「死出密室島連続殺人事件」
ろわぬ
第1話
連続短編小説
「死出密室島連続殺人事件」
作:ろわぬ
「ズシッ」
鈍い音と共に、ボウガンの矢が男に刺さる
鮎人
「・・・これで二人目か」
俺たち滄城(そうじょう)学園の演劇部が、
この島に来てから一週間が経った
その間に、すでに俺たちの仲間が四人死んだ
鮎人
「へー ここが 死手(しで)島か。
思ったより何もないんだな」
景子
「ほら 文句言わない。
鮎人はオマケなんだから」
我が愛する母校、滄城学園演劇部は、
毎年秋に開催される、
全国高校生演劇グランプリに
出品する作品の撮影をかねて、
部員全員で、この京都沿岸から
ほど近い場所にある、
死出島までやってきた
鮎人
「・・・
あれ?
俺たちが泊まるホテルってなんて名前だっけ?」
弘也(ひろや)
「たしか...
死出島サンセットホテル、
だったと思うんだけど」
俺の名前は、
"並河 鮎人(なみかわ あゆと)"
滄城学園の生徒で、
今回は幼馴染の景子に誘われて、
この島にやって来た
部員でもなんでもない俺が
なんで誘われたかと言うと、
今回撮影する映画
"島渡る鳥の声"
の登場人物のイメージが
どうも俺に当てはまる、と言う事で、
わざわざ演劇部の部長で、
脚本家でもある
風間 宏美(かざま ひろみ)先輩に
景子が頼まれて、
俺を誘ってきたらしい。
正直あまり演劇部の部員とは面識がないだけに、
はじめは断ろうかとも思ったが、
風間先輩の
「宿泊費用は、全部私たちでもちます」
という一言に釣られ、
結局この島まで来ることになった
景子
「鮎人、なんかずい分眠たそうじゃない?」
鮎人
「いや...
俺旅行とかする事めったにないからさ。
昨日はあんまり眠れなかったんだよね」
弘也
「ははー
お前もしかして風間先輩の事が気になって
眠れなかったんじゃないだろうな」
鮎人
「・・・
なに言ってんだよ」
素っ気なくそう、弘也には答えたが、
正直この学園の男で、
風間先輩の事が気にならない男はいないだろう。
演劇部の部長にして、生徒会長を兼任し、
容姿端麗にして、それでいて、
気取ったところがない。
男なら誰でも風間先輩に対して
何かしら、特別な雰囲気を感じると思う。
弘也
「ダメダメ。 風間先輩は俺が狙ってるんだから」
こいつの名前は
"城ケ崎 弘也(じょうがさき ひろや)"
俺とは中学校時代からの腐れ縁で、
なぜか気づくと隣にいる。
鮎人
「・・・
そんな事言ったって、
風間先輩を狙ってるのは
お前だけじゃないだろ?
国東(くにさき)先輩と何かあるって
噂もあるし...」
弘也
「ば、馬鹿! お前」
国東
「おい 並河。
俺と風間がなんだって?」
鮎人
「国東先輩!
い、 いや あれ?
おかしいな」
国東
「・・・
どっから聞きつけたんだか
知らんが、
余計な噂たてるなよ?
俺たちは同じ演劇部なんだから」
そう言うと、国東先輩は前を歩いていた
俺たちを追い抜いて、
足早にホテルの方へ向かって行った。
鮎人
「・・・
びっくりしたー。
まさか国東先輩後ろにいたなんて。」
弘也
「あの人、存在感が薄いからな。
顔とスタイルはいいんだけど」
港から、ホテルまではあまり距離が無いので、
俺たちは歩いてホテルに向かう。
他の部員たちはすでに、前の日からホテルに到着しているらしい。
夕暮れの海岸線沿いの道を、
三人で歩く。
人があまりいないせいか、
嫌でも景色が目に入る。
夕暮れの紅い日差しが、コバルトブルーの海に反射して、
なおさら、風情を感じさせる。
鮎人
「こんなところに恋人と一緒に来たら素敵だろうな」
そんな事を考えつつ、
海岸線を歩く
鮎人
「風間先輩って、特定の彼氏とかいるのかな、
・・・
あれだけの容姿だもんな。
彼氏がいてもおかしくはないよな」
鮎人
「けっこう夏休みに意外と
付き合うやつらって多いんだよなー」
そんな事を考えつつ、歩いていると、
後ろから声をかけられた
景子
「なにボケっとしてるの?
・・・
分かった。 お腹空いてるんでしょ?」
鮎人
「・・・
別に。」
適当にそう返事をすると、
景子は
「おもしろくないヤツ」
と言う表情を浮かべ、
そのまま弘也と話し込んでいる。
後ろから二人について行き、
あらぬ想像が、頭をよぎる。
鮎人
「景子って、よく考えると
けっこう美人なんだよなー
昔から隣にいるのが当たり前で、
全然恋愛だとか考えたことはないけど...
それにこいつ、ビッチだしな。
この年で百人斬りしたって
この間自分で言ってたし...
でも隙あれば俺もイケるかもな」
そうこうしているうちに、ホテルへ到着した。
景子
「うわー すごいきれい」
弘也
「へー 意外と和風じゃん」
ホテル、と言えば、
聞こえはいいが、
この造りを見ると
ホテル、と言うよりかは、
民宿、という言葉があてはまりそうだ。
弘也
「今回はウチの演劇部で貸し切りだって言ってたよな?」
景子が受付を済ませ、
戻ってくる。
景子
「2階の角部屋の"紫陽花(あじさい)の間"だって」
弘也
「部屋の名前は 花の名前なんだ。
いいじゃん」
二階に上がり、廊下を歩いていく。
鮎人
「へー 部屋の数はけっこうあるな」
弘也
「ウチは部員も多いからな。
それに今回はお前みたいな、
部員じゃない人間も何人かはいるからな。
こんくらいないと、部屋足らないんじゃないか?」
「ドンッ」
突然後ろからぶつかられた
慌ててぶつかられた方を見ると、
そこには、
無言で眼帯をしている、女が立っていた。
景子
「桐島先輩!」
桐島 洋子
「ちょっと アンタ 新入生?
ちゃんと前向いて歩いてよ」
鮎人
「・・・」
先にぶつかって来たのはそっちだろ!
と思わず言いそうになったが、
一応先輩らしいので、
ここは抑える。
弘也
「その眼帯なんスか?」
桐島 洋子
「・・・
役作りにちょっとね」
弘也
「へー もう入り込んでるんだ すげー」
桐島 洋子
「悪いけど、私、宏美とこれから打ち合わせがあるから」
そう言うと、洋子は足早に俺たちの前を通り過ぎて行った
鮎人
「・・・
なんなんだよ、あの人
人にぶつかって謝りもしないで」
弘也
「・・・
あの人は、ああ言う人なの」
鮎人
「・・・
何だよ、
ああ言う、って」
弘也
「一度役作りに集中したら、
周りが全然見えなくなる。
すごいんだぜ?
あの人」
鮎人
「・・・
ふーん」
景子
「牡丹の間、雛菊の間、
紫陽花の間...
あっ ここみたい」
二階のちょうど角部屋にあたる、
紫陽花の間。
どうやらここが俺たちの部屋らしい。
古めの趣(おもむき)がありそうな
襖(ふすま)を開けると、
そこには、女性が二人いた。
風間 宏美(かざま ひろみ)
「あ、 そろそろ来る頃だと思ったけど」
弘也
「風間先輩!」
中にいる女性は、一人は、風間先輩、
そしてもう一人は、
桐島 洋子(きりしま ようこ)
「さっきはごめんなさい」
洋子は開口一番、
先ほど俺にぶつかったことを謝罪してきた。
思ったより悪い人じゃないのかもしれない。
鮎人
「い、いや、 こっちこそボケっとしててすいません!」
洋子
「いえ、 構わないから。 部員じゃないものね。
周りが見えないのも仕方がないでしょ」
鮎人
「・・・」
少しぶっきらぼうな話し方に面を食らったが、
一応は謝罪しているらしい。
無駄に騒いでも仕方がないので、
一応軽く会釈をして、荷物を置く。
弘也
「か、風間先輩! どうしてこの部屋に?
もしかして俺たち一緒の部屋って事?」
風間 宏美
「・・・
別にそういう訳じゃないです。」
博也
「・・・
な、
じゃ、
なんでここに?」
宏美
「今回の撮影は、部外の人が多いでしょ?
部員だったらあらかじめ
説明しておけば平気だけど、
部の外の人じゃ色々分からない事も多いでしょ?
だから部長の私と、副部長の桐島さんで、
説明をしておこうと思って」
弘也
「へー そうなんスね」
宏美
「あなたが並河 鮎人くん?」
鮎人
「あ、 ハ、ハイ」
宏美
「今回わざわざ来てもらって、ありがとうございます」
"ありがとうございます"
普段聞きなれている言葉だが、
風間先輩の口からそれが聞こえてくると、
やたら新鮮に感じる
桐島
「・・・
アンタ話聞いてんの?」
鮎人
「あ、 ハイ」
桐島
「・・・
ならいいけど」
どうもこの人はかなり口が良くないようだ。
鮎人
「(こいつは頭おかしい、こいつは頭おかしい、こいつは頭おかしい...)」
頭の中で三回数え、
怒りをこらえる。
桐島
「・・・
アンタずい分面白い顔してるね」
鮎人
「え?」
桐島
「考えてる事が表情にすごい出てる
ねえ? 宏美」
宏美
「・・・
まあ演技してもらうなら、
それくらい表情に出た方が、
カメラ写りもいいかもね」
そんな顔に出てたかな、
そう考えている間に、
風間先輩が説明を続ける
宏美
「せっかく来てもらったところで悪いけど、
今回はかなり巻きでやってるから、
あまり時間に余裕がないの。
時間がないから手短に説明させてもらいます」
弘也
「あれ? なんか他の部員があんまり見当たらないみたいだけど・・・」
宏美
「他の部員は撮影が終わって、ほとんど帰りました」
博也
「そうなんスか? じゃ、今島にいるのは俺たちだけ?」
宏美
「・・・
一応十人くらいは残ってるけど。
今回の撮影は大人数だから、
宿泊費用も負担がかかるから、
効率的に予定を組んで、
撮影が終わった人から順番に
帰っていってもらってるの」
弘也
「はー
さすが風間先輩!
天才スね!」
弘也が宏美にそう言うと、
宏美は少し遠慮がちに笑った。
鮎人
「(うわー 笑うとなおさら美人だな)」
緩んだ表情で、風間先輩を眺めていると、
別の方から視線を感じる
桐島 洋子
「・・・
アンタ今変な事考えてたろ?」
鮎人
「い、いや」
桐島 洋子
「駄目だよー? 変なこと考えたら
宏美は国東君と...」
宏美
「ちょっと!」
洋子が言い終える前にそれを止めようと、
宏美が洋子の言葉を遮(さえぎ)る。
宏美
「変な事言わないでよ! 私と国東君は何でもないんだから!」
洋子
「あれ~?
そんな事言っていいのかなー?」
宏美
「な、なに」
洋子
「私この間見たんだけどなー
宏美と国東君が、
向こうの堤防で二人で歩いてるとこ」
宏美
「・・・」
洋子がそう言ったが、宏美は何も言わなかった。
内心、早めの夏が終わって、
恋の空は曇り空だな、
そんな事を思いつつ、
すでに俺の興味は、桐島洋子に移っていた。
鮎人
「(宏美がダメなら、なんとか洋子だけでも・・・
最悪景子もいる)」
弘也の方を見ると、
相変わらず能天気な顔をして、
風間先輩のご機嫌取りに夢中だ。
ある程度細かな説明を終え、
どうやらそろそろ説明の方も終わりの様だ。
風間 宏美
「で、これから撮影のために、
並河くんには、30分後に
向こうに見える岬の入り口まで来てほしいんだけど...」
すでに俺の興味は宏美から洋子に移っている。
鮎人
「30分? ずいぶん急だなー」
宏美
「ごめんなさい。 今回人数も多いから、
スケジュール調整が難しくて...
ギリギリでやってもらわないと
予算の方もちょっとね。」
俺が少し嫌な表情を見せると、
横から景子が俺たちの話に割り込んできた
景子
「ちょっとー アンタはオマケなんだから、
ちゃっちゃと言う事聞きなさい!」
鮎人
「い、いや 特に何にも言ってないけど」
景子
「アンタは無料(タダ)で来てんだから、
文句言わない!」
鮎人
「わ、分かってるって」
内心
「ビッチの癖しやがって...」
と思ったが、
顔には出さない。
宏美が潰れた以上、
俺の望みは、洋子、そして保険の景子だけだ。
宏美
「じゃ、30分後に岬の入り口に集合ね。」
鮎人
「あ、ハイ」
宏美
「スタッフはこっちで連れて置いておくから」
そう言うと、
宏美は席を立ち、俺たちの部屋から出て行った...
洋子も一緒に席を立っていったが、
俺の前を通り過ぎ、その去り際、
洋子
「・・・
アンタ面白いねー
考えてる事が全部表情に出てるから。
言っとくけどアタシは無理だよ」
鮎人
「な...」
洋子
「言わなくても分かるって。
こーんな顔してたから。
悪い事は言わないから、
余計な考えはあきらめた方がいいね」
そう言い、洋子と宏美は部屋を出て行った...
鮎人
「(洋子も無理か。 じゃあ景子しかないな)」
そう思いながら、岬に行く準備を整える...
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