告白 ~クレーンゲームとプリクラ~
第29話 岩橋さんが三年の先輩に告られた!?
そんな日々が続き、岩橋さんはすっかり由美ちゃんの友達グループ以外のクラスの女子にも馴染み、その可愛さから三年生に告白されたとかいう噂も耳に入ってきた。
「おい明男、お前このままで良いんかよ?」
ある日、弁当を食べながら和彦が俺に詰め寄った。もちろん岩橋さんの事だろう。良いわけ無いだろ。でも、しょうがないじゃんかよ。それが岩橋さんの為なんだからよ。
俺は自分の気持ちを抑える事で岩橋さんが幸せになれるのなら……という中二病患者にありがちな自己犠牲の精神に酔っていたのかもしれない。
「まあ、お前が良いんなら良いんだけどな」
和彦が憮然として言い、黙り込んだ俺が岩橋さんの方に目をやると、岩橋さんは楽しそうに女子のグループと弁当を食べていた。
*
俺と岩橋さんが一緒に弁当を食べる事や、一緒に帰る事が無くなっても登校するのは変わらず一緒だった。岩橋さんが律儀にも俺を待っていてくれるからだ。正直なところ俺はそれが凄く嬉しかった。
「学校に行くのがとても楽しくなったわ。これも加藤君のおかげね」
突然岩橋さんがそんな事を言い出した。これってフラグが立ったのか? 喜んだ俺だったが、岩橋さんはそんな俺をどん底に突き落とす言葉を口にした。
「私、告白されたんだ。三年の先輩に」
噂は本当だったんだ……思考能力を失ってしまった俺は本心とは真逆の事を口走ってしまった。
「そっか。良かったじゃん」
岩橋さんがどんな顔をしたのかはわからない。顔なんてとても見られなかったからな。その後、学校に着くまでの記憶は全く無い。岩橋さんとの通学時間は俺にとって至福の時間の筈なのに……
「おい明男、何やってんだよ。早く着替えないと文句言われるぞ」
和彦の声で俺は我に返った。どうやらずっと惚けていた様だ。次は体育の時間なので体操着に着替えるのだが、男子が先に着替え、女子はその後で男子を追い出してから着替える事になっているので、早く着替えないと女子に怒られるというわけだ。さっさと着替えを済ませ、教室を出ると、廊下で岩橋さんと目が合った様な気がした。
今日の体育は体育館でバスケットボール。バスケとは言っても授業なのでドリブルとかパスとかの練習ばっかりで、面白くも何とも無い。もっとも試合形式だったとしても俺には活躍の場なんて無いんだけどな。
やる気も起こらずだらだらやっていると、ぎこちない動きでドリブルをしている岩橋さんの姿が目に入った。体操着からスラリと伸びる岩橋さんの足はとても綺麗だった。
昼休みに和彦と由美ちゃん、そして俺の三人で弁当を食べようとすると、弁当の包みを手にした岩橋さんがおずおずと声をかけてきた。
「一緒にお弁当、久し振りに良いかな?」
断る理由など何一つ無い。でも、あの綺麗な足は三年の先輩の物になっちゃうんだよなぁ。そう思うと涙が出そうだ。まさか三年の先輩に先を越されるとはな。これは全くの計算外だった。
まあ、告白する勇気も無く、『岩橋さんの為だ』という名目で先延ばしにしていた情けない俺に天が与えた報いってヤツなんだろうな。
「そういえば、三年の先輩に告白されたって言ってたよね」
つい言ってしまった。バカか俺は……うん、バカだな。
自己嫌悪に陥る俺に岩橋さんは恥ずかしそうに言った。
「気になる?」
それはもうこの上なく気になるし、聞きたくもあるけど聞きたくもない。きっと俺は酷い顔をしていただろう。心が闇に包まれそうな俺の耳に岩橋さんの言葉が届いた。
「断ったよ」
その言葉で俺の心の闇は一瞬にして吹き飛んだ。
「だって、あの先輩、私の事何も知らないのに『好きだ』なんて言うのよ。女の子を見た目でしか見てないのね、きっと」
岩橋さんは憤慨した様に言った。そして少し俯くと、上目遣いで俺を見ながら言った。
「私は彼氏にするなら、ちゃんと私の事を知ってくれた上で好きだって言ってくれる人が良いな」
これって、俺に告白して欲しいって事なのか? ふと和彦と由美ちゃんを見ると、思いっきりニヤニヤしてやがる。やっぱりそうだよな。そうだ、岩橋さんは俺の告白を待ってくれてるんだ!
しかし心の闇は晴れたものの、俺の胸は少し複雑だった。
確かに俺は内気な故に友達がいなかった岩橋さんと子猫の一件で友達となり、紆余曲折を経て岩橋さんの友達作りに貢献した。しかしそれは岩橋さんの為にした事だって胸を張って言えるのか? 単に岩橋さんに髪を上げたらかわいいんじゃないかという可能性を見出した俺の下心から起こした行動でしか無いんだろ? 岩橋さんの言う『見た目でしか判断しない先輩』とやらと同じ穴の狢じゃないか。
そんな思いが心の中でドス黒く渦を巻いていた。それを悟られたく無くて、バカな俺はこんなつまらない事を口走ってしまった。
「体育の時見たけど、岩橋さんって綺麗な足してるよね。制服のスカートで隠してるのはもったいないよ」
うわっ、キモい。コレじゃ俺、変質者みたいじゃないか。何でよりにもよってこんなバカな事を言ってしまったんだ……そう思ったのは確かではあるが、口に出して本人に言う事じゃ無いだろ。
思いっきり後悔の念に駆られ、その場から消え去りたいと本気で思う俺。岩橋さんもいきなり妙な事を言われて驚いたと言うか、呆れた事だろう。
「そ、そう? どうもありがとう」
岩橋さんは戸惑いながらも律儀にお礼の言葉で応えてくれた。良かった良かった……のか? 俺は生まれて初めて本気で思った。「タイムリープ能力が欲しい」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます