第36話 輝玉星系、出雲


 安定宙域を封鎖していた皇都防衛艦隊の駆逐艦群を簡単に撃破した第1艦隊われわれは、つぎに迎撃に現れた旧式戦艦を主体とする皇都防衛艦隊を文字通り殲滅した。その後第1艦隊われわれは増速しつつ旧皇都惑星出雲いずもに向かった。


 出雲から約150万キロの距離にあるラグランジュ点L1、L2には大型の人工防御惑星や工場人工惑星などが多数存在している。防御惑星の無力化にあたり工場惑星に被害を極力及ぼしたくはないため、今回はワンセブンが制御下に置いた広域探査システムを使い、見えない敵に対して防御惑星が全力攻撃を仕掛けるよう仕向けた。この結果、防御惑星に配備されていた高価な自律型長距離誘導弾のほとんどを消費させることができた。残弾が少数ならこちらの40ミリ実体弾砲で撃ち落とすことは簡単だ。


 われわれ第1艦隊は防御惑星群を破壊することなく、L1、L2から距離をとりながら惑星出雲に接近していった。



 次の撃破目標は惑星出雲を囲む防御人工衛星群だ。静止衛星軌道上の大型なものから、低高度の衛星軌道を周回している比較的小型のものまで多数の防御人工衛星が出雲を守っている。


 排除するのは一見手間ではあるが、純軍事的な人工衛星のように排除しても問題ない物、軌道エレベーターのように排除は控えるべきものの選別をすれば、ただの据えもの切りなうえ、個々の衛星は距離もあるため周辺を気にせず撃破可能なので脅威というほどでもない。ただ、静止衛星軌道上の大型衛星や軌道エレベーターには皇都防衛隊の攻撃機がそれなりの数配備されているので、先にこの攻撃機の排除が必要となる。



 第一段階として、防御衛星に対しやや遠距離からの砲撃を開始する。


『射撃目標、敵防御衛星1番』


『各艦、射撃開始、……』


『射撃目標、敵防御衛星2番』


『各艦、射撃開始、……』


 ……。


 40ミリ実体砲弾が攻撃機配備衛星に吸い込まれて行く。


『敵防御衛星反撃開始しました』


 広域探査システムに連動した攻撃衛星からの実体弾が虚空に向け発射されて行く。攻撃衛星独自の観測システムと広域探査システムとのデータの相違は瞬時に書き換えられて行くため、警告などは発生しない。このデータ改変により、広域探査システムに依存する防御衛星側の遠距離攻撃は無力化された。


 ただ衛星の近接防御火器は自前の近距離観測システムと直結した射撃管制を行っているため、こういった欺瞞ぎまんは通用しない。したがって接近する砲弾の迎撃は可能である。とはいえ飽和攻撃を受ければ迎撃網は当然突破される。


 タイミング的に無力化前に防御衛星から発進した攻撃機と軌道エレベーター配備の攻撃機が五月雨式さみだれしきにわがほうに接近するが、発進後ただちにこちらに正確な位置情報を把握されているわけで、攻撃機は機載誘導弾をわが方に向けて発射する前に、予測機位を覆うように発射された40ミリ実体砲弾の雲の中に回避運動を取りながらも自ら突っ込んでいき、次々に撃ち落されて行った。


 このようにして、射界に入った防御衛星や攻撃機を撃ち落していき、われわれが、航宙軍本部を主砲の射界におさめる静止衛星軌道に入った時点において、低軌道防御衛星のうち最大の一基を除いてすべての防御衛星と軌道エレベーターを無力化することができた。



「反乱軍に告ぐ。直ちに降伏せよ! 勧告に従わない場合、10分後に最後の防御衛星を破壊する。この防御衛星を破壊した場合多くの破片が出雲を襲う可能性が有る。その際の責任は反乱軍にある」


 ……。


 予想通り何も反応ないまま、10分が経過した。


『最後の防御衛星を破壊します。40ミリ実体弾斉射5秒。射撃開始。主砲、弾種徹甲、1番発射、2番発射』


『……、1番、2番、着弾。防御衛星、撃破しました』


 無数の40ミリ砲弾の飽和攻撃の間を縫って放たれた2発の20センチ徹甲弾が防御衛星を撃ち抜いた。


 破壊された防御衛星の破片が、旧皇都惑星出雲に落下していく。ほとんどの破片は大気の中で流れ星となって燃え尽きてしまったが、たった一つの大型の破片というより残骸が大気で燃え尽きることなく地表に達した。


 その残骸が大気との圧縮熱で白く発光しながら高速で落下した先には、赤道直下の孤島があった。この孤島には、政治犯収容所が建設されており、落下した防衛衛星の残骸が直撃した収容所はクレーターだけを残し跡形もなく吹き飛んでしまった。


 その収容所に収容中の主な政治犯は、航宙軍本部のクーデター時にクーデター派によって逮捕されていた閣僚、政治家、官僚たちだった。要は、この事故・・によって、これまでの皇国の指導者連中がまとめて消えてなくなったことになる。



 さすがにここからの話は吉田中尉には、聞かせられないので、ワンセブンと俺だけの会話だ。


「同じ、皇国人。殺さなければならなかったのか?」


『もちろん助けることは可能でしたが、その場合、新皇国の今後の運営に大きな禍根を残すことが明らかだったため、このような処置・・を行いました。村田の名を百年残すか、千年残すかの違いが出ます。われわれは、王道を歩んでいるわけではありません。覇道はどうを歩む以上犠牲をかえりみる必要はありません』


「そうだったな」


反乱軍こうちゅうぐん幹部については逮捕後、軍法を適用しますので、処置しょけいは簡単です』


「今回死んだ連中に恨まれるから、そこだけはきっちりな」


『軍法会議のメンバーは、こちらで選任しておきましたので、確実に処置しょけいできます。処理効率を上げるため、多少一般人の犠牲は出ますが、その程度では特に将来問題は起きないようですので、航宙軍本部を直接砲撃しましょうか?』


「それはやめておこう。少数であれこれ以上無辜むこの人を巻き込む必要はないだろう」


『了解しました。それでは、予定通り降伏勧告を行います。

 話は戻りますが、先程破壊した収容所に収容されていた者のうち、閣僚、官僚を含む3割は何らかの形で隣国に汚染されていました。残りの7割についても瑕疵かしのない人物はその1割も満たしません』


「100人近くは無辜むこだったわけか。それでも少しは気が楽になった。ありがとう」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る