第11話 召喚命令
X-71は敵強襲揚陸艦を2隻とも沈め、敵艦隊を追い払い作戦目標を100パーセント達成したわけだが、敵艦隊は撃沈された友軍艦を顧みることなく撤退していった。
「撃沈した2隻の強襲揚陸艦には相当数の人員が乗っていたんじゃないか? 敵艦隊の連中は見向きもせずにいってしまったようだが、生存者はいないのか?」
『強襲揚陸艦に乗艦していた降下要員はユーグの兵隊たちだったため見捨てたのでしょう。
とはいえ、彼らが適切な放射線防護服を着用していた可能性はかなり低いため、仮に爆沈時には生き残っていたとしても対消滅反応で発生した高強度放射線に耐えることができた者はいなかったでしょう。万が一生存者がいたとしても、われわれには彼らが見捨てた生存者を救助する方法はありませんから対処不能です』
「見捨てるしかないわけだな」
『はい』
非情のようだがこればかりは仕方がない。勝手に他国に侵入した挙句、返り討ちにあった。ただそれだけのことだ。まあ、沈んだ
『艦長にご報告があります』
「なんだ?」
『今回の一連の戦果について、情報を皇国主要メディアに公開しました。もちろん対消滅弾と短距離ジャンプについては伏せています。これで艦長は竜宮星系を救った英雄です。
それと、もう一点。われわれの敵性艦隊撃退を報道で知った乙姫の開拓コロニー行政府より感謝の通信文が届いており、これも公開しました』
「手回しがいいな」
X-71は、今やもぬけの殻となっている
俺が指令室の二人に対し「お疲れさん」と言ったところ、
「お疲れさまでした」と、平然とした山田技術大尉とは正反対に、興奮した吉田少尉が、
「あれが、実戦。実感はなかったものの実戦に参加したことは事実。これでわたしも実戦経験者です。艦長、今回の戦役の従軍記章を貰えますよね?」
「まず、今回は戦役にはならない。おそらく不幸な事故として処理されるんじゃないか? 例えば演習中に手違いでわが国の領域にジャンプアウトしてしまったとか。それを皇国が撃退した。そんなふうに最終的に発表されると思うぞ」
「えー、何ですかそれ」
「そうしないと、皇国が大華連邦が後ろに控えるユーグと全面戦争を始めることになる。そんなことを皇国民は
「なんだ。怖い思いをして損した」
「吉田少尉、初めての実戦で怖い思いをしたかもしれませんが、次に実戦が発生したとしても、ワンセブンが操るX-71が危険な状態に陥ることは有りませんから安心してください」
「大尉はワンセブンの生みの親だから、信頼するのも分かるけど」
「それでしたら、吉田少尉。少尉の資産運用をワンセブンに任せればどうです。今回のように戦いがあればその分収益が上がります。怖い思いをしても自分のお金が増えているならその分怖さも減るでしょう。艦長は昨日から今日にかけて流動資産総額を3割は増やしていますよ」
「えー、それ、ほんとなんですか?」
「この騒動が起きる前に、俺の持っている流動資産の半分まで飛ばしてもいいとワンセブンに任せてたんだが、目立たないよう売りポジションをとらなくちゃいけなかった関係で、今回とったリスクはそこまで大きくはなかったようだ。仕込みがちょっと遅かったな」
「それで、艦長の流動資産の3割って!
それじゃあ、わたしは今月の俸給から運用してもらおう」
『少尉の口座番号などはすでに把握してますからお任せください』
「ワンセブン、わたしの口座番号を知ってるの?」
『個人IDもすべて把握しています。今からでも運用開始できます』
「ちょっとワンセブンが怖いんだけど。でも、どうしようかなー」
「涼子、高い配送料を払ってくだらないものを取り寄せるくらいなら、ワンセブンに運用してもらえ。ここにいれば衣食住全部タダなんだし遊びに行くところもない。有り金全部ワンセブンに渡しても大丈夫だろ? なんなら、俺が
「
「いいのか? お前、実家にちゃんと連絡できるのか?」
「その時は艦長が口を利いて下さいよ」
吉田少尉は、実は俺同様、国を代表するような名家のお嬢さまなのだが、何を考えたか実家を飛び出して、どうやってたどり着いたのか民間人立ち入り禁止のこの
涼子の時も訳の分からない人事の対応だったが、今から考えれば、あれは涼子の実家が手を回したに違いない。山田大尉の場合は、ワンセブンが一枚噛んでいたのは確実だ。
俺の下で、俺のために働くというワンセブン。今の俺にどんな目的があるのか俺にも分からないが、俺が自分の目的を達成すれば、それが皇国の為になるという。
艦を降りた俺たちは、雑談をしながら実験部の事務所に戻った。戦闘服から普段の制服に着替えた俺は、自席で吉田少尉の淹れてくれた緑茶を飲みながらしばらくゆっくりしていた。お茶を半分ほど飲んだところでメールの着信音が鳴り、執務机の上のモニターにアラートが出た。着信音だけでなくアラートとはよほど重要なメールなのだろう。
「なんだ? 航宙軍本部から? なんで? 読めばわかるか」
『発:航宙軍本部 宛:実験部、村田秀樹中佐
至急航宙軍本部に出頭されたし。移動手段については一任する
命令番号、SO:XXXX-XXXXXXXX』
ほう、命令番号の分類記号がSOってことは出頭命令ではなく召喚命令か。竜宮の英雄の俺を航宙軍本部が召喚するのか。おもしろい。これも、ワンセブンは読んでいたのか?
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