誤植から始まるスキル無双 ~球でも投げてろとギルドを追放された僕の【シンカー】ですが、実は女神の誤字で【進化】でした なにこれチートすぎる~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

第1話 僕のスキルは”シンカー”です! え、クビ?

 

 ひゅっ……がつんっ!


 思いっきり投げた石は、外側に曲がって落ち……複雑な軌道を描いて床で弾んだ。


「よしっ!」


 スキルの発動は完璧だ。

 手に入った”ユニークスキル”に、思わず頬が緩む。


「……んでぇ? ソイツが何の役に立つんだよぉ、ノインんんんっ!?」


 背後から、ねちっこい声が掛けられる。

 ギルドマスターのポンコさんだ。


「ポンコさん、コイツの”シンカー”、ボール状のアイテムにしか使えないそうですぜ!」

「ギャハハハハ! ”ユニークスキル”がコレとかマジかよ! おいノイン、キン○マでも投げてろ!」

「ぶふぉっ!? ちょっ、お前、笑わせんなよ! ”女神付き”のくせに運悪すぎだろ!」


 取り巻き冒険者たちの爆笑が聞こえる。


「い、いやっ……球形の物になら何でも効くんで、鉄球を使ってモンスターへの不意打ち、とか……しちゃったり……」


 必死に”スキル”の利点を説明しようとするけど、次第に声が小さくなってしまう。


 ああそうだ! 僕だってわかっているよ!

 このユニークスキルがことくらい!


「くくくくくっっ……なぁあノイン?

 お前が希少な”女神付き”だったからぁ、”ユニークスキル”の発現まで待ってやったがあぁぁあ」


「ギルドの”枠”もあるしぃぃい……俺らは生ゴミを雇う慈善団体じゃねえええんだよぉ」


 ポンコさんのネトネトした喋りが加速する。


「つまりぃ……てめぇはクビだぁ! 出て行きなぁ!!」


 がちゃん!


「「「ギャハハハハ!!」」」


 馬鹿笑いと共にギルドのドアが閉まり、僕は通りに放り出された。



 ***  ***


「くっそぉ……”女神付き”になってから3年、せっかく勝ち組の”冒険者”になれたと思ったのに」

「これじゃまた貧乏生活に逆戻りだ~っ!」


 短く切りそろえた赤毛をかきむしりながら叫ぶ。


 残念ながら、僕はまだ”試用期間中”の冒険者。

 ギルドマスターの権限で契約を解除できるのだ。


「やべぇ、とりあえず今月の家賃どうしよ……もう今週の国王杯に全財産を賭けるしか」

「いやっ、それならF○の方が……」


 王立競馬場で今週行われる競馬、果てはヤバイと噂の先物取引まで……どう見ても分の悪い金策しか思い浮かばない。

 冒険者になったという事でつい買ってしまった聖剣エクスカリバー (36回ローン)の支払いもあるのだ。


「おおおおぉぉぉお……」


 下宿に戻り、ヤ○中の浮浪者のようにプルプル震えている僕の脳裏に、能天気かつ爽やかな声が聞こえる。



『やっほ~! 元気してる?』



 ぱぽん!


 安物のポップコーンが弾けるような、気の抜けた音と共に一人の少女が


「ユーノちゃんさんじょ……ぶべらっ!?」


 ……現れるなり躓いて床とキスをした。


 ばさっ。


 ボリュームの多い緑髪とひらひらとした衣装が床にべちょりと伸びる。


「…………」


 無様な様子にため息すら出ない。


「ぶっへえええぇ! びっくりしたぁ!!」


 床に伸びていた少女……ユーノが陸に打ち上げられたマーマンのような動きで飛び起きる。


「何もしなくていいから帰れ」


「カミソリのような拒絶!?」


「いやいや、わたし女神ちゃんとして、ノインに授けたユニークスキルのアフターサポートに来たんですっ!」

「邪険にしないで~~わたし、後が無いのっ」


 よよよ……しがみついてくるユーノ。


 ふわふわと広がるたっぷりの緑髪。

 おっとりとした大きな瞳は若草色。


 すらりとした体躯を赤青白の華やかなジャケットとスカートが包む。

 ひらひらと羽のように拡がる衣装は、確かに”女神”という言葉にふさわしい美少女なのだけれど。


「……はぁ、これで胸が小さければなぁ」


 清楚な雰囲気に似合わない巨大なふくらみを一瞥し、ため息を漏らす。


「わたしの武器を一刀両断!?」


 ズガーン、とショックを受けているこの子はユーノ。

 3年前に降臨した僕付きの女神である。


「アフターサポートに来てくれたのはいいけど、”シンカー”ってなに……球を自在なコースで投げられる、って冒険者として何の役に立つんだよ?」


「マジで勘弁してくれよ、ユーノぉ……」


 仕事熱心なのはいい事だけど、冒険者を目指していることは何度も伝えたはず。

 ”1つしかもらえない”ユニークスキルにこんな謎スキルを授けてくれるなんて……文句を言っても許されると思う。


「……へっ?」


 僕の言葉に、なぜかポカンとした表情を浮かべるユーノ。


「えっ……はっ? そ、そんなはずは……女神人生のすべてを掛けた、天界に並ぶもの無しなスーパースキルですよですよ?」


「ちょ、ちょっとステータス見せてっ!」


 シュンッ!


 慌てた様子で僕の”ステータス”を表示するユーノ。


「……あっ」


「”あっ”……?」


 僕のステータスを見るなり、絶句するユーノ。

 脂汗をダラダラ流している。


「しぃまったあああああっ! SSランク超スキル”進化”を授けるはずが、誤字って”シンカー”付けちゃったぁぁぁあああ!?」


「おいいいいいいっ!」


 ぺこん!


「へうっ!?」


 あんまりな事を絶叫するユーノに、思わず僕の全力ツッコミが炸裂したのだった。

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