第34話 皇都防衛艦隊


 皇国内各地に散らばっていた村田家ゆかりの連中も俺の指示どおり徐々に乙姫に結集しつつある。俺の代ではあまり積極的にはかかわりを持たなかったが、代々のつながりもあり、信用はおける連中だ。


 この段階でうちの連中が表の世界に出てしまうと、いらぬ反感を買うということで、あえて人材登用はしていないし、そのことは皆に含めている。いまは乙姫で英気を養っていてもらえばそれでいい。


 惑星出雲をクーデター勢力から解放したあかつきには、依然皇国の経済の中心となっている出雲の経済関係を含めた完全掌握のため彼らを使おうと考えている。



 ワンセブンマイナーを全艦装備し終わった機動艦隊である第3艦隊と陸戦隊の各艦は、われわれ瑞穂皇国の政権を認めず、出雲のクーデター政権にくみする星系を解放・・するために竜宮星系を後にした。


 そういった星系の駐留艦隊に対しては、抵抗せず投降すれば罪は問わないと伝えての過大戦力による威圧である。出雲を牛耳る北条家によほどの縁故をもたない限り、艦隊が赴いた先の星系政府は実戦に及ぶまでもなく簡単に降伏していった。また、抵抗した星系も駐留艦隊がいとも簡単に撃破されるに及び、降伏している。第3艦隊と陸戦隊には最終的には、スラビア共和国との境界宙域あたりまで進出してもらう予定だ。



 第3艦隊、陸戦隊の活躍の中、TUKUBAツクバ型2番艦IKOMAイコマ、3番艦KURAMAクラマが竣工した。二艦は俺の乗るTUKUBAツクバと第1艦隊を編制し、短期間ではあるが操艦訓練、射撃訓練、艦隊機動訓練などを行い、いよいよ旧皇都惑星出雲の光輝星系へ進出することとなった。訓練といっても、基本部分は、ワンセブンマイナーが操艦から射撃まで全てを処理するため、二艦とも艦長を含めても数名しかいない搭乗員にワンセブンマイナーに慣れてもらうだけの訓練である。




『瑞穂皇国航宙軍第1艦隊、出撃します』


TUKUBAツクバ、後退微速」


 操艦そのものはすでにワンセブンに任せているため、吉田中尉が艦の状況を確認し報告する。今回の出撃では旗艦TUKUBAツクバには俺と吉田中尉しか乗艦していない。山田少佐は乙姫の研究所に詰めている。


 新しく作られたURASIMAウラシマの大型艦桟橋に係留されていた三艦がゆっくり後退し、方向転換後、天頂方向に設定したジャンプ宙域に向けて前進を開始した。



『ジャンプ目標、光輝星系指定座標。艦隊各艦本艦に同期・・します』


「全艦同期確認」


 全艦ワンセブン相当の中央演算装置を装備した艦隊は、新機能として艦隊同期機能が使用可能になっている。もちろん先に出撃していった遊撃艦隊や第3艦隊でもこの機能が使用できる。


 艦隊同期機能とはどういったものかというと、艦隊全艦が旗艦と同期して超空間ジャンプも行えば射撃も行うというものだ。また、大きな艦隊だけでなく、戦隊単位やそれ以下の戦術単位でも、適当な旗艦のもと、艦隊同期機能を設定することもできる。


 もちろんこういった試みは難易度の格段に高い同期ジャンプは別としても、旧皇国も含め列強各国で試みられてはいたが、旗艦の中央演算装置の負荷が異常に高いため、われわれ瑞穂皇国を除き実戦レベルにまで昇華されたシステムを保有する国は存在しない。



『艦隊、長距離同期ジャンプ60秒前、58、57、……、3、2、1、ジャンプ』


 一瞬意識が切り替わったような感覚の後、


『ジャンプ成功。艦隊各艦正常です。直ちに光輝星系広域探査システムの掌握をはかります。……、広域探査システム掌握完了』


「広域探査システムデータ送受信確認」


 いつも思うが、これもひどいチートだよな。


 目の前のスクリーンにはいままでとは違った星々が映され、隣のスクリーンに映る3次元星系マップも様相ようそうががらりと変わり白い紡錘型が三つで三角形を作った第1艦隊の各艦を示すマークを中心に、その近くに安定宙域を示す薄緑の区域が見えている。その区域を囲むように点在している赤いひし形のマークが防衛側の安定宙域封鎖艦だ。いずれも防衛艦隊所属か、航宙軍所属艦なのだろうが軽巡以下の旧式艦であることは変わらない。今頃背後に現れた我々に驚いているだろう。


『これより、封鎖艦を各個に排除・・していきます』


『目標、安定宙域封鎖艦群。使用火器、40ミリ実体弾砲』


「40ミリ実体弾砲使用許可。目標、敵封鎖艦群、艦隊同期確認」


 40ミリ実体弾砲は敵誘導弾および敵攻撃機の迎撃用として実験部の倉庫に眠っていたものを当初X-71に二門ほど装備していたものだが、ワンセブンを実装し、その後の改修でX-71がTUKUBAツクバとして生まれ変わったおり、艦の軸線、主砲に平行に正六角形になるよう艦首側6門、艦尾側6門、計12門まで増強している。なお、40ミリ実体弾砲は主砲と違い、若干ではあるが、砲身の方向を個別に変えることができる。


 40ミリ実体弾砲の能力であるが、鍛造タングステンカーバイド製の弾芯をもつ砲弾を毎秒12発打ち出すレールガンで、装甲の薄い軽巡や装甲をそもそも持たない駆逐艦、輸送船に対し有効な攻撃手段となる。


 40ミリ実体弾砲は艦の軸線に平行に配置されているうえ射界が限られるため艦の側方へは対応できないが、長距離推測射撃がワンセブンにより可能となった今、よほどのことがなければ誘導弾や攻撃機が艦の側面に回り込むような状況は発生しないため、対誘導弾、対攻撃機戦闘においても抜群の性能を誇ると考えている。


『艦隊同期照準にて射撃開始。……、射撃終了』


「同期射撃終了。敵封鎖艦群、全艦撃破確認」


 射撃時間約5秒、各艦とも12門の40ミリ砲のうち敵艦を捉えた艦首側6門を使用し、一艦当たり360発、三艦合計1080発の40ミリ砲弾が安定宙域封鎖中の6隻の駆逐艦に吸い込まれて行き、三隻は爆沈。三隻は機関機能喪失により漂流状態となった。





[補足説明]

対艦攻撃機も搭載推進剤で飛行するため、遠距離から乱数回避を行うとワンセブンの長距離推測射撃から逃れることが理論上可能だが、攻撃開始時までに推進剤を多用した場合、攻撃がたとえ成功し、離脱できたとしても帰還不能となる可能性が高まる。

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