夏休みまでにしておかなければならない事

第13話 和彦が立ててくれた素晴らしい企画

 梅雨が明け、気温も上がり、だんだん夏らしくなってきた。そう言えば、もうすぐプールの授業も始まるな。岩橋さんの水着姿が楽しみで、待ち遠しいったらありゃぁしないぜ。


 夏と言えばお楽しみの夏休みがある訳だが、その前にやっておかなければならない事が一つある。


 期末テスト? ああ、そんなモンもあるな。だが、そんな事よりも遥かに大事な事があるだろ? そう、彼女や彼氏を作る事だ。夏休みをハッピーに過ごす為にな。もちろん既に彼女持ちの和彦にはどうでも良い話なのだが、そこは和彦、彼女のいない男連中(俺も含む)の為に一肌脱ごうと企画を立ててくれた。和彦の友達(もちろん俺も含む)と由美ちゃんの友達の数を合わせて遊びに行こうという素晴らしい企画で、由美ちゃんの友達には当然の様に岩橋さんも含まれている。


 これには和彦の友達(俺以外)が目の色を変えて参加表明をしたが、さすがにそんな大人数では動きが取り辛い。結果として和彦と由美ちゃん、由美ちゃんの友達三人と和彦の友達三人、そして岩橋さんと俺の総勢十名で、映画の世界をモチーフにした大人気のテーマパーク『グローバルスタジオジャパン』通称『GSJ』に行く事が決定した。もちろん由美ちゃんの友達も彼氏がいないとは思えないぐらいかわいい子ばかりだ。もっとも俺は岩橋さん一筋だから関係無いがな。ただ、他の三人の男連中が俺を出し抜いて岩橋さんに手を出そうとしないかが気になるところではあるが。


 まあ、三人共クラスメイトではあるが、岩橋さんの素顔(って言うか目)を見た事があるのは俺だけだ。三人共岩橋さんが実は美少女だとは知らない。だから大丈夫だとは思うんだけどな。


          *

 

 そして迎えた日曜日、集合は学校の近くの駅だ。あれっ、俺の家から駅に行くという事は、岩橋さんのマンションの前を通る事になるよな。岩橋さん、俺の事を待っててくれたりして。

 なんて例によって都合の良い妄想に浸りながら歩いていると、岩橋さんのマンションのエントランスに人影が見えた。清楚な白いワンピースにツバの広い白い帽子をかぶった女の子だ。ここから見ると、夏アニメのワンシーンから飛び出したヒロインの様に見える。あれってもしかして……


「加藤君、おはよう」


 やっぱり岩橋さんだ! 何と言う僥倖! 集合場所に一緒に現れる、これは大きなアドバンテージだ。俺以外の三人は彼女が欲しいから今日のイベントに参加するんだ、あえて危ない橋を渡る事はしないだろう。しかも、岩橋さんは嬉しい事を言ってくれた。


「今日は楽しみだけど、話した事が無い男子も来るから……やっぱり加藤君が一緒じゃないと不安だもの」


 俺の頭に『激熱』の二文字が浮かんだ。岩橋さんの言葉に色が付いていたとすれば金色だったに違い無い。だが、金セリフでもあっさり外れる時があるからなぁ。いや、あくまでゲームセンターで打ったパチンコの話でしか無いが。


「大丈夫だよ。じゃあ行こうか」


 俺は岩橋さんを安心させる様に言ったが、確かに俺だって、一人で集合場所の駅に着いた時、まだ和彦の友達三人と由美ちゃんの友達三人しか来てなかったら、居心地が悪いだろうな。もちろん和彦は俺が少しは話を出来る友達を選んでくれてるんだけども……なんて思ったりもした。


 俺と岩橋さんが集合場所の駅に着くと、そこには既に和彦と由美ちゃんを始めとする参加メンバーが揃っていた。言っておくが、俺と岩橋さんが遅刻したんじゃ無いぞ。ちなみに今は集合時間の十分程前だ。コイツ等(和彦と由美ちゃんを除く)どれだけ気合入ってんだよ……って、藤崎さんも居るな。ってコトは、今日来ている女の子はこの間岩橋さんがカラオケに行ったメンバーなんだろうか。


「おっ、来た来た」


 和彦の声に、既に集まっていた全員の視線が俺と岩橋さんに向けられた。正直なところ俺と岩橋さんが一緒に来た事にみんなが驚くと思っていたのだが、そんな様子は一切無かった。まあ、毎日一緒に登校してるんだから見慣れてるんだろうな。


「悪い、待たせちまったか?」


「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」


 俺と岩橋さんの口から同時に似た様な詫びの言葉が出た。もう一度言っておくが、まだ集合時間には十分程早い。だがまあ、待たせたのは事実だからな。


 それはそれとして、普段制服でしか見た事の無いみんなの私服姿は新鮮だ。男はみんなジーンズにTシャツと言う俺と似た様な姿だが、女子はスカートだったりショートパンツスタイルだったりと、それぞれ個性を出している。もっとも俺の中でのベストドレッサー賞は岩橋さんに決まってるんだがな。


 こういう場では一度男女に別れるのが定石だ。もちろん本当はずっと岩橋さんと一緒に居たいのだが、和彦以外の男友達とも喋っとかないとな。岩橋さんも「同性に好かれる人間になりたい」って言ってた事だし、俺も和彦以外の男とも仲良くならないとな。


 砂を噛む思いで俺は男子の輪に入ると、岩橋さんは笑顔で女子の輪へと入っていった。




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