ゲームセンターでの珍事

第24話 ゲームセンターに行こう!

 ある日のこと、授業が終わって帰ろうとする俺と和彦のところに由美ちゃんがやって来た。


「カズ君、今日は寄り道して帰らない?」


 突然言い出した由美ちゃんの横には岩橋さんの姿があった。もちろん俺は心の中でガッツポーズを決めたのは言うまでもなかろう。寄り道サイコー! どこへだってお付き合いしちゃいますとも。和彦、お前まさか断ったりはしないよな? 断ったら泣くぞ。

 なんて思ったりしたんだが、和彦が由美ちゃんの申し出を断るワケなど無く、当然の様に答えた。


「おう、ドコ行くんだ?」


 おいおい和彦、お前はいったい何を言っているんだ? 別にドコだって良いじゃないか。大事なのは『ドコに行くか』なんてコトじゃ無い。『誰と行くか』だろうが!

 などと俺が思っていると、由美ちゃんは素晴らしい事を言ってくれた。


「うんっとね、久しぶりにカズ君とプリクラ撮りたいなって」


 和彦と由美ちゃんがプリクラを撮る。となれば当然、一緒に行く俺と岩橋さんもプリクラを撮る流れに……


 ぐぅれいとおぉぉ!! まあ、二人で撮れるかどうかはわからないが、四人で撮るぐらいは出来るだろう。


「そっか。じゃあ行くか」


 和彦はあっさり言うと俺の肩をポンっと叩いて歩き出した。これって、俺に頑張れって言ってくれてるんだよな。


「うん、行こっ」


 由美ちゃんは和彦の腕にしがみ付きざまに俺の顔を見て意味ありげに微笑んだ。もしかして由美ちゃんと和彦、俺の為に……? ありがとう由美ちゃん、和彦! このチャンスを逃しはしないぞ。


「岩橋さん、じゃあ行こうか」


 俺は言うと岩橋さんの手を……さすがに取る根性などあるワケが無い。和彦と由美ちゃんを追いかける様に俺と岩橋さんは並んで歩き出した。背中に野郎共の羨ましそうな視線を感じながら。


          *


 言うまでもないだろうがプリクラの機械はゲームセンターに置いてある。俺達が来たのはもちろん岩橋さんにプレゼントしたネコのチャームを取ったゲームセンターだ。

 このゲームセンター、お洒落に言うとアミューズメント施設は駅前のショッピングモール内にある。今まで俺にとってプリクラコーナーは忌み嫌っていた場所だった。だって、女の子のグループやカップルばっかりで、中には『キスプリ』とか『チュープリ』とか言ってあの機械の中でキスなんぞしてやがる羨ま……けしからん連中まで居やがるらしいからな。


 しかし今日の俺は違う。胸を張って堂々とプリクラコーナーを闊歩し、堪能させてもらうぜ!


 まずは和彦と由美ちゃんが二人で機械に入り、カーテンを閉めた。まさかキスプリなんか撮らないよな。俺だけだったらともかく、岩橋さんも居るんだぞ。


 二人が取り終えて出て来るまでの間は岩橋さんと二人きりだ。


 ――俺達も二人で撮ろうよ――


 言いたいが言えない。ええい、俺の根性無し! すると撮り終わったのか、由美ちゃんがカーテンを少し開けて手招きした。続いて和彦の声が聞えた。


「お前等も来いよ。一緒に撮ろうぜ」


 待ってた。その言葉を俺は待ってたんだよ! 喜び勇んで俺は足を一歩踏み出そうとしたが、岩橋さんは恥ずかしそうに躊躇していた。


 マジかよ! さっき迂闊に『俺達も二人で撮ろうよ』なんて言ってた日には取り返しのつかない事態に陥るところだったじゃないか! 危ない危ない……


「沙織ちゃん、どうしたの? 早くおいでよ」


 由美ちゃんが声をかけると岩橋さんは緊張しながらも動き出した。


「俺、プリクラなんか撮るの初めてだわ」


 俺がさりげなくアピールすると岩橋さんは恥ずかしそうに答えた。


「実は私もこの間、みんなと初めて撮ったんだけど、男の子と一緒に撮るのは初めて……」


 そうか、それは光栄だ。もっとも和彦と由美ちゃんも一緒なんだけどな。とは言え二人のおかげで岩橋さんとプリクラを撮れる訳なんだから感謝しないとな。


 まずは前列に由美ちゃんと岩橋さんが並び、後ろに俺と和彦が並んだ。由美ちゃんが慣れた手付きで操作すると機械の合成音声の後、フラッシュが光った。


「次はポジション変えて撮りましょうよ」


 由美ちゃんの提案で和彦と由美ちゃんが並び、その前に俺と岩橋さんが屈む感じで撮る事になったのだが


「ほら、加藤君、もっと沙織ちゃんに引っ付いて!」


 由美ちゃんからダメ出しが出た。俺的には十分近くに居るつもりだったのだが、由美ちゃんは腕を伸ばして俺をグイっと岩橋さんの方に引き付けた。


 肩と肩が触れるほど岩橋さんに引っ付くと、横から凄く良い匂いがしてきた。岩橋さんの匂いだ。俺の心臓がバクバクしてるのを悟られてないだろうな。チラッと岩橋さんの顔を見ると、恥ずかしいのか緊張しているのか頬が少しばかり、いや、かなり赤くなっている様な気がする。


「おっけー。じゃあ加藤君、そのボタン押して」


 由美ちゃんの声で我に返った俺はカメラに目線を向け、撮影ボタンを押した。まさか岩橋さんの方を見ながら撮る訳にはいかないからな。俺が岩橋さんを見てた物的証拠が残っちまったら恥ずかしい事この上無いぞ。



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