第150話黒巫女召喚士と十字架の魔女その8


「ちょ、硬すぎて矢でダメージが与えられない。いや、硬すぎでしょ全く! 精霊も使えないし」

「しかも速いから避けるのも大変だな!」


 リクとエルフの女性がダークネスメアの攻撃を避けながら矢を放ったり剣を振るったりしている。

 しかし、剣の攻撃は本の少しダメージを与えられてもただの矢ではダメージは与えられていないようだった。


「お手伝い」

「する!」


 ダークネスメアの上空に2人の白と黒の影。

 黒い方は紅色の光を腕、髪、角、耳に付けていた。

 ムニンとオレンである。

 2人は回転してダークネスメアを切り付ける。

【真鬼】に寄ってSTRがかなり上がりかなりのダメージをダークネスメアに蓄積させる。


「矢の交換を!」

「ええ、助かるわ!」


 インベントリを操作して矢筒の中身を変化させる。

 ただのミスリルの矢からミスリルの貫通矢に変化させた。

 軽く、貫く事に強化された矢を弓に掛け、引き、放つ。

 ダークネスメアの皮膚に矢が刺さり、懐にリクが入り込み腹を切り上げる。

 双子姉妹はSTRとAGIの数値に依って大ジャンプを使い天井まで行き、天井に足を着けて力を加えて落下する。

 加速して落下するのに合わせて短剣を構える。


「「双天日海孤そうてんみひこ流、双日天武」」


 回転を何回も掛け、その遠心力を全て短剣に乗せ、ダークネスメアに切り付ける。


「「イサちゃん!」」

「ガルアアア!」


 暗黒のブレスがダークネスメアの横腹に激突し、ダークネスメアは飛ばないように足に力と体重を加え耐える。

 だが、反対の方向からも魔法が飛んで来る。


「カルちゃん! 水氷ジェット」

「フォォン!」


 砲台なったカルが大砲をダークネスメアに向け、メルの指示に従い大砲から高速の水氷を放った。

 反対側からの激しい衝撃により足の力が緩んだ。

 それが、悪かった。

 イサのブレスにより入口付近の壁まで吹き飛んだのだ。

 HPが半分切ったダークネスメアはその体積をまして行った。

 半透明の闇色に包まれ、空中にぷかぷか浮いて行く。


「は! なんかやな感じがする。イサちゃんもう一度あれにブレス! なんか絶対あるから!」

「が、ガル!」


 しかし、イサのブレスは発動しなかった。

 矢を放っても途中で落下する。


「あぁ! 強制イベント!」


 ムニンが頭を抱えるのをよそにダークネスメアはもう片方のダークネスメアと合体し、大きな球体に2つのダークネスメアは包み込まれる。


「ムニン、オレン!」

「サエの姉御!」

「どうしましたか?」

「いや、絶対なんかあると思って合流しようと思ってな。その為のタクシー役」

「成程。リクさん達も行きましょう」

「「ッ! あ、ああ」」


 娘であろう人にプレイヤーネームで呼ばれて一瞬ピクっとした2人。

 その姿に疑問を浮かべる3人の女性。

 4人ともサエの闇に座り皆の下へと向かう。


「これ、便利だな」


 そんなリクの呟きと共にダークネスメアの球体は大きさと輝きを増す。


 ◇


 私はマナちゃんと撃ち合っているフランちゃんへと接近して刀を振るうが、結界に寄って防がれ、落下する。


「切れた!」


 師匠から貰った妖術が切れた。

 大丈夫、まだ霊符は残っている。


「主様」

「ネマちゃん! スケルトンは!」

「逝きました。私の半分あまり使って無いようですね。アレで戦いましょう」


 ネマちゃんが私を抱えてゆっくりと地面に着地する。


「あれ?」

「はい。全力で、行きましょう」


 ネマちゃんはレイシアさんとの特訓、私がログアウトしている間もずっと特訓していて技術やその他諸々の経験が高い。

 そんなネマちゃんが本気で行こうと言っている。


『『賛成』』


 モナ、ナミも賛成している。

 なら、私が断る理由は無い。


「分かった。行こうネマちゃん」


 サトシさんから見て、練習したこの方法。

 そのせいで手に入れた称号【変質者】の効果もあって完璧な物に成っている。

 称号入手の条件をクリアして手に入れたスキル、【合体フュージョン】。


「ネマちゃん!」

「主様!」


「「【合体フュージョン】!」」


 黒巫女の服、そして私の細胞をネマちゃんが包み込んで行く。

 呑み込まれ、呑み込んで行く真逆の感覚が私の身を包む。

 私がネマちゃんを包み、ネマちゃんが私を包む、そして最後にシュラが私達の鎧となり武器となる。

 刀が消えて新たな刀が生成され、私の顔には狐の仮面が装着され、巫女の服におまけ程度の軽装が装着される。

 頭には猫耳が、顔の横には悪魔としての耳が、黒巫女の服から伸びる2本の尻尾。

 長いストレートの髪は黒から灰色に、そして白に変わり、赤い瞳はより赤く光る眼。

 伸びる爪、肌はさらに白く、草履はより黒くなる。

 腰にある1本の大太刀をゆっくりと抜く。


「さぁ、行こうか」


 混沌悪魔公カオスデーモンロードとなった。

 背中から翼を広げて飛び立つ。


「ギャラー」

「ありがとうマナ、休んでて」

「ギャラ!」


 マナちゃんは少し回復したら戻って来るとその目で訴えて来た。

 サトシさんもまだ反動で動けないようだし、グリムちゃんの羽も治ってない。

 他のプレイヤー達はフランちゃんに接近しているけど、すぐに魔法で飛ばされている。


「あれ? モフリちゃん。何、その格好?」

「ちょっとした変化だよ」

「それに声も変わった?」


 まぁ、今の状態の声って凄いからね。

 素の私の声、少し低いモナの声、トーンは変わらないが透き通るような声のナミ、そしてネマちゃんの声、それを混ぜた声だからね。


「飛鳥の太刀」


 翼を広げ、高速飛行でフランちゃんの背後へと回る。


「え?」


 ザシ、と十字架を浅くだが切り裂く。

 その現状に驚愕を露わにするフランちゃん。


「速いね」

「まぁね」


 この姿なら他にも違う姿があるが、やはりシンプルなのが1番良いね。

 今の私はモナとネマちゃんの剣術、ナミとネマちゃんの計算力、そして私の性能がある。

 ぶっちゃけ私要らない子だけど、私がそれで寝たりするとモナかナミ片方もつられて眠ってしまうのだ。

 つまり、この複数の人格が同時に備わる状況を生み出すのに、私と言う起点と言うか柱と言うか、それが、必要なのだ。


「【エクスプローラー】」


 上空に素早く飛びフランちゃんの背後へと高速で回りレーザーの範囲外に出る。


「ほんと、速いなぁ【ムーンホース】」


 魔法で顕現した月が現れて、そこからレーザーのような光が一直線に私に向かって降り注ぐ。


 大太刀を天井に掲げ、両手で持ち、体勢を一直線にする。

 レーザーのタイミングと合わせてから大太刀を振るう。


「月割れの太刀」


 そして、ゆっくりと振り下ろす。

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