斬撃、真ん中は赤黒色の少し大きめな斬撃。

 フランを正面から斬る事になるが、許して貰いたい。


『痛いよぉ』

「⋯⋯ッ!」


 だから、お前がフランの声を使うなぁ!

 リマ、私は体を仰け反らし、勢いを乗せてフランの頭へとぶつける。

 相手の方が何倍も硬くて、痛かった。

 ダメージも受けた。

 それでも、それでも言わないと行けない!


「出てけぇ! フランの中から出てけぇ! 起きろフラあああン!」

「アア」『死ねええ!』


 腕をクロスして刀と剣を盾のようにして放たれたレーザーに吹き飛ばされる。

 廃城の壁まで吹き飛ばされて、ズルズルと落ちる。

 流れ込んで来た記憶。

 それはきっと、フランが意図的に私に流してくれた記憶。



 双子の姉妹。

 フランのその姉だった。

 現在の帝国は実力主義。実力があるからどんな性格だろうが受け入れられ、逆になければどんな人でもゴミ。

 フランは膨大な魔力を持っていた。将来が優良視されていた。

 だが、フランはその魔力を操る事が出来なかった。

 失望された。

 両親からも失望された。

 その双子の妹、レミリアも同じような、フラン以上の魔力を有していたがフランがゴミだった事もあり、当然ゴミだと思われた。

 だが、違った。

 フランと違いレミリアは魔力を完璧な形で操れていた。

 フランよりも魔力が多く、フランよりも魔法の才能があり、フランよりも皆に期待され、フランよりも、フランよりも。

 全てが劣るフラン。しかし、レミリアはそんなフランを誰よりも大切にしていた。

 劣等感は抱いても憎しみは抱かなかった。

 だからだろうか、フランは処分されずに済んだ。

 いつしか、フランは無能な寄生虫ゴミ妹となり、レミリアは有能な最高戦力の姉となった。

 誰かもチヤホヤされるレミリア、誰からもゴミとして接して貰えなかったフラン。

 それでも、2人はとても仲が良かった。

 そんなある日の事、レミリアが帝国が去った。

 最高戦力、最強の帝国の財産であるレミリアが帝国の害虫の仲間になった。

 フランは連れて行って貰えなかった。

 結局、フランはレミリアに捨てられた。

 結局自分はゴミだった。

 誰にも必要とされず、誰にも頼りにされず、誰にも自分を自分として認めれくれなかった。

 最後の心の支えであった姉ですら。


 帝国はレミリアの事に酷く腹を立てた。

 当然だ。レミリアに頼りきった自称帝国の実力を振りかざし国力を上げたのだ。

 そんな帝国を実力主義帝国として居座る事が出来た最高の財産が消えたのだ。

 レミリアによって富みを得た両親は失望した。

 残されたのはゴミのみ。

 両親は死刑では無く、一生掛けても払う事の出来ない借金を負った。

 だが、豪遊していた両親が戻る事は出来なかった。

 レミリアが残した貯金でも長年遊んで暮らせる。

 そこで、選んだ道が


「この子を、この子を如何様にしても構いません。こんなゴミですが、騎士の士気を上げる事は可能でしょう。このゴミは物ですので」


 了承された。

 両親に罪は行かなかった。

 レミリアが犯した罪は全て、フランへと行ったのだ。

 そこから始まった数年間の地獄。

 そして、壊れたフランに用が無くなった帝国は最後に残酷な処刑法を選んだ。

 生きたまま産まれた時の姿で吊るされた。

 十字架の木に腕や足が巻き付けらる。

 巻き付けた場所には火が灯っており、手首や足首が焼けるような痛みが走る。

 下からも火が灯り炙られる。

 魔法で感度を上げられ、簡単に死なないように魔法で保護され。

 苦しみと痛みを味わいながらじっくりと焼かれる。

 住人から投げらる石、鉄の塊、剣、槍、痛みを与えらる物全て投げられた。

 魔法によって痛みしか感じ無い。

 全てが奪われた。レミリアに。全てが終わった。レミリアのせいで。憎い。憎い。

 頼りにしていた、唯一の心の支えのレミリアが、憎い。

 殺したい。殺すしかない。憎い。

 死ねない。住人こいつらを殺すまで、死ねない。


 最後にフランが残した言葉。


「全て、壊してやる」


 この世の全てを憎み、怨み、流す涙。

 決意する。この世の全てを壊す。

 そして、手に入れた力が、十字架の魔女としての力。


 帝国は滅んだ。生き残ったゴミ共。

 そこにゆっくりと現れたのは、悪魔よりも悪魔の笑みを浮かべる水色の髪をした、少女だった。

 残ったゴミを処分し、簡単に逝かせないようにこの世にアンデッドとして縛り付け、自分の味わった苦しみを、痛みを、憎しみを、全て感じて貰うようにした。

 ゴミを処分する際に空けたクレーターに水の精霊を宿らせて、湖を作った。

 大地の精霊を宿らせて森を作った

 これで、ここで起こった簡素な復讐劇は誰にも分かる事は無かった。


 フランに取ってイレギュラーがあるとしたら、ゴミのアンデッドであるスケルトンの一体に、変わった個体が居る事だった。

 そして、無機質な灰色の世界に光を取り戻させた、友の存在だった。


「⋯⋯クソッタレが」

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